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花ノ芥蔕のテーマ曲制作秘話

はじめに

岩波ななみさんの『花ノ芥蔕(ハナノカイタイ)』という作品をご存知でしょうか。
ご存知でない方はこちらをご覧ください。

元々ななみさんとは同ジャンルを生きる相互フォロワーで、仲良くさせて頂いていたのですが、ある日ななみさんが創作されていらっしゃる『花ノ芥蔕』というエア乙女ゲームを目にしまして。
※「エア乙女ゲーム」とは発売されていない、あったらいいなという体で作られている創作乙女ゲームのことです。(ななみさんの造語)
当初見た感想は「うわー!乙女ゲームだーっ!(乙女ゲーム大好き)しかも中華風だーっ!(中華モチーフ大好き)」だったのですが、他人様の創作なので、特別突っ込んだ話もなく、数年が経ちました。
そしてある日、DTMを手にした私は「乙女ゲームの曲が作りたい」とふと思い立ち、何の前触れもなくななみさんにTwitter(現X)のDMを送り付けたのでした。

……特別書く必要もない序論ですね。
本当にその場の思い付きだったのです。
元々人の絵に曲を付けるのが面白いなーと思っていた時期で、色々な方にお声かけさせて頂いては曲を作っていたのですが、自ジャンル的にどうしても二次創作の繋がりが多く、二次創作に曲をつけるって結局原作のコピーになってしまうなー。それって結局いつもの耳コピと変わらないよなぁ…となっていた所、この「花ノ芥蔕」という作品を思い出しまして。
とりあえず、それらしい曲を作ったことがないのに話を持ち掛けても駄目だよなーと、ななみさんが投稿された設定資料を眺めていると、自然とその作品から音が溢れてくるんですよね。
ななみさん独自のまばゆい色彩を纏う個性豊かなキャラクター達。色は時に音として自身の中に流れ込んでくると言いますか、赤い壁の街から弦の揺れるような音がしたのです。
本当にぼんやりとはしているのですが、この楽器使おうとか主旋律はこうしようとか、漫画でいうところのプロット的な何かが脳内で組み立てられていく。
やはり創作者のこだわりが詰まった作品というのは何かしらの情熱を帯びているもので、見ている側もその熱気にあてられるのでしょうか。
自身のモットーが「鉄は熱いうちに打て」なもので、創作の火種が消えぬ内に作者であるななみさんに突撃して、了承を得たのでした。

曲作りは楽器選びから

楽器が無い

前述したように世界観が「中華風」なので、「二胡」「琴」「笛子」は欠かせまいと思い、それに合うプラグイン(追加購入する音のこと)を探すところから始めたのですが、まぁ検索能力と知識がないもので、即DTMの師匠に泣きつきました。
「オススメのプラグインってありますか?」と軽率にお訊ねしたのですが、まぁぶっちゃけモノが高いんですよね…。初心者ド素人(DTMを始めて半年未満)が思い付きで手を出せる金額ではない。そして無料版はあったのですがそれは古いタイプなのかStudio One 4(DAWの名前)に上手く読み込まれない。
そんな時に師匠が「ヴァイオリンとかピッコロのピッチを頭だけ上げればそれっぽい」という秘伝の技をお教え下さいまして…!!!

つまりこういうこと?!

更にリバーブ(反響音)とディレイ(遅れて聴こえるやまびこ的なやつ)をエフェクトでかければよりそれっぽいと…!!!
試しに作ったのがこちらなのですが、ヴァイオリンの音源がこうなるって凄くないですか?!感動したので知識としてちょっと共有させて頂きます。
↓ ↓ ↓

楽器選びは色選び

曲作りは楽器選びからと書いているのですが、個人的に曲作りとイラストを描く作業って似ているなと思うのです。
絵描きの私から見る「楽器選び」は「画材選び」に近いのです。
淡い色を出したかったら選ぶ画材は水彩絵の具、音ならピアノの音。
派手な色をガンガンに入れたかったら彩度高めな色をベタ塗り、音でいうならアンプをきかせたギターの音を入れてギュイィィンと鳴らしてみる。
ちなみに絵でいう加算とかオーバーレイとかの仕上げに使うキラキラした色はパーカッションで作る感じ。にじませとか色ずれの加工はイコライザーとかリバーブ。色調調整はミックス。最後の仕上げに使うぼかしとかグロー効果は曲作りでいうとマスタリング。
なんというか、ザックリした手順が似ているから絵描きのDTMerが多いのかもしれない。
今回は作品の世界観も色も既に決まっているので、登場人物に合う色(音色)選びをしていこうかなという感じで楽器を選びました。

