ディベート甲子園

ディベート甲子園出場が決定したら、本番までに実践すべき3つの事~2018年版~

はじめに

先日、ディベート甲子園の地区予選が全て終了しました。これで23年目を迎える2018年大会に出場するすべての中高生が決定となりました。

筆者は選手時代から振り返ると、ほぼすべてのディベート甲子園を経験しており、時には出場校の指導を担当し、全国優勝した経験もあります。これだけの年数関わっていると、ある程度のノウハウも蓄積してきました。そこで今回はそのいくつかのノウハウを公開することで広く皆様のディベート教育、活動に寄与できればと思い記事にしました。なお、これはあくまで一つの方法であり、全ての学校にそのまま当てはまるわけではないと思います。この記事を参考にして、自分たちにとって最適なシーズンになるよう自分たちの方法を模索しましょう。

地区予選から甲子園本番までの伸び率は高い


筆者の経験上、半年間の中で地区予選突破から全国までの間が最も成長する期間だと思います。夏休みに入るため、多くの準備が行えるようになるというのもありますが、何より半年間の間さまざまな議論が行われてきた中で、「生き残ってきた議論」の目星がある程度分かってきますので、今まで拡散してきた戦い方が収れんするというのも大きいかと思います。受験は夏で伸びるといいますが、ディベート甲子園も夏で伸びるわけです。なので、例え、地区予選であまり良い順位ではなかったとしても、何も懸念することはありません。しかし、漫然とやっていては伸びるものも伸びません。ここでは、ディベート甲子園直前になった時にやるべきことを紹介します。

【ディベート甲子園までにやるべき3つの事】
1.スケジュールを作る
2.自分たちの議論を深く理解する
3.安定したパフォーマンスを出せるようにする

ディベート甲子園までにやるべき3つの事~その1.スケジュールを作る~

まず何より、大事なのはスケジュールです。スケジュールの重要さについては、過去の下記エントリーも確認してみてください。

「調査型ディベートの準備方法~ディベートPDCAの勧め」

地区予選終了後から、甲子園全国までに何回部活ができるのかを把握しましょう。その際に、必ず決めるべきは下記の通りです

・練習試合の日程
過去のエントリーでも少し述べましたが、練習試合には目的を持たせる事が重要です。全国大会に向けての練習試合は回数も限られているため、1回の効果を最大化しなくてはなりません。ディベートPDCA理論によるプレパでは、議論作成から練習試合までを1つのサイクルとしますが、この時期はあまり実験的な試みをしない方がよい時期です。
実験的な議論は部内試合で実験して、角度が高いと思われる議論を絞り込み、それらを練習試合で実践するというのが基本の流れとなります。なお、この時期にやりがちなのはとにかく練習試合というものです。確かに実践を積むことは重要ですが、練習試合を無目的にやりすぎると、試合をすることが目的になって議論の練りこみが甘くなったり、疲れが溜まって効率が悪くなったりします。

・立論完成のタイミング

「立論は永遠に完成しない。完成したと決めるセンスと勇気が必要である」

ディベートはそもそも肯定否定の結論が出ていない論題で試合をしています。なので、完璧な立論などは存在しません。最終的に、クオリティで決めるのはもちろんですが、締切を設定することはとても重要です。また、全国大会という点でいうと、最終立論完成予定日は必ず設定しましょう。それ以降は、その立論を使って試合の完成度を高める練習にしていきます。いわゆるスピ連です。

ディベート甲子園までにやるべき3つの事~その2.自分たちの議論を深く理解する~


中学も高校も、論題の背景には政治思想や概念が存在しています。例えば、タバコであれば選択の自由、一院制なら民主主義などがその筆頭になることでしょう。メリット、デメリットをそれぞれ作成したと思われますが、その議論の背景にある概念とは何かを理解することで、飛躍的に議論理解は深まります。一院制もたばこも数えきれないくらいの資料がある中、何かの事例を引用するチームが多いのですが、この時に注意すべきは「概念と事例を結び付けて行き来する議論」を実施するという事です。

例えば、タバコであれば、「選択の自由」という概念を重要性に上げたなら、具体的な反駁などがどのような形で選択の自由という概念をサポートする具体例なのかを理解しておくことです。この辺は難しく思えますが、例えば公民や倫理の教科書などが参考になります。

こうする事で、具体的事例のみならず、その具体的事例を判断するための大きな方向性を示すことができるようになります。ディベート甲子園はメリット・デメリット比較方式で勝敗が決定されます。比較するためには、比較基準が必要です。そしてなぜその比較基準を採用すべきなのかといった理由が概念といえます。

自分たちのメリット、デメリットの背景にはどんな概念があるのか。時にはディベートの準備ではなく、理解を深めるためにディスカッションするのも重要だと思われます。なお、この時エビデンスの言葉で説明せず、自分の言葉で説明できるようにすることが重要です。

なお、当たり前のことですが判断基準はそれを支える議論があってのこと。細かい議論部分を詰めていく作業はお忘れなく。いい事いっているけど、それを支える部分は全然立証が足りないという事のないようにしましょう。

