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【Report】Arts & Crafts Talk #01 ナガオカ ケンメイさんの「ロングライフデザイン」から文化と暮らしの在り方について考える

8月27日の夜、デザイン活動家/D&DEPARTMENT PROJECT ディレクター
ナガオカケンメイさん
をお招きして、オンライントークイベントを開催しました。イベントへの申し込み人数は170名にもなりました。

「Arts & Crafts Talk とは?」

私たち、Arts & Craftsのミッションは「社会に文化の根っこをつくる」
そこから、外側の経済的な理由ではなく内発的にものづくりができることです。また、「文化と生活を一致させるためには?」のテーマをかかげ、文化(個々人の持つ美学)と生活(経済的選択)の折り合う部分はどこにあるべきなのかを模索しています。想いが近しい方々をお招きしてお話を伺うArts & Crafts Talkです。(誰が運営してるかなどは最後に詳しくお伝えします)

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(※1)上記     Illustration:aoart

Arts & Craftsのプロジェクトは今年の5月に立ち上がったばかりです。
アーツ・アンド・クラフツ(※1)という有名な名前を掲げてはいますが、絶賛模索中。模索するなら、既に活躍されてる方にお話を聞こう!そんな中、「アーツ・アンド・クラフツ運動といえば、この方!」とすぐ頭に浮かんだのがナガオカ ケンメイさんでした。Arts & Craftsのメンバー柿内が取材を3度させて頂いたご縁で登壇を頂きました。

ゲスト紹介
ナガオカケンメイ
デザイン活動家。’00年に「ロングライフデザイン」をテーマにD&DEPARTMENTを創立。’09年よりトラベルマガジン『d design travel』を刊行。47都道府県に拠点を作りながら、物販・飲食・出版・観光などを通じ47の個性とデザインを見直し、全国に紹介する活動を行う。’12年より東京渋谷ヒカリエ8/にて47都道府県の「らしさ」を常設展示する、日本初の地域デザインミュージアム「d47 MUSEUM」を発案、運営。’13年毎日デザイン賞受賞。※日々の活動やデザインを発信中。

ナガオカさんのメールマガジンとnote

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前半部分ではナガオカさんの活動についてお聞きし、後半部分では事前に募集したナガオカさんへの質問に答えていただきます。
ナガオカさんの活動や考え方を掘り下げ、これからの文化と生活のかかわり方について考えるきっかけになる90分でした。

前半:ナガオカ ケンメイさんの活動について

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直営は基本やらない。住んでる人たちがやらないとその土地の為にはならない

ーD&DEPARTMENT PROJECTは現在、国内外12拠点で店舗を運営されてますが、後ろにBYが付いてる店舗はフランチャイズとお聞きしてます。

「直営は基本、やりたくないんです。自分たちの知らない土地で自分たちの世界観を出すなんて、到底無理ですし、住んでる人がやらないとしょうがない。住んでる人たちがやらないと、その土地のために結局はならないんで。声がかかっても、フランチャイズに誘導していってます(笑)。昨今、東京中心に経済が回ってないので、地方に東京のデザインを持ち込まないことが必要ですね

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ー沖縄の共同売店を視察されていたと現地の知人から聞きました。
また現地の人と接する時にその人の何を見ようと接していますか?

沖縄の共同売店(※2)はこれからの商業のヒントになると思って注目してます。(地方でお店を出すうえで)僕があなたの土地でやりたいって順序じゃなく、全部僕が考えてることをあなたの土地でやったらどうなりますか?という流れで質問等しています」

(※2)村や集落の地域住民の共同出資・共同運営により作られた沖縄特有の売店

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沖縄店が移転リニューアル。名称も変更され「D&DEPARTMENT OKINAWA by PLAZA 3」に。

ー地方でお店を出す、運営する上で難しいと感じるとこ、やりがいだと感じるとこはどんなところですか?