キャラに合った楽器

主人公 宮上めぐみ

例えば主人公のめぐみちゃんはヴァイオリンか二胡の様な女性的で優しく流れる旋律のイメージでした。時として木管のフルートの様なふわふわした女の子や金管のトランペットが似合う明るい女の子もいますが、迷うことなく無く弦でしたね。
なので、メインテーマの主旋律はピッチベンドをいじった弦にしております。

メインヒーロー 篠原旭

そしてメインヒーローの旭くんは篠笛です。篠原旭という名前に引っ張られた感もありますが。(笑)
ピアノの音のイメージもあったのですが、ピアノだと主張が強すぎるというか、芯がありすぎるというか…篠原旭という人物は透き通るような、染みわたるような、つかみどころのない丸みを帯びた音のイメージが私の中であったので篠笛でした。
これで副旋律の音も決定。

和菓子屋の青年 江良俊彦

俊彦さんは和の雰囲気が出ているのと澄んだ音が似合いそうなので尺八。

俊彦の弟 江良冬真

その弟の冬真は同じ笛系でもやんちゃで高い音がしそうなのと、中華要素が欲しいので笛子。

異国の客船主 ヴァル・ディラン

見た目からしても完全に異人のディランは民族系の音を出したいので揚琴(に近い音のイメージ)

中華街の警官 黑芳

落ち着いた雰囲気のある黑芳さんは低音弦。

中華街の土地神 狐炎

人間ではないフワフワした存在の狐炎くんは色々な音が滲んで聴こえる笙。

主人公の親友 関口新菜

新菜ちゃんはマリンバとかピッチカートストリングスの様な丸く跳ねた可愛らしい音のイメージ。

ちなみにOPには狐炎くんと新菜ちゃん以外の男性キャラをイメージした楽器の音を詰め込んでおります。
このキャラの音のイメージをななみさんにお伝えしたのは曲を作り終えた後だったのですが、ななみさん曰く、黑芳さんは主人公のめぐみちゃんと似た性質らしく(無自覚世話焼き、考えを曲げにくい、自分で抱え込む癖がある等)、弦仲間であることを喜ばれておりました。縁の下の力持ちタイプというか、人が気付かないところで仕事をしてそうな落ち着いた感じの眼鏡キャラなので、見る人が見たら(聴く人が聴いたら)超格好いいガチ恋タイプと思ったのでベース音はこの人だな…となっていたのです。(笑)

曲の構成

みんな大好きサビ始まり

さて、楽器が出揃ったところでいよいよ曲作り開始なのですが、いつも感覚的に作っているのでいざ説明しようとしてもなかなか難しいものなんですよね。
曲の構成はある程度決まってはいましたが。
今流行りの「サビ始まり」にしようって。
サビ→前奏→Aメロ→Bメロ→サビという流れ。
簡潔で分かりやすくて個人的にとても好き。
グッと世界観に引き込みやすいですし、作りたいところ(サビ)から作れるので良い。
熱量を入れたいところを最初に作れるって、創作的には凄く楽です。
一番テンションが上がっている時に作るので筆も乗るし、良いものが出来たらその熱量を維持しやすいですね。
要するにイラストでいうところの「キャラクターの顔」です。
サビから作るってのは個人的に「キャラクターの顔を描く」と同義なんです。
小中学生の時にやたら「右向きの顔」だけ描いていたあの頃と大して思考が変わらないんですが、作りたいって思うところから作るのって楽しいですよ。
そもそも皆キャラクターを見る時って基本「顔」しか見ないでしょ?(The 偏見)
顔が上手く描けたら他もなんとなく上手く見えるでしょ?
服とかデッサンに少し手を抜いても顔だけトリミングすれば作品自体はよく見えるでしょ?
ここだけ良ければ良いって考えも良くないんですが、曲をサビ始まりにすれば竜頭蛇尾に終わらないことが確定するのでやっぱりオススメ。
竜頭で始まって竜頭で終われる、このサビサンド。出だしに作った音がゴールとなるので、音の流れも迷子にならずに繋げやすいなと思います。

