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北欧の奇祭「ミッドサマー」

あらすじ

ドキュメンタリー風に始まる映画で
現代の若者の内面を上手に切り取って、
なんとも真面目に作り込んである感じがします。

ヒロインのダニーは心理学を学ぶアメリカの大学生で
彼氏のクリスチャンとその友人たちは歴史学か民俗学かなんかをやっていて卒論の準備中。
その中の一人ペレというスウェーデンからの留学生が、自分の故郷の夏至祭にみんなを招待すると言うので、ダニーも一緒について行きます。

この村は、電車が90分に一本しか来ないという、片田舎の最寄り駅から車で数十分
車も途中までしか入れず、そこから徒歩で山道を進んだ先にあり
その向こうは海になっていて、
まさに世界の果てというか行き止まりの感じがします。

食事も質素な感じだし、冬は過酷なんじゃないかと思いますが
季節は夏で白夜なこともあって、一見おとぎ話のようなのどかで美しい村です。

ぐだぐだな大学生たち


で、この村で期待通り!恐ろしいことが起こるのですが……

その前の描写で、こんな限界集落の村人よりもはるかに自由で豊かで恵まれているはずの主人公たちが、あまり幸せそうじゃないんですね。

まずダニーという女の子が、常に不安や心配事でいっぱい。
家族や恋人は、支えというより新たな悩みや問題を生み出す存在になっていて
最初の方で妹が両親を巻き込んで一家心中してしまいます。
妹はもともと精神を病んでいたようで、ダニー自身もパニック障害をかかえての生活です。

彼氏のクリスチャンというのがまた気弱ではっきりしなくて
なんともいえないグダグダぶりを発揮しています。

ダニーはあんなだけど、まだ「物事はこうあって欲しい」という望みをはっきり持っていて
「起きるべきではなかったこと」に対して発作という形で異議を唱えているので、意志がある気がするのですが

クリスチャンの方は本当に何がしたいのかよくわかりません。
ただ迷いながらもダニーと付き合い続けているところを見ると、
「メンヘラ女子をはべらせて手っ取り早く自信のなさを埋め合わせたい、
彼女には俺がいなきゃだめだと思い込みたい」
みたいな欲求だけはあるのかも?

ちなみにクリスチャン 卒論のテーマがまだ決まっていなかったのに
村に来て、儀式の一部を見た途端「自分もこの村をテーマに書く」と言い出し
最初から卒論の目的で来ていたジョッシュに怒られたりしています。
同人作家だってテーマや設定がかぶったりしたら大騒ぎなのに
ジョッシュはその論文に将来賭けてるんだろうから当然でしょう。
こうしてその場その場でより強い刺激や感情に動かされるだけでフワフワ生きてそうなクリスチャン、
悪気はないのに人をイラっとさせる天才ですね。


不幸とは言い切れない……


印象的だったのは、

ダニーがひょんなことから(それとも仕組まれたのか?)祭典の女王に選ばれ、一時的に中心的存在になってから
パニック発作を起こしたとき 村の娘たちに取り囲まれてお世話されるシーンがあるんですよね。

最初ベッドに連れて行かれたから、普通に慰めてくれるのかと思ったら
なんとその女性たち、ダニーとまったく同じ表情、同じ呼吸、同じ音量で「わー!!」と叫びだし
しまいには全員で合唱のようにキレイにシンクロするという異様な光景が繰り広げられます。

何その斬新な治療法!?

そもそもダニーがパニックになったのは彼氏のクリスチャンが性的な儀式に巻き込まれた姿を見てしまったからですが、その儀式からしてもそれ以前のいろんな会話でも、
こんな分かち合いの文化で育った女の子たちが
裏切りという概念を本気で理解できるとは思えないんですよね

(それを言うならペレが「自分の両親も焼死したから君の気持ちはわかる」と強調しているのも違和感があり
もしあの焼き討ちの儀式のことだとしたら、大義のための死という観念を持っている人に、無神論者の現代人にとっての死なんて一生理解できんだろうと思ったけど)

せいぜいポーズだけわかったフリして
ヨシヨシするのが関の山だろうよ、と思って見てたのですが

彼女たちは、理屈で、頭で理解しようなんて一切しないのです
とにかく徹底的に同調し共鳴し、感情表現をコピー&拡散するのです。

大真面目にこんなことされて、ダニーとしてはどんな感覚なのか?不思議なのですが
カルト教団が提供するようなカタルシスがあるのでしょうか。

ダニー、意外とここで暮らしてたら治ってしまうんではないか……
と思わせるような部分があって、そこがこの映画の怖さでもあるのです。

厳守される伝統と規則の中で
人の寿命から生殖からすべて管理されあらかじめ決められた人生……
そこにはもう迷ったり心配したり不安になる余地さえなくて、
そのうえ、最低限の衣食住もダニーが求めていただろう心の支えや家族の絆も
掟に従いさえすればほぼ自動的に保証されるのでしょう。

彼女の生きてきた社会には、友情も恋も家族も
こんなふうに自動的に永続的に保証されるものなんて何一つなかったのに。

ダニーは「こっち側の世界の人」のはずで、
「うっかり迷い込んだイカれた村から生還する」ことがすなわちハッピーエンドになるはずなのですが
彼女が普段の生活で抱えていた生きづらさや不安を描くことにより、
そうとは言い切れない曖昧さを残しています。

おもしろかった♪



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