「今、僕らは『D&DEPARTMENT PROJECT』からPROJECTをとって『D&DEPARTMENT』にしていってるんです。『D&DEPARTMENT PROJECT』っていうと、どうしても大きなものに見えてしまうから、さらに今は小文字のdだけにしてます。大きなものじゃくて、街の地図の記号みたいものになる。つまり、長く続いてる素晴らしいこと=dの文字に託していて、そのことを一緒に盛り上げたいと思う人は多分世の中にいっぱいいると思うんですけど、dという共通記号を名乗り合うことで出来ることがやっぱりあって、それを最低限、やってるだけなんです。ブランド展開しようなんて全然思ってないです」

ー現在進行中の「d news aichi agui」について、ナガオカさんの故郷でのプロジェクトとお聞きしました。

「3歳から18歳まで、この土地で育ったんです。自分の故郷で何かしたいな、ということではじめました。(「d news aichi agui」プロジェクトでは)元々、機屋の工場跡をリノベーションして、dの新しい拠点を構えることを町民にクラウドファンディングで呼びかけたんです。1,500万円目標で、最終2,200万円弱の支援が集まりました。これも、『街にこういう機能があったら、どうですか? 賛成だったら一票ください、要らなかったら無視してください』ということで町民や愛知県の方を中心にクラウドファンディングをしたんです。そうしたら2,200万円の約70%が愛知県民の方の一票で、それは『お前が言ってるd news(D&DEPARTMENTの新しいスタイルの小さなお店)が街に必要だ。一票出すぞ』ということなので、今動いてます

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現地に行く、現地のものは現地の空気感とともに味わう

ー新しくオープンされたD&DEPARTMENT MIE by VISONについて教えてください。

「VISONは三重県の多気町というところにできた大型の商業リゾートを拠点にした地方創生プロジェクトです。直営ではなく、VISON自身が運営する、フランチャイズのD&DEPARTMENTです。お店は2階建ての棟に入っていて、2階が宿泊施設になっています。D&DEPARTMENTで売っているものがインテリアにセレクトされた客室ですね。使われているインテリアは、1階のお店で販売もしています。宿泊してみないと分からないことがいっぱいあるので。これは僕らがこれからやっていこうとしているマイクロツーリズム的なもの。僕はお取り寄せすら否定しているので(笑)。ここでは三重に来て三重のものを味わって、どうしても美味しすぎたら持って帰ったり、後で家に帰って取り寄せたりしたらいいなって。とにかく泊まって欲しいというのがこれからなんじゃないかと思います

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それぞれの昔からある個性、原点が未来を創る

ーd design travelについて、どういった経緯で作られたのでしょうか?

「世の中にあるトラベルガイドが人気のある県のものしか出てなかったんですよ。今でこそ47都道府県網羅しようという動きがありますけど、(当時は)ビジネスとして出したら売れる県が選ばれているだけだった。僕はやはり47都道府県それぞれに個性があると思って、同じフォーマット・同じ厚さで全部貫いてみようとムキになって始めたのがこれで。今ようやくこのトラベル誌と時代が合ってきているような気がしますけども、当時はそうではありませんでした」

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ー色々な活動をされていますがその全てに通底するキーワードとしてロングライフデザインという言葉があると思います。

「d design travelもD&DEPARTMENTも根柢の考えのポイントは一緒です。自分たちの土地が自立していく、トラベル誌もそうであなたたちの昔からある原点が未来を創っていく原子ですよっていうことを気づいてもらうためにやっているので。活動としては共通の意識でやっています

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ものづくりには美しい心が重要

ーナガオカさんの過去のインタビューで、富山で民藝を学んだ話から宗教・祈りのデザインのお話に至ったと聞きましたがそこにはどういう体験があったのでしょうか?

