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アートケアだより2023年9月号

 6年生ご家族へのインタビュー。今月は姉妹で通ってくださっているご家族のUさんです。Sちゃんが6年生、妹のKちゃんが3年生。今回は6年生のSちゃんのお話をメインにお聞きしました。 
(上の写真:4年生の1〜3月にかけて制作した宇宙モチーフの「ビー玉ころがし」)

●フルタイムで働いているから、できるときにできることをしようというペースで

冨田:アートケアを知ったきっかけは。
U:4歳の頃、スイミングで一緒だったお母さんに聞いて知りました。「最近、なんでもウンチを描くんだけどさぁ」と言ったら「おもしろい先生がいるよ」と。その方は子ども自身がアートに興味がないから小さい頃で辞めたそうなんですが、アートケアのことを教えてくれたんです。
冨田:ありがたいです。
U:その頃、いろんな習い事の体験に行っていたんですけど、唯一、ここだけ「また来るね!」って言ったんです。
それで決めました。これには続きがあって、下の子も体験した時、Sと同じように「また来るね!」って言ったんです。びっくりしました。
冨田:何かがフィットしたんですね。よかった~

4歳、体験の日。すごくたくさん描きました

U:今回、アートケアのアルバムを初めて見直してみたんですけど、写真映りがいいんですよ。すごくいい顔をしていると思いました。今も結構いい顔をしている。よっぽど楽しいんだと思うんですよね。
年中さんの頃に作った工作のアイス、あれは年長さんの時にも遊んでました。

アイス!

冨田:いつもお子さんが取れる所に保管されているんですか?
U:本人が気に入っているものは棚に出し入れできるようにしていました。小さい頃、家で落書き帳に描くのがものすごい量で、倉庫に保管してました。さらに工作とか増えてきて、取っておくものとそうでないものを本人に選んでもらってました。私にくれたものは日付を書いて保存しました。
冨田:それはすごい!!
U:保育園から帰宅して親が家事をしている間、お絵描き工作。どんどん増えるので、とにかく日付と、アートケアなのか家なのか場所だけ入れて、半年に一度くらい、落書き帳、物語のファイル、マンガのファイル、と整理していました。保育園でお友達と交換した手紙なんかも入れてました。
冨田:すごい~、なかなかできないことですよ。
U:フルタイムで働いていて、ご飯作って寝かせてっていう毎日なので、親子で接触する時間が少ないほうだと思うんです。せめてそれくらいは、と思って。うち、運動会とかで動画は撮らないんですよ。あとから絶対見ないので。結婚式の時も動画をかなり勧められたんですけど、夫婦揃って「いらないので」って作らなかったくらい。
冨田:子どもたちは自分の動画を撮ってほしいとか見たいとか言わないんですか?
U:言わないですねぇ。

冨田:お仕事をしながらの出産育児は、大変なこともたくさんありまよね。
U:出産前に勤めていた会社は、やり甲斐もあって楽しいけれど、とても忙しかったんです。なかなか妊娠しなかったので生活を変えた方がいいかなと転職し、Sが産まれました。
転職先もいい会社だったんですけど、1歳の頃、会社が都内に移転しまして。朝早くから夜遅くまで保育園に預けて頑張って通っていたら、Sが痙攣を起こすようになったんです。これはいけないと辞めました。
その後、今の仕事に就き、さらに今は在宅勤務なので家にいる時間が多くなって助かっています。
ということで2歳まで一旦保育園に通って、年中さんから別な保育園に通いました。
冨田:ちょうどアートケアに来始めたのと同じ時期に2回目の入園だったんですね。(アートケアのアルバムを見て)5月、車を作って親子を乗せた作品。お母さんと2人で参加した日で、Uさんも「久しぶりに2人で工作をして楽しかった」と書いていらっしゃいます。1つの車に2人乗っていて、なんだか親子で日々の生活を「がんばるぞー!」って感じがしますね、今見ると。

