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白き龍


実に2年半の歳月が経った。父には申し訳なくおもうが、許してくれ、そして孫たちの成長を見守っていてくれと手を添えた。骨壷に絵を描いた。これは絵画教室の生徒さんで、トールペイントの先生から、ご自身のお母様の骨壷にお花の絵を描いたことを聞いたからだ。親子の対話がまさに絵画で繋がったという。

僕は、漆黒の美しい骨壷と対峙した。そして白い龍が思い浮かんだ。使うのはホワイトのみ。一気に描く。
上辺には、対で天に昇る龍。
そして側面には優雅に飛ぶ横顔。

下着一枚になっていた。まるで褌一枚で滝に打たれる行者のように。上から、浴びるほどのエネルギーを感じる。そして、生み出された白き龍は、その滝を昇っていく。

手を合わせた。とても静かで厳格な気持ちだ。これがティクナットハン禅師のいう「雷のような沈黙」なのだろう。

また父から、そして先祖代々から教わった。この感覚だ。この感覚で絵を描き、生きていくのだ。
しかし、どこまでも穏やかに、日常的な感覚を忘れない。地に足をつけること。現実を丁寧に生き、子を育て、命を見取る。

ーーー
神主家系だった父は、祖父の跡を継がず、造園業を営む。出世はしたが元来の気質で、家族を失う。それから他界するまで30年は故郷に帰らなかったという。「帰れなかった」というのが正しいのか。
再会した時に、「お父さん、いつか宮崎に帰ろう」と言った。父は静かに頷いた。息子となら、仕切りを跨げると思ったのかもしれない。しかし、それは叶わなかった。

愛犬モネも危篤の中で、僕は宮崎に父の遺骨と共に帰る。不思議な巡り合わせだ。大きな葛藤もあったが、覚悟している。僕は、祖先に祈る。「あるがまま、おもうがままに」と。まさに、神のみぞ知る。そこに感情的に立ち入ることはおこがましい。
僕はただ、雷のような沈黙を保ち、隣人の言葉に左右されず、粛々とやるべきことを行うのみだ。

そうして、今回の件について、たくさんの方々にご心配をおかけして、いつか新しい自分として恩返しをしていきたいとおもう。それしか、生まれてきた意味はない。

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