ディベート甲子園「名講評・判定」スピーチ“列伝”第八回 坂田好保さん

第24回全国中学・高校ディベート選手権(ディベート甲子園)
中学の部・決勝戦 講評・判定
[論題]
「日本はタクシーに関する規制を大幅に緩和すべきである。是か非か」
 *ここでいうタクシーとはタクシー、ハイヤーを指す。
 *タクシー事業者に対する参入、需給調整、事業の休廃止、運賃に関する 規制を撤廃する。
 *タクシー事業者以外が自家用車等による有償旅客運送を行うことを認め、運転するものは普通第二種免許を受けずともよいものとする

肯定側 東海中学校 否定側 創価中学校
主審・坂田好保さん(全国教室ディベート連盟 中国四国支部長)
動画はこちら

第1部 講評・判定スピーチ■

<1.> 講評

それでは、まずはここにお集りの皆様、こんにちは。私はここにもあります通り、全国教室ディベート連盟、中国・四国支部長を仰せつかっております坂田と申します。精一杯講評させていただこうと思いますのでよろしくお願いいたします。

まず、講評に入る前にあたって先ほどから同じビデオが2回ほど流れた…試合前、でこの講評の前2回流れたと思います。そこに中高合わせて50校以上という数字が1つ出て参りました。で、今回の中学生の全国の参加数、つまり予選に出場した学校の数を全部合わせると、中学だけで57校です。その57校の内の最後まで勝ち上がってきた2校、肯定側東海中学校、否定側創価中学校という。本当に熾烈です。

私自身は普段といいますか本業ですね、本業は高校の教員をしております。ですので、ここに生徒がやってくるまでの当然苦労であるとかそういうの、まあかつては引率という立場もしておりましたので、そういうような苦労もそうですし、あとこれを支えてくださっている方は当然57校ということは選手だけで、そうですね…300人くらいになるんですか?

全部で言うと。ということはそこに関わる当然保護者の方、周りのいろんな方を含めると一体何人になるのやら、というそれだけの方、であとこの会を支えてくださっている例えば主催・読売新聞社様であるとか、この会場を貸してくださっている立教大学様であるとか、、、本当にいろんな方に支えていただいている大会です。

特に今日は祭日、山の日ということもあって保護者の方も多数お見えになっている。で実際生徒がやっている姿をご覧になられて感動されている方もいるんではないのかな?と多少思ってはおります。本当にこう、いろんな方にまずは最大限の感謝の意と賛辞をまずは送りたい。で、特にそこでまた勝ち上がったこの2校、本当によく努力をし議論を練り上げて、ここまで勝ち残ったわけです。本当にそれだけでも最大限の賛辞を送って良いんではなかろうかという風に思います。まずは両校、健闘を称えて全員で拍手をしていただければという風に思います。

<1.1> ジャッジも本当に緊張する

それでは気になる、判定という事になると思いますので…これ実はね、私も緊張してるんです。なかなかこういうね、何百人という場で話す機会ってそう多いわけではない、まあほぼ無いと言っても過言ではない。でここに(15歳、14歳、ひょっとしたら13?12歳いるかな?いないか。)その年齢でここに立つというこの独特の緊張感、一生のうちにそう味わえないですよ、選手の皆さん。本当にそれだけでも経験だと思います。

もちろんその独特の緊張感の中で、上手くいったところもあるだろうし、「もっとこうできたのにな」というのもあるんではなかろうかと思います。
実際ジャッジが後で判定を出す際にもいくつか…ジャッジって本当に酷ですよね、そう考えると。「もっと上を目指しましょう」という事をここで言うわけですから、本当に酷な事だと思うんだけれども、もちろんこれ中学生ということはまだまだ次高校もあるし、且つまたその後ですね、大学以降もまだまだチャンスはあるので、そういう風に1つ自分を成長させる場として受け取ってもらえれば良いんではなかろうかと思います。

さあそれでは具体的に判定の方に近づけていきますが、まずはコミュニケーションの部分。先ほど前振り的にお話をした部分ではあるんですけども、やっぱり緊張はしたと思います。今私が緊張しているよりもっと緊張したんじゃなかろうかな、と思うんですけれども、そういう中で、どうしても自分たちの「言いたいこと」は沢山あったはずです。でもそれをジャッジが聞いてる側としてどれだけ聞いてもらえたかな?ということをもちろん意識はしていたんだろうけれども、どうしても速くなった部分はあるんじゃないかな?これは肯定側も否定側も。どうしてもそれは否定はできないところだと思います。