年中さん5月。2年のブランク後に再入園した頃の作品

冨田:小学校では、家族での口喧嘩で少々ご苦労されている以外は、大きく困ったことはなかった感じでしたよね。保育園時代も困ったことはなかったですか?
U:なかったんですよ。もう楽しくってしょうがない。入学してGW前に、下の子のお迎えで久しぶりに保育園に連れて行った時、園で担任だった先生の前で大泣きしたんです。入学後に溜まっていた気持ちが出たんだなぁって今でも覚えてます。
その頃、学校にも学童にも慣れるのに精一杯で、家で私を噛んできたり大変でした。家ですごく感情が出る。外では「しっかりしたお子さんですね」って見えるみたいですけど。
今でも自分の中で何かあると、家でずーっと描いてるんです。いろんなタイプのものを描いていて、自分の中で整理しているのかなーって見ています。

●完成形が大人に伝わらない

U:小さい頃のワークでは、Sが何を作りたいか、完成形がわからなくて困りました。
冨田:お父さんと一緒に工作していた時、結構、エキサイトする場面がありましたよねー。「ペンギンの貯金箱」を作っていた時とか。

1年生の7月。父娘で作ったペンギンの貯金箱

U:うちのお父さんは「見た目がいいのがよし」というところがあるので余計に、「完成形がわからない」と言って困ってましたね。この「立体迷路」も「何作りたいかさっぱりわからない」ってボヤいてましたもん。

1年生の11月。おもしろいアイデアの立体迷路。

冨田:「小さい子は完成形があってそれを目指すのではなくて、具体的に物を触って動かしながらというプロセスで出来上がっていく」と折々にお伝えしたんですけど、それをサポートするのは難しいですよね。
U:とにかく家でも怒ってばっかりで。Sは小さい頃から口が達者で、大人もエスカレートしちゃって。前に、野菜嫌いをどうしたらって話題になった時、冨田先生が「野菜を食べたらキレイになるよ」って話したら、「お母さんは野菜ばっかり食べてるのにキレイではない」って言ってたことがありましたよね。そんな感じで切り返しがすごくて。自分は父母にはあまり口答えとか言わなかったから。父母はもっと目上の人っていう感じでしたもの。
冨田:時代の要素もありますよね。

U:お友達や、よその方には失礼なことを言わないんです。
冨田:(アートケアのアルバムの)ここ、年中さんの頃の記録にもそんなエピソードを書いておられますね。

『秋祭りの日、浴衣を着てOKで、浴衣を着て行ったら、他のお友達が持っているのに着てこれず大泣きしているのを見て「〇〇ちゃんのスカートがかわいくて浴衣みたい!」と言って友達が喜んだと聞いて、我が子ながらすごい!と思いました』

U:そんなこともありました! 最近だと、先月号の I さんのインタビューを、お子さんが同級生なのでSにも読ませたら「さすがだね~素敵な人は、やっぱりこうなんだね~」「お母さんもそう思うわ」と2人で話しました。
それにある意味、ケンカであっても言ってくれるから安心なんです。私も素直に反応しちゃうので、会社の人はびっくりしてます。
冨田:びっくりされるのはUさんご自身のこと?会社ではどう見られているんですか。
U:明るくハキハキ、みたいな。理不尽なことを言われても聞きながら普通に流せちゃう(笑)。でも子どもだと真剣になって、だから頭にくるんですよね。

●感情が動くとすぐ行動する

冨田:「これはすごい!」と思うのはどんな面でしょう?
U:アイデアが浮かんだ途端にすぐ形にできるのがすごいと思います。ケーキ作りなんかも得意で、YouTubeを見て、自分でアレンジして三層のケーキを作ってみたり、「レシピはブルーベリーだったけど、いちごが美味しいかなって変えてみた」とか。アジサイゼリーも作ってました。