感覚で作る主旋律

ちなみに、サビのメロディーは思いついたタイミングで鼻歌を歌ってスマホで録音して、それを後からピアノで耳コピして作った感じです。
思いつくのは通勤中かお風呂場。リラックスしている時とか疲れていない頭空っぽの時にふと流れてくる感じ。すぐ消えるので即録音します。
感覚的に作っているのでハッキリとは言えませんが、多分中国音階も入っているハズ。
あの時は戦闘曲とか恋愛テーマにも応用できそうな旋律にしてみたと適当なことを言っていたのですが、今見ると我ながら結構遊べる音の並びにしたなと思っています。

世界観を出すために

主旋律が決まったらアレンジですね。
楽器も大事なんですが、アレンジ(コード進行)は作品の世界観を決める大事なポイントだと思っています。
ただ知識はあまり無いので感覚的に好みで作ってしまうことが殆ど。
私はベースが半音ずつ降下していく音の流れが凄く好きなので出だしからそれを取り入れました。
なんというか半音ずつ降下していく音って不安定でお洒落で少しの妖しさとネガティブ要素があって、この幻想的な世界観に合うな~と思うのです。
作品タイトルの「芥蔕」が「胸のつかえ」とか「わだかまり」を意味するのでこのモヤモヤ感がこの音の流れに出ないかな~と。
いつもならこれをピアノで表現するのですが、世界観を出すために琴の音で降下させました。
あと高音ばかりで中身が詰まってなかったため、ストリングスで中低音を埋めました。
フワフワした浮遊感というか、ファンタジー感を出したかったのでピアノとハープの間の様な音でコードも鳴らしてみております。

創作者あるあるだとは思うのですが、この時の私、これどうやって作ったの?なんでこの音にしたの?と思うところがあるので細かく解説するのは難しいな、となっているのですが、少なくとも琴は飾りの音でひたすらキラキラした音にしようと思っているのが分かる音の並びだなぁと思います。

サビ前のBメロは追っかけというか主旋律(めぐみちゃん)と副旋律(旭くん)の二つの旋律がやり取りをしている感じにしたかったんだろうな~と思うんですが、ここはどっちもが主張しすぎて旋律が迷子になってますね。ぶっちゃけ私もどっちが主旋律だか分かりません。ハハッ。
対話している感じは出てますかね。なんというか過去との対峙的な。向き合って主張し合う的な。

調について&仕上げ作業

何故この調なのか、というとそこも感覚的に作っているのでなんとも言えないのですが、弾いてみると「下天の華」の「華一輪」と同じ調なので、今思えば曲の纏う雰囲気とか色(赤)のイメージが引っ張られている様な気がいたします。
創作って無から生み出すものというよりは、好きの欠片を集めて溶かして固めたものという感覚なので、きっとその好きの欠片の中に下天の華があったのだと思います。
「無いものは作れ」と言うが、「在るものからしか作れない」のも事実。
あとは歌える音域で~と思ったので、この調になったのかな。

イラストの時、発光レイヤーで仕上げにハイライトや五角形のプリズムを入れるように、今回は水滴が落ちて波紋が広がる様な効果音や、冒頭に入れた視界が開ける「シュウィーン」みたいな音を入れてみております。
原作者様にあとからお伺いしたところ、花ノ芥蔕は「海」が関係するそうなので水関係の音を入れた私GJだな、と一人で思ってました。(笑)

そんなこんなで出来た作品がこちらです。
原作者である岩波ななみ様の美麗イラストと共にお楽しみ下さい。

完成した「花ノ芥蔕」PV

余談

スタート画面の曲ですが、ななみさんに提出したテーマ曲の感想を待つ間に思い付きで作ったものです。
この花ノ芥蔕という作品に登場するであろう「マップ」が遙か6の雰囲気に似ていたので、なんとなく遙か6のスタート画面の音にあるようなフワフワした音を入れて作りました。
結局自身の好きな作品や、ななみさんのイラスト等、複数の素晴らしい作品からインスピレーションを受けて生み出されるのが「創作」なんですよね。(笑)

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