<2.> 判定

<2.1> コミュニケーション点ならびにアドバイス

ということで、まずはコミュニケーション点の発表から行きたいと思います。
これ自体が得票数に直接関わるわけではありません。一応初めてご覧になられる方もおられるかもしれませんので大枠だけ説明しておくと、ジャッジ1人が5点満点。それぞれパートが立論・質疑・応答・第一反駁・第二反駁、という5つの部分に関してそれぞれ独自に1点~5点までの幅で点数をつけると。普通という値がそうすると3(1~5ですから)、中央値が3ということで、良ければ4、5、もっと頑張ってくれっていうのは2、1といろいろ付けていくわけです。で、ジャッジ5人なのでそれぞれの部分が満点が25、最低は5ですね。5~25の点数が付くということになります。まずはそれから発表いたします。

肯定側です。
順番に立論・質疑・応答・第一反駁・第二反駁、マナー点の減点という部分もあります。それを差し引いて合計点ということになります。
ではいきます。

肯定側
立論:19点
質疑:19点
応答:17点
第一反駁:13点
第二反駁:18点
マナー点の減点が0で合計が86
19、19、17、13、18、マナー点の減点が0で86。
肯定の第一反駁は大変なんです。否定の第一反駁は、肯定側の立論に対してだけの反駁なんだけれども、その否定側の第一反駁と否定側の立論に対して、両方に対して反駁をしなければならない非常に(タクシー運転手じゃないけど)過重労働なんですね(笑)
だからどうしても速くなってしまったところはあったかもしれません。

はい、では行きましょう。今度は否定側です。同じく立論から。

否定側
立論:17点
質疑:16点
応答:19点
第一反駁:18点
第二反駁:11点
マナー点の減点0で合計が81点

17、16、19、18、11、マナー点の減点0で合計が81。

これも第二反駁の人もそうかな?やっぱり自分の「想い」がすごくあったんだろうと思います。何を伝えたいのかという想いはすごくあったんだろうけど、その思いが逆に言葉にしきれなかったかな、上手く言葉に伝わっていかなかったかな、というところはあったかもしれません。

ということで、どうしてもこのディベートという競技、自分たちの言いたいことがある分だけどうしても速くなりがちな部分もあるんですが、例えばあるジャッジさんからこのようなアドバイスをいただいております。

立論段階でも例えば立論の1番最初、いわゆる題にあたる所ですね。例えばメリットでは、「地方の交通問題を解消する」。今このペースだと聞き取れると思うんですけれども、そういう風に「絶対に聞いてもらいたいところ」はちょっとゆっくり言ってあげるであるとか、あと例えば証拠資料。どうしても証拠資料って長くなりがちなところがあるので、そこを「どこが切れ目か」。例えば「。」のところ。句点が絶対ありますよね?「。」のところをちょっと1回切る、とか。それだけでも「あっここで切れる」。

聞いている側はどうしてもいつまでもダラダラダラダラダラっと話が続いちゃうと、やっぱり「えぇ…これどこまで書かなきゃいけないんだ?」っていう風な感じになってしまいがちです。なので、ちょっとそういう意識的に少し緩めるところであるとか、切るところであるとか、ほんの少しでもそういう事があるだけでも聞いている方は変わってきます。

<2.2> 論点評価: メリットの評価

さあ、それでは具体的に議論の中身に入っていきたいという風に思います。
先ほどちょっとメリットは紹介いたしました、「地方の交通問題を解消する」というメリット。肯定側、東海中学校ですね。

まず現状として、どうしても今の日本、特にこれは地方の話という案が出てきましたけれども、地方交通問題、地方の話ということで、地方に関して言うと、なかなか交通手段が無いんだと。いわゆるバスであるとかそういう交通手段が無くて買い物に行けない、通院ができない、そうなると日常生活を送るのも大変な状況になってしまうんです。そこで特にピックアップしたのが買い物困難という事を具体的な例として挙げていただきました。フードデザートという(いきなりこの言葉を言うと、結構聞いてる方はびっくりする。食の砂漠化という多分日本語があるはずなんですけれども)、いわゆる買い物に行けないから食べる物もなかなか買いに行くチャンスが無い、どうしても栄養が落ちがちになってしまう、低栄養化という言葉も出てきましたけども、そういうような何もない状況。砂漠ですからね。本当に砂しかない状況になってしまう、そういうような言葉。そういうような状況になってしまっているんだ。

