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震災支援プロジェクトを通して想う「アートの力」

東日本大震災から10年が経とうとする本年、テレビなどでも震災を振り返る番組が放映されています。その当時、アートハッコウショのわたしたちも、仕事の打ち合わせで訪れていた東京・九段下のシェアオフィスで震災に遭遇し、自宅までの帰路が閉ざされたことを今でもはっきり覚えています。
今回は、アートハッコウショの高橋が参加したアート関連の震災支援プロジェクトのボランティア体験を通し、「アートの力」について考えてみたいと思います。

「ユニセフ祈りのツリープロジェクト」

「ユニセフ祈りのツリープロジェクト」は、日本ユニセフ協会とデザイン・広告の業界で活躍するクリエイターやアートディレクターなどが、“東日本大震災で被災した子どもたちを笑顔に”と始めたものです。クリスマスの時期に被災地の保育園や幼稚園に訪問し、子どもたちと一緒にツリーのオーナメントを作ったり、全国から寄せられた手作りのオーナメントを飾り付けをしたりするこのプロジェクトは、震災直後の2011年から2015年まで行われました。
岩手、宮城、福島の三県の被災地で行われたこのプロジェクトで、私がボランティアとして参加し訪問したのは福島でした。福島は他の二県と違い、放射能という目に見えない恐怖が続く場所でした。実際、見回しても震災前の光景と変わらないような場所もありましたが、おそらく震災前には元気に駆け回っていたであろう子どもたちの姿はありませんでした。県外に避難する人が増え、残る子どもたちは外で遊べず、かつての当たり前だった光景が当たり前ではない日常と化していました。
実際に、一緒にオーナメントを作ったり飾ったりした幼稚園の子どもたちはとても元気そうに見えましたが、いつもはこんなに元気な訳ではなかったそうです。こうして県外の人たちがやってきて、一緒にツリーのオーナメントを作るというこの特別な機会を心待ちにしていた、と幼稚園の先生はおっしゃっていました。
非現実的な日常に舞い降りてきた、クリスマスツリーのオーナメントを作り、飾るイベントという非日常。それはたった一日のイベントというだけでなく、子どもたちにとっては待ちこがれていた希望のようなものだったのかもしれません。

子どもたちと一緒にオーナメントを作り、飾り付けしたクリスマスツリー

このプロジェクトの世話人であるグラフィックデザイナー・ソーシャルデザイナーの福島治さんが「震災後、多くのクリエイターが被災地支援に名乗りを上げ、プロジェクトが実施されました。しかし、個人がばらばらに動いていては大きな力にはならない。もっと全体で力を発揮できるような仕組みができたらと考えていました」と語るように、被災された人々への想いや祈りを起こし、集め、届けることそのものがクリエティブ=創造の活動、とプロジェクトに参加してより強く実感できました。

「千人仏プロジェクト」

「千人仏プロジェクト」は、アーティストで絵画教室ルカノーズを運営する三杉レンジさんを中心に、震災から一年経った2012年より始められたプロジェクトです。仮設住宅に訪問し、被災者に木炭で菩薩像の絵を描いてもらうというワークショップは、足かけ5年かけて行われました。2017年3月には、活動のフィナーレとして、1006枚の仏像の絵が被災地である大船渡で展示されるというので、搬入時のボランティアとして参加しました。  
被災者によって描かれ、匠の技を持つ表具師によって表装された1006枚の弥勒菩薩像や地蔵菩薩像は、描いた人本人や震災で亡くなられた家族に顔立ちが似ているものだけでなく、木炭で画面全体が黒く塗りつぶされたものもあり、描いた人の心そのものを映し出す、あるいは描いた人に寄り添っているかのようでした。
菩薩の世界が、自らの悟りのためだけでなく他の人々を救うために生きた人たちの世界、というように、このプロジェクトを企画し実施した人々の想いと、菩薩像を描いた被災者の人々の想いが、それぞれ他者を想う心として合わさり、大きな一枚の世界として創造的に構築されたように感じました。

写真上/大船渡市民文化会館リアスホールで展示された1006枚の千人仏    
写真下/「千人仏プロジェクト」の記録は冊子にまとめられている     

プロジェクトを通して想う「アートの力」

被災者の立場からみれば、これらのプロジェクトはアートでもなんでもないのかもしれません。それでも、被災者のために支援できることは、なにも物質的な提供だけではありません。何かを一緒につくり上げることで、被災者の人々が自身で生み出しそして得られること、その精神的な提供こそが「アートの力」であると思いました。

2018~2019年に森美術館で開催された「カタストロフと美術のちから展」の展示作品のひとつに、こんな文章がありました。

つくることは 一歩踏み出すこと
つくることは 心の色をぬり変えること
つくることは 生きること
つくることは 明日を変えること ーー高橋雅子(ARTS of HOPE)

アートは決して一人でつくられるものではありません。過去生きてきた人々が残していった知見と、今を生きる人々による支援、そしてアートをみる人々の受容によって、はじめてその力を発揮するものだと思うのです。

震災10年のこの節目に、あらためて被災者や被災地へ想い運び、そして生きる上での「アートの力」について、一緒に考える機会となりましたら幸いです。

アートハッコウショ
ディレクター/ツナグ係 高橋紀子 

※写真はすべて筆者撮影


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