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塑性変形と転位の研究に身を捧げた学生時代の話 -4-

本記事は2022年9月に書いた「学生時代の研究活動」の話の再整理です。

学生時代はとにかく研究に明け暮れた時期でした。実際は塾講師のアルバイトと両立しながらでしたが、キツい時期を乗り越えた感覚があります。ここでの経験が今の仕事のキッカケにもなりました。

私の研究の経歴はかなり特殊です。木更津高専(通常課程と専攻科課程)と筑波大学(大学院)、合わせて6年間の時間を研究活動に注ぎ込みました。

高専と大学院では研究テーマこそ異なりますが、取り組んだ研究の大筋のテーマとしては「塑性変形を数値解析技術を利用して詳細に理解すること」でした。

今回は学生時代の研究活動の軌跡に関して、専門知識も交えながら、数回に分けて書いていくことにします。


前回は高専生の頃に取り組んだ研究を通しての、学生ならではの経験の話を書かせて頂きました。

舞台は移りまして、今回は大学院の話になります。大学院では、高専生の研究活動で知り得た「転位」の性質を深掘りすることにしました。

紆余曲折ありましたが、最終的に構築したテーマは「格子欠陥(ナノスケール空隙)が微細粒金属に及ぼす力学的影響に関する分子動力学法による評価」です。

転位活動をトータルで観察した結果から、金属材料(微細粒金属)に及ぼす影響を理論的に示します。


微細粒金属の存在意義

進学先の研究室では「微細粒金属」と呼ばれる特殊な金属材料をターゲットにしていました。一般的に金属はミクロ(微視的)に見ると、結晶粒(内部的に原子配列が規則化した領域)の集合体です。結晶粒の大きさはバラツキがありますが、平均のオーダーとしてマイクロメートル(μm)と言われています。

しかし、昨今の塑性加工技術で結晶粒の大きさを一定のレベルまで微細化することが可能になりました。サイズ感ではナノメートル(nm)と言われています。

参考文献:超微細粒組織先進構造材料の創製
http://www.mat.eng.osaka-u.ac.jp/coe21/res/pdf/15.pdf

この「微細粒金属」と称される金属材料は、従来の力学特性に関する法則性は通用しないことが多いです。例えば、降伏応力は結晶粒径と反比例するという法則(ホールペッチの法則)がありますが、微細粒金属の領域ではこの法則が崩れることが知られています。

これらの事象に深く関わる存在こそが「転位」です。ナノメートルの微細結晶粒のサイズ感は、原子の結晶格子のレベルに近づくことになるため、ミクロ(微視的)な存在とされる転位が幅を利かせることになります。

ひいては、微細粒金属の力学挙動に強い影響を及ぼすと考えられるのです。

微細粒金属の特有の物理現象のひとつとして、一般的な金属で見られる「へき開破壊」ではなく「粒界破壊」に至ることが知られています。これは、結晶粒径が小さいために、結晶粒界の占める割合が相対的に高まることが要因とされています。

これをマクロ(巨視的)な視点に置き換えるならば、脆性破壊に分類される破壊形態と言えます。脆性破壊は学校で使われるチョークのように、塑性変形のスペースが短いために、降伏直後に破壊することを指します。

塑性変形のスペースを確保すること、延性破壊の破壊形態に持ち込むことは、微細粒金属を使う上で重要な課題と言えます。これが大学院で取り組んでいた研究に対する意義のひとつでした。

ナノスケール空隙という着眼点

微細粒金属の力学特性の向上を課題目標として、研究に邁進しました。その上で注目したのが、意外にも格子欠陥(ナノスケール空隙)でした。空隙なので、微細粒内部にナノメートルのサイズの穴を空けるということ。

別の言い方をすれば、数十個の金属原子が集合的に消失すること。例えば、宇宙では一定強度の放射線やスペースデブリ(宇宙ゴミ)が存在します。その影響で材料内部にナノスケールのサイズの空隙(格子欠陥)が生成される事象が知られています。

つまり、材料に放射線を照射することで、意図的にナノスケールのサイズの空隙を作り出すことも、理論上は可能と言えます(当時は技術的に困難であり、実験レベルの検討は保留になりました)。

一方で、ナノスケール空隙な存在が転位の発生源になることが、同研究室の研究で解明されていました。ナノスケール空隙(格子欠陥)という、一見的に害悪と捉えられる存在が、微細粒金属では別の影響に変わる可能性があるということです。

  • 結晶粒内部にナノスケール空隙があることで、空隙の周りで転位の運動が活発になる。

  • 微細粒金属は結晶粒界付近の塑性変形が主要を占めるが、ナノスケール空隙の存在が結晶粒内の塑性変形を促進する。

  • 結果的に微細粒金属に特有の粒界破壊からへき開破壊に転じるため、脆性破壊の回避が期待できる。

この仮説が生まれたことで、ナノスケール空隙が微細粒金属の延性向上と、転位活動を実際に結びつける(立証する)ために、原子単位で物理現象を定量的に見ることができる「分子動力学法」を頼ることにしました。

おわりに

舞台を変えて、大学院の研究活動の話をしました。今回は、導入として研究活動のテーマに対する意義を中心に書かせて頂きました。

分子動力学法という解析手法は、大学院で初めて出会いました。後に就職先でも遭遇しますが、大学院の知識や経験もあり、自ずと理解できる部分がありました。

次回は分子動力学法での解析作業などの話から、続きを書いていきたいと思います。

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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
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