ノスタルジイと病熱

数年ぶりに熱を出した。
そうか、熱が出るとはこういう感覚だったなと、
久しぶりの苦痛を噛み締めながらベッドに沈んでみる。体の節々が痛み、やはりこれは思い出さなくて良い事象であったと、投げやりな気持ちを舌打ちに変えて、ぐっと飲み込んだ。夜はまだ長い。

発熱の感覚を懐かしいと感じるほど、
私は、私の人生を忘れていく。
辛かったことも嬉しかったことも、
毎日当たり前に通っていた帰り道でさえ、
離れれば風化し、当時の感覚は何処かへ置き去りになってしまう。

しかしそれは悲しいことではない。
ときどき何かの拍子で思い出した感覚の粒に、
私たちは「ノスタルジイ」という名前をつけて、
味わうことができる。

だからといって今夜の発熱を楽しめるほど、私は自分の身体感覚から自由にはなれないのだけれど。こころとからだ、ケンカせずに仲良く生きていけたらいいのにね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?