お久しぶりです。流行り始めてから4年目にして例の病気になってしまい一週間自主軟禁状態になってます。幸い熱は1日だけで下がり、薬を飲み始めてから特に問題なく回復してます。薬の副作用で眠気がすごくて半日以上寝てる気もしますが…。
さて、今回そんな筆者が暇にかまけてゲホゲホ咳をしながら紹介するのはリトアニアの音楽家Teistis Makasinasのllgas Laukimasという曲です。この曲は1981年に発表されたアルバム、Disko Musika(そのまますぎる！)の2曲目です。曲名はリトアニア語で待ち時間という意味。1981年というとクラフトワークのコンピューターワールドやYMOのテクノデリックと同じ年ですね。世界的シンセポップブームの波がリトアニアにも来ていた…のかな…？ というのもこの頃リトアニアはまだソ連の一部、リトアニアソビエト社会主義共和国と名乗っていた時代ですので情報統制が敷かれていて、今と違ってよその国の音楽を自由に聴ける時代ではなかったのです。ソ連といえば電子音楽の世界では世界初の電子楽器テルミンや、クラフトワークやYMOに影響を与えたロシアアヴァンギャルド、ミームとしても有名なロシアンハードベースなど電子音楽オタクには様々な面で有名ですが、そのディスコとは如何なるものか…
そんなことを思いながら聴いてみるとこれ、もろにフランスのシンセバンドSpaceのMagic Flyやないか！！と思いっきりズッコけます。音色からメロディーまで、かなりそれっぽい。著作権的には大丈夫なように少し曲の構成や節回しを変えてますが、音色などのアレンジはほぼ一緒に聴こえます…。少なくとも私には…。

(↑元ネタと思われるSpaceのMagic Fly。ロシア語のコメントも多く、当時ソ連でもヒットしていたことが伺える)
偶然の一致にしては出来すぎです。しかし、何故リトアニアの地で、しかも情報統制バリバリのソ連時代(81年というとブレジネフの時代。スターリンは亡くなっていますがまだペレストロイカも始まってません)にフランスのバンドの曲のパク…オマージュ曲が生まれたのか。謎は深まりますが、どうやらSpaceはソ連でもOKだったようで、Magic Flyも1983年にリリースされています(フランスでは1977年リリース)。…ってこのレコード1981年リリースだからやっぱり正式に出てないじゃないか！と思ったらそれに先んじて1981年にテレビ出演があったようです。このテレビ出演を見てインスピレーションを得たのでしょうか？それにしてはアルバムリリースまでが早いような…。しかもこのアルバム、当時のリトアニア文化省がバックについており、シンセの調達などもしてくれていたとか。もしかすると役人の方から事前に「こういう感じでよろしく！」と言って当時ソ連では未発売の輸入盤のSpaceのレコードを渡されていたのかもしれません。作者のMacacinusはリトアニア音楽院出身のエリートで、wikipediaによると音大の講師や准教授を務め、2012年から2020年まではリトアニアの著作権保護協会の会長(!?)も務めていた人物ですが、ここまで上手いとその経歴は伊達じゃないなと感心します。ちなみにアルバムの他の曲は東欧っぽい節回しのコーラス(本人ではなさそう)やClusterのDieter Möbiusを思わせるキャッチーなシンセ、ディスコのタイトルに恥じない(ちょっと偽物感もある)ファンキーなシンセベースが楽しい独特なディスコ音楽が中心となっており、この曲だけがインストです。
世の中的にロシアの文化などを素直に楽しむのが難しい昨今ですが、旧ソ連圏の電子音楽は共産圏特有のレトロフューチャーなSFドリームが詰まっていて(それと反比例するように現実の生活水準が停滞していたというのが皮肉ですが)なかなか素敵なので皆さんも是非聴いてみてはいかがでしょうか？

参考文献:
共産趣味インターナショナルvol5 共産テクノ ソ連編 増補改訂版 四方宏明著 合同会社パブリブ 2021年
Wikipedia Space(French band) https://en.wikipedia.org/wiki/Space_%28French_band%29?wprov=sfla1

Wikipedia Teisutis Makacinas
https://en.wikipedia.org/wiki/Teisutis_Maka%C4%8Dinas?wprov=sfla1

(共産テクノ本は旧ソ連圏のテクノポップ～ニューウェイヴが纏まっててとても面白いです。Molchat Domaやthe end of electronics等のソビエトウェイヴ勢も加えて第3版が欲しいところ)