ディベート甲子園「名講評・判定」スピーチ“列伝”第七回 神永誠さん

第22回ディベート甲子園(2017) 中学の部 ・準決勝 第1試合
[論題]
「日本は小売店の深夜営業を禁止すべきである。是か非か」
*ここでいう小売店とは、商品を消費者に売る有人の店舗とし、飲食店を含む。ただし、ガ ソリンスタンドは除く。
*ここでいう深夜営業とは午後 10 時から午前 5 時までの販売、配送とする。
肯定側 いわき市立中央台北中学校 否定側 洛南高等学校附属中学校
主審・神永誠さん(全国教室ディベート連盟 関東支部副支部長)
動画はこちら

第1部 講評・判定スピーチ■

<1.> 講評

両チーム、ご見学の皆様、お疲れ様でございました。何度となく聞いてきた言葉だと思いますけれども、この言葉、私達も「疲れたなぁ」というのが正直なところです。はっきり申し上げましょう。「こんなに良いものを見せてくれてありがとう」というのがジャッジからのコメントです。

これ、お互いに議論を重ねてきたからこそ、ここまで白熱した議論でしたし、1つ1つの議論をわかりやすく、そして「何が本題なのか」という事を明確に提示してくれた試合だったと思います。

ゆえにこの試合、それぞれの本題に踏み込んで、ジャッジが悩んだ結果、割れました。それぞれのポイントを見ていく前に少しお話したいことがあります。

<1.1> ディベート甲子園ファンとして思うこと

1ファンとして、私自身もディベート甲子園出身者なんです。かわいい後輩達だなあと思うんですが・・・何だこのおじさんと思うかもしれませんが、こんなにディベート甲子園、長く続いて、そしてその中でどんどん良い議論が出されるようになって、試合の中で成長していく選手、選手を見守ってくださっている引率の方やその後ろで保護者の方、また戦ってきたチームがあること、これって素晴らしい環境だなと思っています。次の試合もあるからこういう話ってちょっとドキドキするかもしれませんけど、すごい重要なことで、その思いに応えるためにディベートをする、わけではないんですけれども、その皆さんが準備したものを精一杯発揮して試合に臨み全力を出せること、こういう事を示してくれれば周りにいる人達は多分皆さんに本当にありがとうと思います。


なかなか見る機会無いと思います。試合終わって、いま後ろを見てください。これだけ多くの人達が見てくれる環境、試合結果がどうなるんだろうと期待して待ってくれている環境ってなかなか無いですし、来年は絶対倒してやると思っている人達もいるかもしれませんし、次の試合でどうなるんだろうと思っている人もいるかもしれません。


そんな思いに「応えよう」と思うわけではなくとも、全力をぜひこの次の試合、ある学校についてはぜひ尽くしていただきたいですし、これ以降もディベートに、今のスタイルだけでなく色々なことを学びながらどんどん全力を尽くしてほしいなと思っていました。見ごたえのある試合でしたし、非常に見やすい、聞きやすい試合であったとジャッジとして理解しております。じゃあ、中身見ていきましょう。


<2.> 判定

<2.1> 論点評価: メリットの評価

肯定側、過重労働を解消しようという話でした。この部分、わかりやすかったんですよ。「今人手不足ですよ」っていう話、最初に振っていて、どうなるのかな、人手不足だから困るんだっていう話なのかと思ったら重要性まで続く話だったと。非常に練られている立論だったのかなと思っています。
で、中身を見ていくと、コンビニのオーナーの話。この部分、否定側とバッティングしてるんで個々の議論、このあと洗いましょう。

内因性2のBの話。この部分に関しては若干お互いの認識の齟齬があったと理解しています。何かというと、ファミレスの店長の話を出していましたよね。で、ファミレスの店長っていうのは事業主では無いんです。2つケースがあって、そもそも、そのファミレスの直の社員の人、もしくはファミレスのFC契約をしている会社の社員の人。という2パターンがあるんですね。となると、事業主同士の話ですよという否定側の話、特に深刻性2のところですね、この部分、ファミレスに関しては当たらないだろうという判断をされてしまいかねない。

