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塑性変形と転位の研究に身を捧げた学生時代の話 -1-

本記事は2022年9月に書いた「学生時代の研究活動」の話の再整理です。

学生時代はとにかく研究に明け暮れた時期でした。実際は塾講師のアルバイトと両立しながらでしたが、キツい時期を乗り越えた感覚があります。ここでの経験が今の仕事のキッカケにもなりました。

私の研究の経歴はかなり特殊です。木更津高専(通常課程と専攻科課程)と筑波大学(大学院)、合わせて6年間の時間を研究活動に注ぎ込みました。

高専と大学院では研究テーマこそ異なりますが、取り組んだ研究の大筋のテーマとしては「塑性変形を数値解析技術を利用して詳細に理解すること」でした。

今回は学生時代の研究活動の軌跡に関して、専門知識も交えながら、数回に分けて書いていくことにします。

初回でもある今回は「塑性変形」「転位」の意味などの基本事項に近いような話をします。


塑性変形の概要

変形とは物体(固体)が形を変えること。外的な負荷や環境の変化などに応じて、物体の形状は時々刻々と変化します。

この変形には大雑把に「弾性変形」「塑性変形」に分けられます。弾性変形は負荷などを解除するとバネのように元の形状に戻ること。これは全般的に可逆的な変化と言います。一方で、塑性変形は負荷などを解除しても元の形状に戻らないことを指します。不可逆的な変化とも言います。

このバネの例はかなり本質を突いていて、特に弾性変形は「負荷の大きさに比例して変形が大きくなる」という性質があります。比例の関係なので、数式的にも出てくるのは中学生レベルで、非常に扱いやすいです。

一方で、塑性変形は先ほどの「負荷の大きさに比例して変形が大きくなる」という性質を超えた領域でもあります。別視点では「弾性限界」と言われますが、本来の弾性変形の性質が崩れた形の現象なのです。

塑性変形は本来の弾性変形とは違い、材料ごとに挙動が根本的に異なります。これらはまだ解明されていない部分も多く、理論的な説明もままならないところがあります。まさに現在進行形の研究対象なのです。

例えば、塑性変形を説明する上で外せない現象に「すべり」があります。すべりが生じることで、目視の範囲であれば「リューダース帯」と呼ばれる痕跡が生じることがあります。特に試験片をはじめとした薄板で多く見られます。

塑性変形の進行に伴い、当然のようにリューダース帯は全体に拡大します。これはいわゆる「損傷」と言える事象でもあり、構造物の美観を損ねるものです。その対策を練るためには、基礎となる塑性変形を理解することが必須なのです。

理論的な解明には数学や物理の知識が欠かせません。特に、数値解析に取り込むためには、塑性変形という現象に対する「定式化」という作業が必須です。実験とは違う試みであり、個人的な興味に繋がりました。

塑性変形と転位の関係性

塑性変形を知る上で鍵となるのが「転位」と呼ばれる存在です。この転位の話が先ほどの「すべり」の話にも繋がります。

金属(固体)の内部構造を細かく見ると、原子が規則的に並んだ形をしています。これらの集合体を「結晶」と呼ぶのですが、結晶には方位(原子の並ぶ方向性)が存在し、方位が異なる結晶の集合体として金属(固体)が形成されます。また、方位が異なる結晶の境目は「結晶粒界」と呼ばれます。

一方で、現実は外的要因などを通して、結晶内の一部の原子配列に不備が生じることが多いです。この形は様々ですが、主に原子配列に不完全性が生じている部分のことを「格子欠陥」と言います。

格子欠陥が線状に並んだ状態(集合体)を「転位」と言います。正式には「線欠陥」と称されます。塑性変形とは、転位が外的な荷重や環境の変化などで発生し続けることで、時々刻々と進行する現象と言えます。

塑性変形の初期段階が「すべり」です。外的要因を通して、原子配列にズレが生じることで、転位が生成されます。転位が様々なところで発生することで、転位が無限的に生成・運動して、塑性変形が進行します。

先ほど「塑性変形は不可逆的な変化」と言いました。このすべりは一度発生すると元に戻りません。転位が絡み合うような形になり、複雑化するしかないのです。一方で、すべりの発生にはエネルギーなどの面で一定の敷居があります。これが「弾性変形は可逆的な変化」と書いた理由でもあります。

弾性変形の範囲はあくまで比例の範囲内であると説明しましたが、塑性変形は様々な因子が複雑に絡み合う現象で、単純に説明できるものではありません。

これらをなるべく簡潔な形に落とし込むことが、塑性変形(転位)の解明であると、個人的に考えています。

おわりに

今回は学生時代の研究活動の話の初回として、大元である「塑性変形」「転位」の概要説明をしました。

具体的な研究の話は次回以降で進めたいと思います。研究は基礎的な話題からより突っ込んだ話になるので、追求が面白いと思える人には、なかなか楽しいと思える世界かもしれません。

また次回も楽しみにして頂けたら幸いです。

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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
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