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Q29 やってみた動画

エンターテインメント・ロイヤーズネットワーク編
エンターテインメント法務Q&A〔第3版〕
株式会社 民事法研究会 発行

より許諾を得て抜粋
協力:エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク


Question

 人気の歌やダンスなどを面白おかしく真似た動画を作成し、動画投稿サイトで公開した場合は、権利者の求めに応じて削除しなければならないか。

Point

① 振り付けの著作物性
② パブリシティ権
③ パロディの適法性


Answer

1.振り付け等の著作物性

 個人や有名人を問わず、人気の歌やダンスを真似した動画を動画投稿サイトに投稿することが流行しているが、これについて、歌やダンスを真似された者は著作権等の侵害を主張して当該動画投稿サイトからの削除を主張することが考えられる。
 歌の歌詞や曲は当然のこと、ダンスの振り付けについても「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)に該当すれば、「舞踊の著作物」(同法10条1項3号)として著作権が認められることがある。この点、社交ダンスの既存のステップの組合せの著作物性が問題となった事例では、「既存のステップの組合せを基本とする社交ダンスの振り付けが著作物に該当するというためには、それが単なる既存のステップの組合せにとどまらない顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要である」とされている(東京地判平成24・2・28裁判所ウェブサイト(平成20年(ワ)9300号))。これを前提にすると、ダンス等は、一般的に、基本の振り付けを組み合わせたものが多いことから、著作物性が認められるのは例外的な場合であるといえる。
 そのため、歌の真似については、当該歌についての複製権(著作権法21条)または翻案権(同法27条)の侵害にあたる可能性があるものの(ただし、一定の楽曲については、動画投稿サイトにおいて、著作権等管理事業者との間で包括的な利用許諾契約を締結しており、自分で歌うなどして、その歌詞やメロディを複製・翻案することは著作権侵害にならないといえる。なお、原盤権についても、動画投稿サイトによっては、権利者に利益が配分されるしくみを構築しているものもあり、無断利用をしても、著作権侵害にはあたるものの直ちには削除を求められない場合があるようである)、振り付けについては、上記の条件を満たさない限り、その侵害にはあたらない。

2.パブリシティ権

 この投稿された動画において、歌やダンスを単に真似しただけでなく、元の歌やダンスをしている芸能人等の格好や風貌をそっくりにして、ものまね的に行った場合には、その芸能人等の顧客吸引力を不当に利用したものであるとして、パブリシティ権の侵害を主張される可能性がある。パブリシティ権は、肖像等が有する商品の販売等を促進する顧客吸引力を排他的に利用する権利として、判例上認められている(最判平成24・2・2民集66巻2号89頁〔ピンク・レディー事件〕)。そして、この最高裁判決によれば、「肖像等を無断で使用する行為は、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である」とされている。
 そのため、単に個人が自らの趣味で動画を公開した場合には、他人の肖像等の顧客吸引力を利用しているとはいえない場合が多いと思われることから、その観点から、パブリシティ権の侵害は問題とならない。
 他方で、事業者が、動画によって広告収入を得たり、自らの商品の販売のための広告として動画を使用したりした場合には、その動画は、上記②に該当し、パブリシティ権を侵害する可能性がある。

3.パロディ

 これに対して、当該動画における歌やダンスが一見して本人でないことが明らかであり、本人の特徴を残したまま違う内容の作品をつくり上げたものであった場合には、それらの歌やダンス、または、芸能人本人が作成した当該歌やダンスの動画等の翻案権(著作権法27条)の侵害が問題となる。
 翻案とは、「既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をい」うとされ、「既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案には当たらない」と解されている(最判平成13・6・28民集55巻4号837頁)。
 この点、元の歌やダンスを行う芸能人の特徴は似せながら、歌やダンスを行うのではなく、投稿者自身の持ちネタを行ったりする場合には、当該芸能人の特徴という「表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分」が同一であるにすぎないことから、翻案にあたる可能性は低いといえる。
 他方で、歌等をそのまま真似する場合には、前述のとおり、これらの複製権や翻案権を侵害する可能性があることから、注意が必要である。異なる歌詞やメロディを元の歌に似せて歌う場合にも、元の歌の本質的な特徴を直接感得できる場合には、「翻案」にあたる可能性があり、留意すべきである。

執筆者:星 大介


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