「いや、そうは言え、そういうところもあるんじゃないかな、量はわからないけど」。好意的に取るとそこまで行くでしょう。と言うところがまず1つ議論の分岐になっているところです。ジャッジの判断の分岐。なので、ここの部分、当たっていないであろうといえばファミレスに関しては肯定側の言う問題の解消にはなるが、これが重要性に結びついているかどうかの説明にまで行きついていたかどうかは別ですよね。

なので、質疑で非常に良いポイントを抑えていたんです。ファミレスの社員ですよね、だから事業主?、オーナーですよね?ってやり取りをした中で、どうも嚙み合わないなと思ったら、自分の聞きたいことを聞き出す、前、それはもうできるんですから、自分自身が言っていることが間違えていないかという確認作業、「私はこういう意味で言っているんですけれども、そういう意味じゃないんですか?」という確認をしたときに違いが出てくるんですね。これまでの戦いの中ではどちらかというと「自分が想定している物を引き出すこと」、多かったと思います。自分が言っている事と違わないかという確認作業、1つ上のレベルです、こういったことができるようになると、意見が相違していることをちゃんと確認できる。これができればもっとこの議論も深まったのではないかと思っています。

じゃあコンビニオーナーの話に戻りましょう。内因性2のところで「実際にオーナー、深夜働いている人は少ないんだよ」と出されました。少ないんだよという話、じゃあ69.7%が働いていないんだよっていう話でしたよねここ。…となった時に、ジャッジはこのレベルになってくると疑うんです。「30%は働いているよね。」と。

で、この部分で、肯定側が乗ってくるのかなと思ったら、5人に1人は働いているんですっていう話が肯定側から出されました。要は、相手の議論に沿って話をした方が、どっちの資料を信じた方が良いかっていう疑念は無くなりますよね。要はジャッジにストレスなく1つの話の中で完結し理解してもらうことを努める、これやった方がわかりやすいと思います。(今回は2つの資料が出されましたが)じゃあどっちが正しいかってやった時に、こういった時はジャッジとしては、どちらにも公平に取ってあげられるように、低い方、可能性が低い方でできるかぎり取ってあげましょうと。この場合であれば5人…10人に1人?でしたっけ、ごめんなさい。10人に1人、要は69.7よりも更に低い数字を出しているから、否定側が出しているから、低い方の数字で、10人に1人くらいは(少なくとも)深夜労働してる方がいらっしゃるのかなと。じゃあこういった方の問題が解決するけど他の人は解決しないよね、という見方が正しいのかなと思っています。

じゃあ肯定側のアプローチとしては、こういったところで、この人達が解決しないことが問題なんだっていう量の扱い。これ、価値観として総量というものが否定側、肯定側の中で、特に第二反駁では量の勝負はしていませんよね。って言った時に、相手の価値観が量でない時に関しては、自分達が出している量という物を明確にした上で、この部分ではこういう波及効果があって、その部分が解決しないと意味がないですよね、なんていうアプローチを、なんとなく言っている事わかりますよね?こういったことができるとジャッジの5人のうち多くの人を振り向かせられるようなスピーチ、1人でも多くという意味です、割れているんですが、振り向いているジャッジはどっちにもいます。だけどその度合いですよね。取り方がどうなるかっていうところをもっと意識してくれると良いです。自分達が持っている物っていう物を、もう一度見直す機会になったんじゃないかな、と思っています。

で、コンビニの店長の話。韓国の事例を挙げられてたっていう、これ私自身初めて拝見した資料だったんですが、まあ生きた心地がしないよと、生きた心地してなかったんだろうなコンビニのオーナーはと。で、この部分もやり取りがあって、負担が減ったから生きた心地したんだよと、この部分に関してはまあ一定の理解はあります。負担が減らないと多分生きた心地しませんよね。で、減った理由っていうのが、時間の事なのか仕事の中身なのか。この部分、また切り分ける必要ありますよね。


