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森の中の椅子

森の道を歩いた
道なき道を

濡れ落ち葉の絨毯が
グレーの空気に色を浮かびださせている。

今朝の冷え込みで
編み足されたじゅうたんは
さうさう と踏み音を奏でる。

こんなところに椅子が
椅子といっても
角材を加工しただけの
素朴なものだが

誰がいつ頃作ったのか

道を歩み
ときには休み
森の空気や
光のまばたきや
鳥たちの奏でるさえずりを聴く
それにはとても良い椅子だ。

椅子を作った人は
人生の価値観が似た人かもしれない。

逝ってしまった人と
もう共に歩くことはできない。
亡くなられた人と
もう一緒に座ることはできない。
この椅子で
森の美しさを語り合うことができない。
森の木立の息吹を
吸い込んで
美味しいなと言いあうことも
できないのだ。

忘れ去られたに見える
この椅子にも
どれほど大勢の人が座ったのだろう。

そのお尻の体温をかみしめ
直射日光で暖められることのない
この椅子は
次の訪問者を
静かに待っているのかもしれない。


独学の画家 香本博(コウモトヒロシ)です。北海道から沖縄まで約130回の個展を開催してきました。より多くの方に見て知っていただけるよう、絵本出版なども考えています。応援よろしくお願いします。