◆Art of Argumentコラム
【お薦め練習法~30秒スピーチ~】
自分たちの立論がなぜ重要なのかを30秒以内で説明できるようにしましょう。30秒という時間で端的に説明するには、自分たちの強みを把握しつつ全体像を語る必要があります。なお、この時チームメイトではない人に聞いてもらうのも効果的です。例えば、社会科の先生や親御さんなど大人に聞いてもらうのも良いと思います。立論の説明が30秒でできるようになってきたら、対戦相手が提出してくるであろう価値観と対立した時の比較基準を盛り込んだスピーチを30秒で話せるようにする。更に余力があるなら、10秒で自分たちの議論の重要性を話せるようにするなど、いくつかのパターンを練習するのも効果的です。ここで大事なのは作った文章を「暗唱」する事ではありません。この作業を通じて、自分たちの議論を深く理解する事が目的です。手段と目的が逆転しないように注意しましょう。

ディベート甲子園までにやるべき3つの事~その3.安定したパフォーマンスを出せるようにする~

甲子園はリーグ戦もありますが、トーナメントになれば一発勝負ですし、一回一回が勝負になります。3日間という長期戦にもなりますので、調子のいい時もあれば、悪い時もあります。予想できない議論に苦しめられる事もあります。そういう不確実性の中でどうすれば勝てるのかというための練習も実施していきましょう。言い換えると、自分たちの議論で常に良いパフォーマンスを出すための練習が必要です。

・スピ練
スピ練は単に原稿を読むだけではありません。ある程度立論の方向性が固まってきたなら、下記のスピ連がおススメです。

スピ連ノック~できるまでやり抜く~
まず、肯定と否定に分かれて試合を行います。全てのパートが終わったら、反省点と改善点を列挙します。その上で、否定側第1反駁から議論を作成しなおして、完璧なスピーチができるまでやり続けます。例えば、下記の通りです。

【スピ連ノック】
否定側第一反駁:必要に応じてエビデンスの組み換えも含めて再度実施。
肯定側第一反駁:改善された否定側一反も含めて対応するスピーチを作成して完璧なスピーチができるまでやり続ける。
以下、肯定側第2反駁まで実施する。

この時、気を付けるのは全国大会に出てきそうな議論で実践することです。想定した議論が極めて特殊だったり、弱すぎたりしたら意味は半減以下になります。当たりそうなライバル校や、最近自分たちの地区内では出ないけども全国では出る可能性がある議論などを使って想定立論とするのがおススメです。

こうして、複数のパターンで思った通りに話せたという経験を積むことは、こういう時はこう考えるという自分の引き出しを増やすことにも繋がりますし、自分の自信にもなります。同じ立論で色々な価値観の対戦相手への対策を磨き上げる事で、絶対に譲ってはいけない要素は何か、自分たちの強みと弱みは何かがより一層クリアになってきます。

将棋の世界でも、名人同士の戦いになると差は本当にわずかであり、実はちょっとしたミスをした方が負けるという戦いだともいわれます。筆者も管見の限りではディベート甲子園の上位になればなるほど、ミスをした方が負けるという展開が多い印象です。スピ連によって、どんな状況であっても大きな失敗をしない戦いを身につけましょう。

・リサーチについての心構え
今までは、こうした資料がほしいからリサーチ頑張ろうでもOKでした。ただ、今は時間がありません。なので、ここまで来た場合、自分たちが望む資料は見つからないという事を前提にして進めていく事が重要です。立論のキーになる資料を探そうといって、3日間リサーチに時間をかけたけど、見つからなかったとなってしまっては、勿体ない状況です。もちろん、探す努力はし続けるべきですが、資料は見つからないという前提でも勝てるように計画する事が重要です。これによって、宝探しに依存した不安定な状況にならずにすみます。

ここで、一つのスケジュール例を紹介します。既に16日週が終わっていますが参考として記載します。

【スケジュール例】
7月16日週:地区予選の反省、次の立論・議論準備、リサーチ。部内試合での検証
7月24日週:部内試合の検証をしつつ改善、対外練習試合での検証
7月31日週:立論完成、やりぬくスピ連でメイン議論対策、他校対策

・最後に
本番まで約3週間。準備する事は、ほぼ無限にあるといってもいいのがディベートの特徴です。このような中では、限られた時間と労力を何に使うのかが極めて重要になります。特に今年は異常な猛暑ですので、慢性的な睡眠不足で準備をし続けることで本番に倒れるという事も十分ありえます。まずは何よりも健康ですっきりした頭で試合に臨むことが何よりも重要です。

緊張感が続く時期になると思いますが、一つの事についてここまで頭を使って考え続けるという経験は将来必ず皆さんの力になります。考え続けるという行為には訓練が必要なのです。

そして、個人的にはこうした将来のことなど何も考えず、3日間はただただディベートの事をだけを考えて、仲間やライバルと最高の議論を交わしあい、ディベートを楽しんでもらいたいと思います。ディベートをやっているもの同士には、普通に話し合うよりも試合の中で「会話」する方が人間性を理解できるなんて事もあります(笑)。全国で、皆様の良い議論を聴けることを楽しみにしています。

※もし、今シーズンに上記練習方法を試されたチームがおられましたら、後日ご感想などいただけますと大変ありがたいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?