それを解消するためにこの規制を緩和しようという事で、特に焦点が当たっていたのがライドシェアという、有償旅客運送…だったかな?という、現状で言うと免許が必要な、特殊なね、二種免許という特殊な免許が必要なタクシーではなくて、バスではなくて、自分の隙間時間、まああの発生時間といういわゆるどういうプロセスで発生をしているかという所でも述べられていたんですがメリットが。隙間時間、退職後の人であるとか、休日ちょっと乗せてあげようかというような人。そういうような人が車を出してくれる、車を使って連れて行ってくれる、そういうところで、買い物ができない、栄養が摂れない、食べ物が食べられないという現象は解消していくだろう。で実際に海外、例えばアメリカの話であるとか、フランスの具体的にシャンパーニュという(ワインで有名な、まあシャンパンですよね、ワインの1種ですけど)そういうような海外の実例を使いながらそうやって立証をして試みたのが肯定側です。

それに対してもちろん今度は反駁があって、じゃあジャッジがどのように評価をしているのか、肯定側のメリットに対して。重要性としては、社会生活が送るのが大変、これは大変な状況ですよと。だからそれを送れるようにしてあげましょう、という事だったんですが、いくつかの反駁があってそれを含めてジャッジがどのように評価をしているのか?

まずは否定側いきます。
否定側としては、大きくは…大きく言うと2つかな?
まずは、「買い物ができないという状況は、別に交通手段が無いことが原因ではないですよ」と。実は例えば駅前の人も結構いるんですと。そういう風になるといわゆるひきこもり状態であるとか、いわゆるよく言葉で聞いたことがあるかもしれません、独居老人という言葉も出てたと思います。そういうようなところで、別に交通手段がある無いという事が根本的な問題ではないですよ。地域社会が崩壊しているであるとか、核家族化であるとか、そういう社会全体の問題というものが実は影響していて、交通手段の問題ではないですよ、という事が1点。

もう1点は、現状でも解決策がありますよと。いわゆる乗り合いタクシーの話が出てたと思うんですけれども、その乗り合いタクシーが実は1万台以上かな?11,000何台という風にあるんですけれども、そのように現状でも解決策がある。だからわざわざこのプラン、導入しなくても問題にはならないですよね。問題っていうのはいずれ解消していきますよね。…という風な反駁がありました。

大きくはそういう2点、もう1点ごめんなさい。3点ですね。
日常には実はこれライドシェアって、乗る人少ないですよという事です。これももう1点入れておかなければいけないかと思います。
じゃあその部分でジャッジが、そういう事を含めてあとはまあ当然反駁、反駁という風に繰り返されていって、ジャッジがどのように評価をしているのか、という事になります。

という事でまずは、ジャッジ全体のまずメリット。多少程度差はありますが、メリットはまず結論から言うと大きく減ったなあ、というのが結論です。大きく減ったな。というのはなぜかというと、まずあるジャッジさんはこのように評価をしています。まずは立論段階に少し問題があったのかな。というのはどういうところかと言うと、先ほど重要性という言葉を申し上げたと思います。なぜそのメリットが大事なのかという部分ですね。なぜそのメリットが大事なのかというところで、その部分の説明がもうちょっと欲しかったかな…どういう点でとか、どれくらいの人というのがもうちょっと欲しかったかな、という、そういう話もありました。だから立論段階でメリットがどうなのかな?という話はあり…あったと言われたジャッジさんもいます。

あとはその反駁に対して、やっぱり反駁として、社会全体として問題はある、実は交通だけの問題ではないですよ。この部分に関してですね、あと現状での解決。これに関しても、多少資料の古い新しいていうのはあるんだけれども、現状で確かに手段はあるのかな?という。となると、メリットとしてどこまでこれを評価するのかというのは、大きくは評価はできないかな?ただしだからと言ってその交通問題が絶対影響が無いわけではないから、0ではないかな、という。0には否定側もしきれなかった。けどじゃあ肯定側の多分思い描いているほどのメリットの大きさではない、という。多少ジャッジによってその辺の評価が分かれています。
では、今度は否定側に移りましょう。

<2.3> 論点評価: デメリットの評価

では否定側です。
デメリット、「過当競争による弊害」。過当競争という言葉ですね。つまりタクシーと、今度ライドシェアという手段が出てくるから、それだけ競争が起こりますよという、二種なら二種なのかもしれませんけれど、競争が起こるという事で、現状でのタクシーというところに焦点を当てた時に、歩合制なんですよ。これが現状…いや発生過程というね。これもだからデメリットが発生していくプロセスで出てきた言葉ですが、現状ではいわゆる「どれだけ営業収入(つまりタクシーにお客さん乗せていくらお金を得たか)によって給料が決まるんです」と。これが歩合制ですね。で、それがアメリカニューヨークの例も挙げられたと思いますが、ライドシェアっていうこの手段が入ってくることによってどうしても台数が増えるんだと。台数が増えればそれだけ…当然台数が多くなれば、お客さんがその分増えれば良いですけれども単純にそうはいきませんから、台数だけがバーっと増えていけば当然お客さんの奪い合いになってしまう。奪い合いになることによって、収入というものが減る。