時間の話であれば否定側が出した議論。ここ、一番ジャッジが悩んだところです。「コンビニオーナーは24時間働いている方が、働いている時間が平均短いんだ」。しかも「16時間のコンビニであっても24時間のコンビニであっても過労死ラインを越えているんだ」。この部分。やっぱりですけども、多くのジャッジを振り向かせるっていう努力をするんだったら、まずいところだと肯定側も思っているんだったら、ちゃんと処理しないといけませんし、否定側としてはこの部分で、やっぱりプランでは解決しないんだっていう、コンビニオーナーに絞って解決しないんだ、これだけの人の量が解決しないんだっていう事を重み付ける事ができると思います。そこに向かって走っている事、議論が走っていることはジャッジとして承知している。

けども、その人達が本当に解決しないとどうなのかっていうところでジャッジ5人の取り方がそれぞれ分かれています。要は、もうそもそも解決しないんだから、肯定側が言っている事、コンビニについてはダメでしょという方。いやいや一方で、平均時間だし、実際にコンビニで働いている人っていうのも分析してるけど、いないかって言ったらいるし、10人に1人はいるわけだし、こういった人っていうのが実際短くなるかもね、そして家族で分担できればその部分も減らせるかもね、なんていう話があります。この部分でこの部分の深刻さの度合いっていう物がジャッジ自身取り方が変わった。ただ、言うなれば、今言った一番最初のところを採用したジャッジは、肯定側のこのコンビニの議論っていう物はやっぱり解決しないだろうと。残った議論で肯定側を評価している。


で、その部分に関しては残ってしまっていると判断した人。で、一部の人でも解決するならメリットって意味があるよね。じゃあ、一部の人が救われることにどんな意味があるのかな、っていうところでジャッジはまた迷うんです。そこまでジャッジに意味づけしてくれたら、なるほど、そう取るべきだって納得できますよね。この部分、もう一歩先の議論になりますが是非次の試合で試してください。

で、要は発生するんです。コンビニについても、社員についてもやっぱりこの部分に関してはファミレスについては減るだろうと。私自身ファミレスでバイトした事あるんです。もう20年ぐらい前になりますかね。実は、閉店開店作業って店長がいない時もあるんですよ。バイトリーダーという人に鍵を預けてセコムの鍵の番号を聞いて、やって、今終わりましたって連絡を入れる、なんていうのも実社会です。ただ多くのファミレスではやっぱり責任もあるし、大手を振って外に「バイトに任せてます」なんて言えないんですよ。て言う様にに、どんどんリアルな世界に近づいた議論をしてくれればくれるほど、色んなパターンがあるんだよっていう事を社会に出て、ああそういう話だったんだなと思い直してくれるとおもしろいな、と思います。

ただ、この意見・議論については承知しました。オーナーはやっぱり開店作業もしているかもしれない。ただ、ずっとではないかもしれない。そして分担できるかもしれない。けど労働時間は1995年の資料で長く出ている。っていうのを総合的に判断した結果、どう解釈すべきか。この部分、すごい重要な点なので是非考えてください。答えは1つでは無いと思います。

で、重要性に関して。人口減少社会である話っていうのは承知しました。立ち行かなくなること、わかりました。小売業に関しても、こういった社会じゃいけないよっていう話、承知しました。そういう意見があるだろうと。
この重要性2については、消費者が困らないよっていう立場の話でしたよね。


一方否定側は、働いている人が困るよ、という話でした。立場が違うんです。事業主、会社というものがどうあるべきか、という観点が惜しむらく入っていれば、この部分もっと深まったのではないかというのが、ジャッジというよりも1ファンの感想です。
じゃあ、肯定側は部分的に発生しうるっていうことはみなさんにこれで伝わったでしょう。

