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二十年目の貼替え



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写真(↑)は私の好きな寺院の障子しょうじです。

泉涌寺せんにゅうじ塔頭たっちゅう雲龍院うんりゅういんの雪見障子です。

私の京都寺社巡りのきっかけを作ってくれた景色なんです。

四角い小さな窓から、椿、灯籠とうろう、紅葉、そして松が見え、4つの宇宙が織りなす四季折々の風情を堪能することができます。

私はシンシンと雪が降って、手漉き和紙の白さが一段と増す寒中がやっぱり一番好きです。


元来、私は障子を通過する柔らかな光に包まれたちょっと暗めの空間に身を置いて、静寂を味わうのが好きでした。そこに伽羅きゃらのおこうが漂ってくればパーフェクトです。

そんな和空間に憧れ続けて、我が家に新たに障子戸をあつらえたのはもう20年も前のことでした。

             * * * *

実は、寺社巡り好きの私が勝手に「方丈」(ほうじょう)と呼んでいる間(実は洋間なんですが)とリビングとの間仕切りに90cmx235cmのちょっと大きめの障子を四枚誂えたんです。

その障子を素人の私が今回、全面的に貼り替えたという話です。ちょうど桜の花が咲き始めた頃でした。

「えっ・・・?!」と驚かれて当然です。

何しろ、二十年間一度も貼り替えたことがなかったのですから。

三年に一度くらいは・・が一般的らしいのですが、超長期貼り替え放置の理由は三つあるんです。

一つ目の理由は、特殊な合成和紙でできているらしく、施工会社からは丈夫で、長持ちしますよと聞いていたため。

二つ目のそれは、2つの桟に挟まった形で紙が貼られてあったんです。貼り替えには、どちらか一方の桟を外さなければなりません。「障子の桟は一つ」という思い込みのあった私には、桟の外し方が分からなかったという単純な理由からでした。

しかし、流石さすがに二十年も経つと、真っ白だった魔法(?)の和紙も、薄汚れてシミも目立つようになり、あちこち破れて穴がいてしまっていました。

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中でも一番の大穴はこれで、さながら雪見障子(?)状態でした。

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実は、大穴の原因はこれ(↓)なんです。

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ちょうどハイハイが上手になって、興味が湧くと、自分の意志でどこヘでも(たとへ、そこに壁があっても)行きたがるようになり始めていた頃の孫です。

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自分の手足で、体全身で、五感をフル稼働させて、周りの世界を冒険することが、もう楽しくてしょうがないという時代でした。

でも、最初から、ダイナミックなこの遊びを見つけ出したわけではありません。

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ちょっとした事件が、事の発端ほったんでした。

最初は、小さな手で、バンバンと紙を叩いたり、指先で突いたりしているだけだったと思います。ただ、

その手の指先にたまたまよだれがついていたとしたら------------?!

障子はどうなったか、結果は想像にかたくないですよね。

濡れて破れて小さな穴が開きました。

「???!」

また繰り返す。

「??????!!!!」

「?」が2倍になり、「!」は4倍に膨れ上がりました。

そうすると、もう何回も何回も叩く、叩く。

掌の平で、指先で、腕でもやってみる。同じことを繰り返すから穴はだんだん大きくなる。

そのうち身体でも・・・と、最後には体ごと障子の穴に突撃する。

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

こうして「障子を破る」遊びは、「障子を通り抜ける」遊びに変わっていきました。

手足、頭、全身を効率よく操作する技術は上がり、通り抜けタイムはどんどん短縮されていきます。

結果、障子の破れは最高レベルにまで達してしまっていました。

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通り抜けた障子の向こうから私を見上げて微笑んだ、孫の誇らしげな顔がありありと浮かんできます。

「OOくん やったね、楽しいね!!!」って

私は孫の昂揚こうようした気分に合わせて高めのピッチでそう声を投げかけたものでしだ。

本当は、私も孫の真似をしてくぐり抜けたいくらいでした。

観ているだけではつまらない、しかしサイズ的に大人の私には叶わぬ願いでした。

     

こうして、我が家の特別・・な雪見障子は出来上がったのでした。

今でもこの場所を見るたびに、あの可愛い職人さん(?)の笑顔が鮮明に蘇ってきます。

何もかもが目まぐるしく変わり続けてゆく現代社会だから余計に、いつまでも変わらずに、昔のままであってほしいとそう願う心からでしょうか、

今まで、ここを放置していた最後の、そして最大の理由はこのためでした。

* * * *

あれから15年近い時が流れました。

今は、離れて暮らす孫ですが、この春、念願の高校にめでたく合格したとの連絡が入りました。

また一歩大人に近づいた孫の門出にと、私は真っ白な手漉き和紙にねがいを込めました。

「二十年目の貼り替え」、決して「浮気」心からではないんです。

大切な思い出を一つ消してしまう、それなりの決心が要りました。

でも、私は決めました

孫が残した我が家の特別な雪見障子(?)

あれはあの時のままで私の心の中に大切に仕舞っておこうと。

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さて、気になる仕上がり状態ですが、何箇所かにシワが残りましたが、優しい嫁さんからは「すごい」と合格点がもらえました。

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最後まで読んでいただきありがとうございました。
















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