もう1つは収入を得ようとしてという話かな?得ようとして、事故が起こる。それだけ無茶なことをしてしまいかねない、という事ですね。
ということで、もちろん収入が下がってしまうという事と事故、今までだったら起きなかった事故が起こる、まあ起きなかったのかもしれないけれどもこういう事によって事故がまた更に出てしまうんではないかと。その証拠として、「規制緩和前と規制緩和後」という。タクシー業界というのは何回か規制緩和・規制をもう一回きつくする、という事があったんですね。そういう中で規制緩和前と規制緩和後という事を、例えば事故にしても収入にしても比較をしながら立証を試みた。これが否定側です。

じゃあその否定側に対してジャッジがどのように評価をしていくのかという事です。これも多少の差が生まれています。どういう差かと言うと、どうなのかな、あるのかなぁ?から、いくらかあるのかな?というところでジャッジの評価が否定側も分かれています。

あるジャッジさんはどのように評価をしたのか。このように仰いました。
このタクシー業界というのは要はプロドライバーですよね。それでお金を得ている。プロドライバーの話ですよと。でもこれ肯定側の言っている事っていうのは、あくまで隙間時間の話。隙間時間でちょっと乗せるとか退職後にちょっと乗せるとかっていう事ならいわゆるアマチュアと言えばアマチュアドライバーですね。そういう事に関して言うならば、これってアマチュアの話が必ずしも当てはまらないんじゃないの?だってこれプロの話をずうっと並べたんだよね、タクシーっていう業界の現状の。だから必ずしも当てはまらないんじゃないのかな。つまりこのデメリット自体ちょっと発生自体どうなのかな?と取ったジャッジさんもおられます。収入に関しても事故に関しても。

他のジャッジさんはこのように評価をしています。
収入に関してっていうと、ちょっとうーん、よくわかんない。だってこれは第一反駁でこのように言っています。「タクシーの運転手はこれから減っていきます」。でもこれ肯定側も大変な反駁だよね。だって台数減るんだよね。…だからちょっとね。あともう1つはUBERですよね、いわゆるライドシェアの会社ですけれども、96%の人は辞めるという。1年で。これって大丈夫?(笑)肯定側も実は自分で自分の首を締めているところが正直あるんですよね。

ただそういうところで言うと、台数が減っていくんだからそこまで収入に関してはどうなのかな?と言うんだけれども、先ほどのアマチュアの話。じゃあ事故に関してという事になると、じゃあアマチュアの部分はある程度あるのかな?と取ったジャッジさんもいる。という風に、メリットデメリットの評価がそのように分かれている、というところから実際の判定も分かれました。という事で、試合結果の発表をしたいと思います。

<2.4> 判定結果

それでは結果を発表します。
得票数は3対2です。
ではいきたいと思います。

3対2で、否定側 創価中学校の優勝となりました。おめでとうございます!

第2部 講評者へのインタビュー (編集部)

(編集部 久保)この度は、企画にご協力いただきまして、本当にありがとうございます。坂田先生は、今まで出てくださった審査員とは異なり、現役の教員であり、最も出場選手に近い存在でもあります。その意味で、教員ならではの視点があるなと思いました。

(講評・判定者 坂田)はじめに、この「ジャッジ列伝」に出場された方は、ほとんどの場合、ご自身でもディベート甲子園のOB含め、ディベートの試合に今でも出場されている方や、今は出ていないけど以前には出場されていた方だと思います。私自身はディベート甲子園に関わり始めたときはもうすでに教師をしていましたし、実は、私自身がディベートに触れたほとんどないのです。大学生の時にESSに所属していたので、その時にほんの少しだけ触れたくらいなんです。そのような私がここで話を披露するのは恥ずかしいのですが、お付き合い願えればと思います。

 伝える内容としては、必ずコミュニケーションの部分から触れるようにします。これは他のジャッジさんも同じでしょう。その中でも「滑舌と間」と「言葉遣い」の点は意識的に話します。

「滑舌と間」に関しては、もちろんスピードとの兼ね合いもあるのですが、多少スピードが速くなっても「滑舌」が良いと話が聴けます。そして適切に「間」をとってくれると、フローシートに落とせます。昔と比べて高速で話して、議論のドロップを狙うような試合はなくなりましたが、やはり、伝えたい内容が増えるとどうしてもスピードが速くなる。そのような選手のために「滑舌と間」については時々触れるようにしています。

