プレアデス
急に心が動かなくなった。ほんとは急じゃないの。私、知ってるよ。心が体を引き摺っている所為で、当然のように体は動かず、鉛のように腕が背中が足が重く、ああ何もしたくない死にたい死にたい死にたい。雨の音、桜の散る音、あれ今って何月だっけ。そんなの8月に決まってるじゃないか。なんだ、もうすぐ誕生日か。プレアデスが耳元で囁く。大丈夫、いつでも死んでいいんだよ。
いやでも死にたいわけじゃないんだよ。耳を胸のところに持っていってあげてね、ちゃんとこう、心音というのかしら、心の声を聞いてあげると此の子は死にたいなんて一言も言っていないの。ただ私が、此の子が発している言葉を理解するのを億劫だと思っている、だから死にたいってことにしているだけ。たったそれだけのことなんだ。可笑しいでしょう。死ななきゃいけないのは案外私かもしれないネ。
どうにか起き上がって洗面所に向かったら、鏡の向こうに醜悪な何かが居て殴りたくなった。殴ればいいのに殴らなかったし、私は何がしたいのだろう。此の子の意思はどこに向かっている?もちろん鏡はそんなこと教えてくれない。その代わり私は私と会話を始める。
安定しているときの私はクソつまらない人間だったでしょう。今これを書いてる私もクソつまらないのだけど、何というか評価基準の違うつまらなさ。何でもできると息巻いておきながら、赤信号を無視したくらいで肩で風を切ってしまうような、渋谷の路地に吹き溜まる風のような本当につまらない人間。人間。人間。どうしようもないくらい人間をやめられないの。悲しいね。
結局行き着く先は袋小路だから、私は此の子の意思もろとも消えて消滅したい。そうすれば永遠に繰り返すこんな波もなくなって、穏やかな凪がプレアデスにもやってくるんだ。今も未来は青白く光ってる。君が教えてくれた希望の色で、蜃気楼のように光り続けている。
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