「皆さんそうだと思うんですけど、世の中のデザインの中でどうしても気になるみたいなものってあると思うんですよ。そういうものの中に普通の作り方ではない作られ方をして生まれたものがあるんじゃないかと思って、自分もそれがあったんですよね。富山で民藝を学んで、心が美しいっていうのはすごく重要だと実感して、今心が美しくない僕はどうやったら清められるかなって。それでだいたい辿り着くのが禅だったりするじゃないですか。それでデザイン学校をお寺の中に作るのが正解だなって思っていたら、やっぱり民藝運動はお寺から生まれているし、今富山で生まれている新しい民藝運動を作る運動もお寺の中に作ろうとしている。祈りとか雑念を取り払うみたいなことは、どうやったって、美しいものを作ったり、美しいものを見てすごく感動したりするということにおいて、重要であると。そういったことが、今面白いなっていう段階です」

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ナガオカさんは地域の個性や現地の空気感というものを特に大切にされているようですね。祈りは美しいものを作ることにおいて大切だというお話も大変興味深かったです。
ここからは事前に募集したナガオカさんへの質問をピックアップし、そちらに答えていただきます。

後半:質疑応答

大量生産は必ずしも悪いことではない

ーロングライフデザインをテーマにされているナガオカさんから見て、100円ショップや大手量販店の模倣の動きについて、ご意見をお伺いしたいです。 

「100円ショップはすごく頑張っていて、昔は安かろう悪かろうだったんですけど、今の100円ショップにはアイデアがあって、それってとても良いことだと思っています。100円ショップ=悪いだとか、コピーしているからダメだというよりは、100円ショップも前を向いて頑張っているんだなと思ってたまに行きます。実は今100円ショップで販売する商品をプランニングする仕事をやっていて、プラスチック製品なんですけど。こういう商品を100円ショップで売ることによって100円ショップのイメージも上がるだろうと。前を向いていれば良いかなと思います」

ー今、ナガオカさんが注目している作り手、プロダクトメーカーさんを教えてください。

「最近注目しているのはプラスチック製品で、割れないし便利だし安いし大量に作れるし、如何様にもつくれるから、A地点からB地点までものを持っていくときの運び人みたいな扱いをされてよく捨てられると。捨てるってことがすごい便利じゃんって思ったのは人間のエゴで、可哀そうだなってずっと思ってたんです。それで経年変化するプラスチックを趣味で集めていて面白いなって愛でていたんですけど(笑)。一生使えるプラスチック製品ってあるんですよね。もっとそういうところに注目しながら捨てない、捨てさせないっていう製品群を作ったらいいんじゃないかなと思って今そういった製品を作っています。とはいってもプラスチックは結構な社会悪、環境悪なので何とかしないといけないと思ってはいるんですけども。こんなに悪者扱いされちゃっている良いやつもいないんじゃないかなと思って今注目をしています

昨年、ナガオカさんが企画したプラスチックの展示会:

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アイデアを思いついたらリスクや時間を考えずにまずやってみる

ーアイデアが浮かんでから実際に進めていくとき、どのようにはき出し、具現化するか。ナガオカさんの手順や思考は?

「僕企画書というものが大嫌いで、絶対に書きません。企画書を書いているとコンセプトという非常に厄介なものを考えざるを得なくなって、これが最終的に調子が悪くなっちゃうんですよ。僕は思いついたら自分のお金で、まずやってみる。時間をかけてあまりリスクを考えずにやってみる。やってみて考えたらそれを仕組化したり組織化してそれを実現するような大き目の容器に移すみたいなやり方で今までやってきました」

「分からない」が重要

ー日本で何度でも行きたいお気に入りの県は?

「沖縄、富山ですね。なんでかは分かりません、結局沖縄は今アパートを借りて住んでますけど。分からせようとする為には説明しないといけないでしょ。人に説明しなくても良い状況ってすごく重要だと思うんですよ」

ー分からないという状態を持っておくことはナガオカさんの中では大事な要素なのでしょうか?

「まさにそうで、難しいことを書かれる人の本を読む時に分からないからといちいち立ち止まらないで、読み方すら分からないけど調べずにとにかく前に突き進む読書の仕方をするんですけど、そうすると読後に何となくほわーんと貰えるんですよ。分かりにくいものは分かりにくいまま飲み込まないと意味が無いので。あつー!とか言いながらたこ焼き食べるみたいなね、冷めるまで待ったらたこ焼きじゃなくなるみたいな(笑)」

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ー例えば地方の都市部でもない生活区に、地域の生活や文化に根付いた、ビジネスとしても成立する活動拠点(経済活動を伴うコミュニティなど)をつくるために、どのような着眼点・アプローチをされていますか?