「言葉遣い」についてですが、ディベートの試合で、例えば「現状分析」という言葉で表現されたものを、勝手に「内因性」や「固有性」という言葉に変えてしまう場面が散見されます。「現状分析」という言葉を使った側がちゃんと言い直している場合はまだいいのですが、言い直さず議論を進めていった場合は、必ず講評時に言葉の勝手な変換について触れます。なぜなら、言葉を勝手に言い換えるのは、議論の混乱の元になるからです。そして、それは自分たちが「伝えたい(話したい)」という気持ちが先走った時によく起こるのかなと思います。

今回取り上げていただいた、第24回ディベート甲子園の中学の決勝でも、肯定側の立論で、「有償旅客輸送の運転手は確保される」と述べながら、同じく肯定側の反駁で「タクシー(これも有償旅客輸送)の運転手が減るから、事故等の問題は解消される」とある。これだと、肯定側の言っていることに矛盾が生じています。このディベートの試合中やジャッジの判定では、この部分は問題の中心的扱いをされていないのですが、自分たちの「伝えたい」言葉だけに執着した結果、それがどのように伝わるかを意識していない証拠だと思います。

私は、ディベートはまず「聴く競技」だと伝えるようにしています。しっかり相手の話を聴いた上で、自分たちの伝えるべき事を伝えること、そしてその自分たちの伝えるべき事が、判定を出すジャッジにどのように「聴かれる」のかを意識して欲しいと思っています。よって、「滑舌と間」と「言葉遣い」という2点に触れるようになりました。

(久保)ディベートはまず「聴く競技」という視点は重要ですね。効果的な反駁をするためには、まず相手の話に耳を傾け、それをできる限り理解しようとしなければならないですよね。逆説的ですが、反論しようと思って聞くと誰よりも理解しなければならない。次に、講評・判定をする際に心がけていることはありますでしょうか。

(坂田)ジャッジとして講評・判定をする場合に心がけていることは、「できるだけ分かりやすく」議論になったところや議論すべきだったところを話すことです。

特に、ディベート専門の用語を中心にして、なるべく専門用語を使わないようにして話すようにしています。これは一種の「職業病」ですね。本業は学校の教員ですから、どうしても生徒に対して、できるだけ分かりやすく話すということがしみついている。本来なら生徒のディベート経験に合わせながら話すことを変えていくようにしたほうがいいのでしょうが、全国教室ディベート連盟の中国四国地区を預かる身として、地区予選やそれに向けての練習会などを見ていると、まだまだ議論の質のみならず、議論の構成や展開の仕方などもたどたどしい場合もあるので、専門用語をなるべく使わず、わかりやすくジャッジとしての講評判定を伝えるように心がけています。

(久保)専門用語をなるだけ使わないというのは、ジャッジがディベートコミュニティと他のコミュニティを繋ぐ存在であるために最も重要な要素でもありますね。専門用語が出るだけで、ぐっと参入障壁があがってしまうというのはディベートのみらなず仕事を含めた実社会でも良く感じます。それでは、今までのご経験の中でハプニングなどはありましたでしょうか。

(坂田)私が「ディベート甲子園」の地区予選のジャッジで始めて主審を務めた時(今から約20年前)の話です。

地区予選が終わった後に、その主審を務めた試合の負けた学校の先生から、「なぜ~~の話をとってくれなかったのか、ちゃんと言ったことはビデオに残っています。確認してください。」と詰め寄られたことがあります。まだ主審の講評にもあまり慣れていないころだったので、かなり動揺しました。

もちろん、その発言は生徒が述べたようにジャッジは3人とも理解していなかったので、結果が出た後にそんなことを言われても・・・とは思いましたが。しかし、それが先ほど述べたように、「言葉遣い」を大切にすることを伝えるようになったきっかけです。

(久保)それは確かにドキドキしてしまいますね。自分のことばを伝えるためには、相手が理解できるように話すというのは言われれば簡単ですが、本当に難しいですね。「言葉遣い」ひとつで印象は本当に変わりますよね。最後に、一言お願いできればと思います。

(坂田)勤務校の生徒の引率としてディベートと関わり始め、ディベートの大会に出場する生徒にジャッジの視点を伝えるべきだと感じたのが、ジャッジを引き受けるようになった理由です。そして今でもジャッジおよび全国教室ディベート連盟の1支部長を引き受けている理由は、生徒がディベートの準備及び試合を通じて、生徒が成長していく姿を見ることができるからです。

私が思う「ディベートって・・・」は「ディベートは人間成長の場」です。この言葉で締めくくらせていただこうと思います。ありがとうございました。



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