いちごケーキ♡

冨田:夜でも作る?
U:そうです!やるってなった時の行動力がすごい。で、やりたいことの前に、やらなきゃいけないことを、ちゃんと終わらせるんですよ。
冨田:そこがすごいですよね。やらなきゃいけないことを後回しにしないって、子どもにとってはハードルが高いことですから。
U:だから周りからしっかりしているように見えるんでしょうね。
よそのお母さんから「ゲームしなくてすごいねー」って言われるんですけど、ゲームをやる時間がない。携帯も持ってない。LINEとかでお友達と繋がれたらっていう気持ちもあるみたいなんですけど、「返信したりで時間がなくなるよ」と言うと「そうだよね~」って納得していました。とにかく好きなことやりたいことがたくさんあって。刺繍、お菓子作り、剣道、水泳は最近辞めたけどピアノ、塾。まぁこんなに色々とよくやるなと感心するくらい、Sは時間の使い方がうまい。でも自分のスケジュールをもとに家族にスケジュールを指図するのはちょっと…。あなたのスケジュールでみんな動いているわけではないんだからって言ってます(笑)。

あじさいゼリー☆

冨田:思い出深い作品ってありますか?
U:本人が気に入っていたのだと、布を貼った箱、今でも使っていますね。お人形さんシリーズは結構ずっと遊んでいました。
冨田:このマカロンの粘土作品、リアルでしたよね~
U:マカロンをもらって大感激で、感動して作ったんですよ。余程感動したのか、5年か6年生の時に「これまでで印象的だったこと」を書く作文で、「感動して粘土でも作りました」といったことを書いてました。

3年生の8月。ワーク数回かけて完成したマカロン。美味しそう!

U:あとこの立体的な絵の作品。ジブリ美術館に行った後、作りました。ジブリ美術館の入口に、パネルが奥行きを変えて立体的に置いてあって、1つの世界観が作られていたんです。それをヒントに作り始めました。で、この時初めて1回のワークで完成ではなく、何回かかけて作ったんです。展覧会まで一生懸命、作っていました。元々お話や絵本を作るのが大好きだから、作りながらこの作品の冒険の話を書いていました。

2年生の1月。紙に描いたものを立体的にしていく構想
2月、完成!


小学校に入ってから絵本、最近はマンガ。でもね、先生!ストーリーが途中で終わって、全然違うものになってるんですよ。完成しない。
冨田:私も小学生の頃、マンガを描いたりしましたけど、完成しないんですよね~これが!小学生あるあるかも。
ワークでは、試行錯誤という感じの制作が多くなりましたね。漫然とではなく「今日はこれを試してみよう」と自分なりに課題を持って臨んでいる日が多いです。エチュードの積み重ねも大事なので、作品展に出すようなババンとした完成でなくても良いと思いますよ。展覧会とか学校の宿題とか、ここぞという時は完成度を上げていますし。展覧会では、その子の軌跡を示すように、ババンとした完成品ではなく、エチュード的な作品を展示することもあります。
大人が思う完成とは違うことって、どのお子さんにも結構あるんですよ。そこでご家族に不要な心配やイライラがないよう、私がもっと意味をお伝えしないといけないですね!

冨田:皆さんに伝えたいことなどありますか?
U:ワークで先生が「この場合、こういうふうに変化します」とか「3歳くらいでは、まだこれは難しい」と育ちの過程を話してくれますよね。全然違う客観的な目で子どものことをアドバイスしてくれる。「こういうふうに接した方がいいですよ」と話してくれるから、子どもがやめるって言ったとしても私は続けたと思います。やめるって全然言いませんでしたけど!
先生は絶対に子どもをほめてくれるから、子どもたちも安心なんだと思うんです。

5年生の1月。顔彩で描くための色指定

・・・
Uさんご一家は、普段のワークだけでなく、アートフレンドシップ協会のイベントにも積極的に参加してくださって、「応援してくださるってこういうことなんだ!」といつもありがたく思う、頼もしいご家族です。
家族のケンカも、包み隠さず出してくださるおおらかさも魅力。自然体がかっこいい。

コロナ禍の2020年に、真っ先にオンラインワークに参加してくださったのもUさんご家族でした。
場を作る人と参加する人が、対等に支え合う。それが実現できるのは、Uさんのようなご家族がたくさん通ってくださっているからだなと、しみじみ思います。

*6年生での作品は、2024年3月に予定している「アートケアひろばの展覧会」をお楽しみに! 当会HP「web展覧会」でもご覧いただけます。


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