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島へ渡る 瀬戸内国際芸術祭2019その3

2019.08.03
3日目 犬島・高松港

 前日の夕ごはんはばらばらだったのだが、朝ごはんは同室の三人で同じテーブルについて食べた。さらに車で来ていた女性が家浦港まで一緒に乗せていってくれるというので、素直に甘えた。車の主はそのまま家浦の周辺をまわるといって私たちを降ろして去り、もうひとりの女の子は高松行きの船に乗って帰っていった。

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 私の次の目的地は犬島だった。維新派の野外劇場での芝居をとうとう観ることが叶わなかった、という後悔があり、せめて舞台となった島だけでも訪れたくて、絶対に行くと決めていた。
 ただ、犬島を外せなかったおかげで旅程を組むのは苦心した。渡るならば岡山の宝伝か小豆島の土庄から、高松ではなく岡山を基点にしたとして宇野港と宝伝も離れているし、小豆島には行くつもりがないし……とさんざん悩んだあげく豊島からも船が出ているのを見落としていたことに気づき、直島→豊島→犬島と島を渡り歩くルートに落ち着いたのだった。

 そんなわけでいちばん楽しみにしていたのだが、実際、私は犬島精錬所美術館がいちばん好きだった。
 近代化産業遺産に認定されている銅の精錬所の廃墟が最高だったし、三島由紀夫をモチーフにした柳幸典の作品もよかった。扉や窓が吊るされたり便器が埋められたりしている空間を窓から覗く「イカロス・タワー」、合わせ鏡の上を赤い文字がすべり落ちてゆく「ミラー・ノート」、文字が吊り下げられている中に厳重に封をされた箱が置かれている「ソーラー・ノート」、どれも印象に残っている。

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 一日滞在するつもりでいたのだが、思っていたよりコンパクトにまとまった島で、家プロジェクトも含めて二時間ぐらいでまわりきってしまった。
 くらしの植物園も頑張れば行けたと思うが、暑かったのと体力の限界を感じたのとで無理しなかった。

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 チケットセンターのカフェでたこ飯を食べ、当初予定していたよりひとつ早い十三時の高速船で島を離れることにする。上陸したときに、迷いつつも整理券をもらっておいてよかった……

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 豊島経由で直島に着き、ほぼ待たずにフェリーに乗り換えて十五時すぎに高松に着いた。
 チェックインして顔を洗ったりしているうちに元気が出てきて、豊島のゲストハウスで今日は高松市美術館の無料開放日だと聞いたことなどを思い出し、高松港周辺の作品を散策しながら美術館へ行ってみることにした。

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 旅の計画を立て終わったあとで「宮永愛子展:漕法」を知って、観たいけれど無理かな、と思っていたので、思いがけず観ることができてうれしかった。ナフタリンを使って、気泡とともに閉じ込められた鍵や椅子や時計には物語の気配があり、感傷を誘われた。

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 常設展示のカラフルな抽象画や、現代工芸の漆器もよかった。横浜トリエンナーレでもそうなのだが、こういう芸術祭はアートとプロジェクトの境目があいまいな企画も多くて、美術館のしっかりした展示を観ると落ち着く感じがある。
 高松港周辺は美術館も北浜のギャラリーも夜の十九時・二十時ぐらいまで開いていて、日が落ちて日中よりは暑さがましになっていたこともあり、結構しっかり観てまわれた。狙ったわけではなかったけれど、この日は午後のいちばん暑い時間帯をほぼ移動の船の中で過ごしたので、体力を温存できていたのかもしれない。

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 そういえばうどんを食べていないと思い至り、商業施設のレストランで穴子の天ぷらうどんを食べてホテルに戻った。
 初日に民宿、間に人と交流できるゲストハウス、最後がふつうのビジネスホテル、という宿の選択はなかなかよかったなと思う。街場のビジネスホテルは味気ないけれど慣れているし、気も使わない。直島と豊島の銭湯に引き続き、この日泊まったホテルにも大浴場があってお風呂環境にも恵まれた旅だった。

 都市のビジネスホテルという現実に近い空間にへ戻ってきたせいか、島ではほとんどチェックしていなかったツイッターを寝る前にゆっくり眺めて、あいちトリエンナーレの「表現の不自由展・その後」が展示中止になったというニュースにショックを受ける。
 同じ時期に同じ国で行われているトリエンナーレなのに、ひどく遠い出来事のように思われて、自分がいる瀬戸内と報じられている愛知のギャップに呆然としてしまった。

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