<2.2> 論点評価: デメリットの評価

否定側見ましょう。雇用機会の損失。
数字をいっぱい並べてくれました。もう、そういうのはやめてよっていう人がいる・・・と思ったら大間違いです。非常にわかりやすかったです。1つ1つの数字に意味合いがある事、良く伝わりました、事実として。ただもっと上を行くのであれば、「今から読む数値はこういうものですよ」って先振りしてくれた方がわかりやすいんです。何でかっていうと、数字ポッと出されると数字をフローに取ることに一生懸命になっちゃうんですねジャッジって。今から出す数字はこういう物を意味してますよって言ってくれた方が、ああなるほどこういう数値ねって理解した上で97.何パーセントって言われたら、9割以上がそうなんだってまずインプットできますよね。という風に、「向かせられる」っていう意味合いで数値の補足を後からした方が良い場合と、先に出した方が良い場合があります。そういう意味では、今回は先に出しても良いものもあったのかなっていうことも思いました。ただ、非常にわかりやすくジャッジ一様に「聞きやすい」というのが感想です。

で、学生が困るんだよ、半数以上困るんだよって、なるほど困るって話、働いているんだよっていう話、わかります。で、この部分で実際に居酒屋やコンビニなんか掛け持ちしてるよなんていう実例がありました。こういった人達っていうのは、もう一歩先に行くとこれは肯定側がやらなきゃいけないんですが、「みんな、なんですか?」っていう話なんです。

私自身の話を交えながらすれば、もちろんガソリンスタンドやりファミレスやり家庭教師やりなんて掛け持ちしてて、生活費をひねり出しながら確かにバイトをしてたな、ただ、奨学金なんかもあったな、とか、それでも辛かったよね、とか、色んな実体験があるから「あぁそう、わかる!」と思うんだけども、でもこれを一般化しないとやっぱり話として伝わりにくいところがあります。もしくは、一般化されたものとしてそのまま受け取られてしまいますよね。リアルワールドを描く時、個別事例になっていく中で、個別事例がどれだけ一般化できるか。この人達がこれが無くなるとどうなるんだっていう分析までしていただけるともっと深刻性に繋がって伝わりやすかったかなと思います。

だから学生さん困ります。ワーキングプア、保護者の方耳が痛かったんじゃないでしょうか、家事、PTA、子供のことで大変です。そうすると働きたくても働けるのは夜しかないんです。なるほど、理屈としてもその通りですし、そうやっている人がいるよっていう話、掛け持ちしている人までいました。こういった人の収入が下がることは良くないです。その通りだと思います。


じゃあ否定側から応答があった、旦那さんに稼ぎがあって収入がある場合っていうのは収入が下がるけどそれってどうなんですか?っていう話についても、実はこれ肯定側、議論延ばしても良かったんじゃないかな、と思います。ただいくつもこれだけ話がある中で取捨選択するのであれば、問題が解決する、しないに絞ってやった、という肯定側のやり方、取捨選択をしたっていう事は、見ている方はすごい事だって思っていただきたいと思います。
ただこの部分に関しては実際にこういった人達の収入が減るよねっていう固有性を、否定側の言う通り残った。その通りです、固有性がいう通り残って…残ってるのに頭抱えないでほしいんですけれども(笑)

で、この部分から。じゃあ発生過程いきましょう。発生過程に関しては、「他の仕事あるよ」事実です。ただコンビニは自由なんだ、時間が。この部分高く評価しましょう。コンビニはやっぱり有効利用できるんです。だから、じゃあこの人達っていうのは、介護とか行くか行かないかっていうところに関しては、一部行き得るだろうと。本当に困っているのであれば。で、どうしてこういうところに行くかっていう説明をしてくれれば良いです。雑だった議論の1つだったと思います、今回の試合の中で唯一。


