mer

私たちは毎日、死を食べる。
死はあるときは加工され、あるときは晒され、
またあるときには廃棄される。
ほんのひと月前の死の記憶すら無くした私たちは
それでも今日の死に想いを馳せる。

私の死にたいは、たくさんの死の上に成り立っている。それはつまり、同化願望だ。誰かが私を食べることで、私はようやく死を選ぶことができる。逆を言うと、誰にも咀嚼されず、消化もされない人間にとって、本当の死は一生祈り続けても訪れない。

だから私は、死なない。毎日毎日、どれだけ死を想っていても、決して死ぬことはない。生きたまま化石になってしまう前に、いつか誰かに、きちんと息の根を止めてもらいたい。味付けなんてしなくていいから、そのままの私を、しっかり噛んで、飲み下してほしい。

網膜で線香花火が弾けて、意識がすっと戻る。私はキッチンに立っていた。
換気扇の「弱」を「切」に変えた私を、
フライパンの上で少し焦げた肉が不思議そうに見上げていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?