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塑性変形と転位の研究に身を捧げた学生時代の話 -6-

本記事は2022年9月に書いた「学生時代の研究活動」の話の再整理です。

学生時代はとにかく研究に明け暮れた時期でした。実際は塾講師のアルバイトと両立しながらでしたが、キツい時期を乗り越えた感覚があります。ここでの経験が今の仕事のキッカケにもなりました。

私の研究の経歴はかなり特殊です。木更津高専(通常課程と専攻科課程)と筑波大学(大学院)、合わせて6年間の時間を研究活動に注ぎ込みました。

高専と大学院では研究テーマこそ異なりますが、取り組んだ研究の大筋のテーマとしては「塑性変形を数値解析技術を利用して詳細に理解すること」でした。

今回は学生時代の研究活動の軌跡に関して、専門知識も交えながら、数回に分けて書いていくことにします。


前回は大学院で取り組んだ研究について、主に利用していた「分子動力学法」の視点から話をしてみました。

塑性変形の基礎とも言える「転位」についての研究でした。テーマは「格子欠陥(ナノスケール空隙)が微細粒金属に及ぼす力学的影響に関する分子動力学法による評価」です。

今回はシリーズの最終回として、研究成果の話と一連の研究活動を通して思うことなどを、つらつらと書くことにします。


研究テーマについて 〜再掲〜

私が大学院で取り組んだテーマについて、改めておさらいしておくと、ナノスケール空隙(格子欠陥)の存在が微細粒金属の力学特性にどのような影響を及ぼすかについて評価することでした。

  • 結晶粒内部にナノスケール空隙があることで、空隙の周りで転位の運動が活発になる。

  • 微細粒金属は結晶粒界付近の塑性変形が主要を占めるが、ナノスケール空隙の存在が結晶粒内の塑性変形を促進する。

  • 結果的に微細粒金属に特有の粒界破壊からへき開破壊に転じるため、脆性破壊の回避が期待できる。

この仮説の立証を目指して、研究活動に取り組んできました。また、使用した解析手法は前回もご紹介した「分子動力学法」でした。

全ての起点になるのは「転位」の存在です。ナノスケール空隙の周りで転位活動が活性化することを見定めた上で、巨視的(マクロ)な力学特性をきちんと評価すること。それが本研究の命題でした。

研究成果と研究発表

研究は基本的に「仮説」「結論」が前段階として存在することが多いです。今回に関しても、仮説は前に書いた通りでした。

結果としては、ナノスケール空隙を設けることによる延性破壊の転化の可能性を示すことができました。研究論文の話になるため、詳細の話は控えますが、転位活動の促進に起因した破壊過程の変化を確認できました。

  • ナノスケール空隙の存在は降伏応力の低下こそ避けられないが、同時に微細粒金属の内部からの延性破壊に転じる可能性も存在する。

  • 転位活動の程度は温度条件でも変わる。その点に起因して、ナノスケール空隙による延性向上の効果の程度が温度条件で異なる。

以上の研究成果を学内に加えて対外的な学会での発表に持ち込みました。実際に査読論文でも採択されることにもなり、十分に満足のできる結果になりました。

一連の研究活動を通しての話

高専と大学院で通算で6年に渡り研究活動に従事してきました。学生の身分でしたので、現在となっては至らないところもありました。

ただ、高専からこのような経験を積めたのは、今の自分のターニングポイントとも言えることでした。

現在の仕事は学生時代の経験を大幅に活かしたものでして、数値解析のソフトウェアベンダーの一員として、業務経験を積み上げているところです。扱うプロダクトは主に有限要素法になります。

学生当時は数値解析のことばかりが目に行きがちでしたが、現在は会社員の立場なので、ビジネスとしてどうあるべきかを考える日々です。一人の価値観を持つ社会人として、自分のペースを大事にしながら。

数値解析を主軸とするソフトウェアの品質管理が最大の役割なので、そこからの存在感の向上を黙々と目指しています。

仕事に対して学生時代の経験を大きく活かしたタイプであり、稀なレベルかもしれません。学生時代から続けてきたことを、社会の中で昇華することに一定の幸せを感じながら、また仕事に向かいます。

おわりに

今回は大学院の研究活動の話と共に、学生時代の研究を通して思うこと書かせて頂きました。ここまでひとつのことを深く追求してきて、社会生活の中で大きく活きているのは、他のジャンルでは無いかもしれません。

今回のシリーズはこれで終わりです。個人的な研究の話でしたが、最後までお付き合いくださいまして、ありがとうございました。

理系の話としては、改めて「転位」の詳細などを書く機会があればと思います。

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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
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