次、だから行き得る人もいるし、行かない人もいるかもしれない。困ってどうなるか、そういった人が困ってどうなるかっていうとこが重要なんです。
そしてもっとも重要なところ。価値観をこの発生過程のところで読んでくれましたね。国としてのあり方で、こういう非正規に深夜頼っていることが良くないんだっていう話をされていました。この部分、新しい議論として取ったジャッジ、価値観ですよね。メリットだろうと。国のあり方としてメリットであると。新しいメリットを反論で出したと理解したジャッジがいました。つまりこの部分は新しい議論として評価しないとしたジャッジがいます。

要は、反論の当て方、深刻性2に呼応する形でハードルを越えているんですっていう当て方をするのが一番綺麗だったであろうと。この部分に関して、ハードルを越えているからやっぱり規制すべきだっていう立場で肯定側が出してくれれば、そのジャッジも振り向いてくれたかもしれない。新しい議論として取られかねない、というのと、国としてのあり方として第一反駁から連携して第二反駁まで、「国としてこうあるべきだ」と普通に反論としてインパクトに対して当てて、反論を承ったというジャッジもいます。ただその価値観が本当に問題を解決するかどうかっていうところは別です。


否定側に関しても、今言いました通り、発生するんです。どれぐらい発生するかっていうのも疑問が残ったまんまですが、実際に働いている人達が困ってしまうっていうのは事実です。

「国のあり方」というものを中学生が語る。末恐ろしいことだなって思ったんですが、非常に納得できる話を両チームから出していただいたと思います。何かが制限される時には絶対に理由があるんです。しちゃいけないのか、して良いのか。その部分について、こうあるべきだっていう姿を、両チーム示してくれた良い試合だったと思います。重み付けっていう意味では、深刻性・重要性の所での比較とそれぞれの発生度合いからジャッジが取ったという形になります。

<2.3> コミュニケーション点ならびに判定結果

まず先に、コミュニケーション点。

肯定側
立論:17点
質疑:19点
応答:16点
第一反駁:20点
第二反駁:19点
合計:91点

否定側
立論:16点
質疑:17点
応答:14点
第一反駁:15点
第二反駁:18点
合計:80点

コミュニケーション点で試合の結果がつくわけではありません。
ただ、非常に素晴らしいスピーチを両チームしてくれた、という事です。

ここまで、予選2試合ずつがあり、トーナメントがあり、ベスト4の試合がありました。36試合が消化されているんです、中学校のディベート甲子園の試合。


今この会場と下の会場で37試合目38試合目をやっています。残念ながらどちらかの学校は敗退しどちらかの学校は喜ばしく決勝へ向かうわけですが、得た物は決して無くなりません。私自身、ディベートを共にする仲間だと思っています。あなた、あなたが考えている議論がチームの中で「あなた達」の議論になって「私達」の議論になって、相手がいることでわかり合って「私達」というコミュニティの中に今回ジャッジとしてこの「私達」として混ぜてもらったこと、非常に感謝していますし、社会っていうのはそうやって少しずつ広がりを見せるものです。是非、自分が持っている意見という物を他者と共有し、第3者に共有し、社会を形成していくという事、これからも是非、考えて目指していただければと思います。


発生の大小はあれど、両方の価値観についてはジャッジとして、それぞれ「ある」だろうと。つまりは、発生の度合いと価値観がどこまで結びついたか、という所がもっともっと踏み込んで説明してくれれば、ジャッジがそれぞれ皆さんの方を振り向いてくれたと思います。

結果、割れているとお伝えしていた通りです。
今回の試合、4対1。肯定側、中央台北中学校の勝利です。ありがとうございました。

~拍手~

観客の皆さん、両チームの健闘を称えて拍手をお願いします。


第2部 講評者へのインタビュー (編集部)

(編集部 久保)この度は、企画にご協力いただきまして、本当にありがとうございます。神永さんは今年(2022年)の高校決勝主審も務められましたね。様々な試合を体験されていると思うのですが、講評で伝えるべきこと、講評・判定をする際に心がけていることはありますでしょうか?

