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金属材料の加工硬化と硬化則について -1-

今回は主に金属材料に見られる「加工硬化」と呼ばれる現象に迫ります。金属材料における「塑性変形」に直結する話です。

例えば、金属材料に圧延や鍛造などの加工(作業)の場面では、塑性変形を引き起こしながら意図する形状に成型させることがあります。その際に、金属材料に強度が高くなる(次第に加工が困難になる)という現象が発生します。

この過程を「加工硬化」と言います。加工硬化を通じて金属材料の強度は高まりますが、同時に金属材料が脆性的になる(粘性が低下する)ことも意味します。しなわち、成型中にシワや割れが発生しやすいです。

このような特徴のある「加工硬化」を原理として知ることは、構造解析などの場面では必須になります。その辺の話を数回に分けてします。


加工硬化の発生過程

加工硬化を説明する上で、金属材料の応力ーひずみ線図を再掲します。そもそもの話として「塑性変形」の発生過程から見なくてはいけません。

金属材料の変形は可逆過程と言える「弾性変形」が出発点です。弾性変形が進行する過程で、金属内部の原子構造で「すべり」が発生することで、不可逆過程の「塑性変形」が開始します。

塑性変形を開始するタイミングは「降伏点」に置き換えられます。そこから徐々に塑性変形の進行と共に「加工硬化」が発生します。

塑性変形の進行と共にいつかは破断を迎えますが、その背景には加工硬化における脆性の側面が存在します。特に、成型加工における破断のタイミングを予見することは、構造解析の重要な課題のひとつです。

加工硬化と転位運動の関係

加工硬化は別称で「転位強化」とも呼ばれるほど、転位の運動と密接な関係があります。転位とは原子面ですべりが生じる際に発生する線状欠陥のことですが、転位の運動次第で塑性変形の進行度合いが変わります。

金属材料に力が掛かると、元から存在する転位が移動するだけではなく、別の部位における変形で転位が新たに生成されます。転位が増殖して密になると、転位は互いに絡み合うため、次第に転位の運動が鈍くなります。

これが加工硬化における強度が高まる理由です。同時に脆性が強まるため、金属材料は次第に破断の方向に向かいます。

特に、切削加工などはこの性質と向き合うことになるのですが、そこには金属材料に固有の加工硬化に対する特性があるので、単純には片付けられません。

それぞれの金属材料が「どの程度だけ加工硬化しやすいか」を定量的に表す指標を有しています(n値と言います)。基本的にn値が大きいほど加工硬化しやすいことを示しています。

出典:https://atsuita.com/glossary(加工硬化)

加工硬化は金属材料の性質に加えて、加工条件でも発生度合いが異なります。例えば、高炭素鋼などn値が大きい金属材料を加工する場合は、加工硬化の影響は顕著になります。

また、加工時の温度上昇が激しい条件設定や、工具などの関係で変形時の抵抗が高い場合も考えられます。加工硬化が発生しやすい状況を体系的に把握することが、対策として最良の形と言えそうです。

おわりに

今回は金属材料で一般的に発生する「加工硬化」について、発生原理の話を中心に進めました(数回に分けて説明を続けます)。

今回で紹介した「加工硬化」は強度が高まる手段のひとつにすぎません。転位の運動を抑制することがポイントなのですが、他にも「固溶強化」「析出強化」などの手段が存在します。

この辺はまた別途で解説できればと思います。

ところで、加工硬化という現象を数学的に扱うものとして「硬化則」と呼ばれる理論があります。この辺は構造解析に必須の概念になりますが、次回以降で説明を続けていくことにします。

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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
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