「そんなの教えてほしいです(笑)。文化でビジネスをするなんてありえないです、間違ってます。お金儲けながら文化的なことはやはりできないんじゃないですか。オーケストラだってあんなに大赤字なのに続けられているのはものすごい支援を得続けているからですよね。支援をしたいような状況を演奏者がつくっているからで、それでいいんじゃないですかね」

お客さんとスタッフが対等という意識が大事

ーD&DEPARTMENTの大事にしていることを、現場(売り場など)に落とし込む(伝える)ためにどんなことをしていますか?

「難しいな~。僕は既にやることはないので、お客様ですね。良いお客様が来てすごい良い買い物をしたってことを感謝されたりすること。僕が思う良いお店ってお客さんとスタッフが対等なので。悪いお店ってお客さんがどうしても上の方にいっちゃう、それを見てスタッフの方が下の方にいっちゃってややこしくなる。自分が働いているお店が正しくてちゃんとしてるって思ったら対等になるっていう意識が必要で、うちのお店は本当に幸せなことなんですけどそういうお店だと思います。スタッフは相当お客さんに可愛がられ育てられていると思います」

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感動したら自分の言葉で発信する

ーナガオカさんが見つけたものの魅力を発信するときに、大事にしていることがあれば教えてください。

これはもう、自分の言葉で自分で発信するしかないですよね。無理ですもんだって、人に託せないですし、この感動を。自分の感動は自分の言葉で何とか伝えたいっていう。誰かが作ったすごく便利な言葉を多用して感動したようなふりで言うんじゃなくて、自分の言葉で何とかどもってでもいいから伝えたいって思ったら文章って書けるものだなって思ったので、とにかく感動したら自分の言葉で言うっていうのがいいんじゃないかなって思ってます

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ー現代のアーツ・アンド・クラフツというところで、消費や経済の中でどういう風に自分たちが使っているものや生活に対してどう向き合うかみたいなところが大事だなと思っていたので、今日お話を伺えて色々ヒントがあったなという風に思いました。
色々なイベントや人たちと考えを深めていきたいなと思っていますのでまたナガオカさんにもお話を伺えたらなと思います。ナガオカさん、見ていただいた方々どうもありがとうございました!


地域それぞれに根差した文化を活かしていく、そういったナガオカさんの「ロングライフデザイン」はこれからの社会や生活を豊かにしていく重要なキーワードになってくるのではないでしょうか。私たち自身がこれからの暮らし方について考えるきっかけとなるイベントでした。

次回の「Arts & Crafts Talk #02」でも、とても素晴らしい方にお話を聞かせて頂く予定です。是非、こちらをフォローしてチェックしてください!

Arts & Crafts TwitterとPeatixページ:


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最後に・・・

主催プロジェクト「Arts & Crafts」について
ウェブマガジンを軸に創り手と支援者をつなくサービスで、アートと文化が多くの人に循環する仕組みづくりを行う「KAMADO」と、工場とクリエイターをつなぐメディアプラットフォームを運営する「march on」が共同で行う「現代のアーツ・アンド・クラフツ運動」。ともにアート分野の支援者である立ち場から、文化と経済の橋渡し役となります。
このプロジェクトのミッションは「社会に文化の根っこをつくる」 そこから、外側の経済的な理由ではなく内発的にものづくりができることです。
お互いの重なる分野であるアート・工芸・民藝・ものづくりで「現代のアーツ・アンド・クラフツ運動」を模索して行こうと取り組んでます。主な活動は現在、公開トークイベントを企画し、想いが近しい方々にお話を伺います。

KAMADOとmarch on、各サービス内容の詳細については是非、サイトに訪れてみてください。

柿内 奈緒美(Arts & Crafts 共同代表 / KAMADO Inc. CEO)

瀧原 慧(Arts & Crafts 共同代表、march on / Counterpoint 代表)

writer:Ryo Ozawa
photographer:Kiyomi Miike
editor:Naomi Kakiuchi




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