(講評・判定者 神永)試合の段階によって異なると考えています。

地方予選、全国大会のリーグの試合では、選手に響くメッセージに重きを置いております。この試合では、試合の結果で争点になった部分、選手とジャッジで試合の争点が異なる点であった部分を丁寧に説明します。

選手は勝ちたい気持ちでいるはずなので、勝敗を明確に伝えること、そして、ジャッジの判断の分岐となるポイントを伝えるようにしております。

大きい試合(例えば全国大会ベスト8以上)の場合、選手の後ろにいらっしゃる顧問引率の方、チームメイト、保護者の方へのメッセージを含むようにしております。負けたら終わりという緊張感のある試合の中、選手の視界を広げてあげるようにメッセージを伝えております。

また、負けた場合、そこでディベート競技が終わりでないということを伝えるようにしております。

(久保)ディベート甲子園で負けてもディベートは終わりではないというメッセージは、この企画に出場された多くのジャッジも指摘している点で、重要な視点ですね。そういった講評・判定を伝える上で心がけている点はどんなものでしょうか?

(神永)その試合直後に改善できる御土産と、持ち帰って今後対応できる御土産をお渡しできるようにしています。

今すぐ改善して次の試合につなげられること、次シーズンに生かせそうなことを勝敗にかかわらず伝えたいと思っています。大きな試合では、より、対戦校へのリスペクトに気づいていただけるように話します。

また、試合の講評はできるだけ選手目線で、選手がわかりやすい言葉でしゃべるように心がけております。一方で、トーナメントのような試合では、翌試合で弱点となるようなところはオブラートに包んで試合内容を伝える工夫をしています。次対戦する学校に弱点をさらすような講評はできるだけ避けたいと思っているのが理由です。

講評の中では、選手が使った言葉を大切にして、選手の話の流れに沿って問いかけを行い、合意形成をしつつ講評をおこなうようにしています。あなたたちがこう言っていたけど、そう取れないことがあった、なぜならば・・・のように理由と事例を挙げながら、選手の納得度を上げながら講評を行いたいと思っています。そして、私自身は、いい試合のジャッジをさせていただけたことに、選手の皆さんに感謝を伝えるようにしております。

(久保)我々ジャッジもいい試合を体験できると感謝を伝えたくなりますよね。この点について選手とジャッジって共同作業だなと思うんです。いい試合であったとしても、ジャッジの講評が悪ければ、せっかくの試合のイメージも下がってしまう。我々は試合の最終スピーチ担当みたいなものですよね。ところで、マイナス面のお話になってしまうかもしれませんが、講評判定でのハプニングなどはあったでしょうか

(神永)ハプニングと言って思い出すのは、自分の担当とは異なる試合会場に伺って、試合開始直前まで平然と審判席に座っていたことがあります。私と入れ違いになっていた審判も勘違いしており、試合開始ぎりぎりまで気づかず、急いで試合会場を入れ替えたことがあります。

もちろん、十分気を付けて試合会場に伺ったのですが、こちらも緊張しており、ぎりぎりまで気づきませんでした。アナログでの伝達が一般的であり、今の時代時ではすぐに修正された案件かと思いますが、今思い出すと非常に焦りました。

(久保)実は私も試合会場を間違ったことがあります。その時は入れ違いになっていた方はちゃんと来たので救われたのですが(笑)それでは、最後に一言あればぜひ。

(神永)私は大学生時代、社会人10年間とディベートの選手の経験がありません。一方でジャッジの機会を多くいただくことができました。
ジャッジを通してディベートの経験をいただいたことは、ディベーターとして成長する機会をいただいたことができたと思います。そして社会人になって選手を経験し、改めて選手の皆さんの苦労がわかりました。

肯定側、否定側だけでなく、ジャッジも試合を構成する重要な要素であると再認識しておりますし、ディベートを楽しむ仲間だと思っています。みなさんもジャッジをめいっぱい経験してください。



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