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詩「概念:ディレッタント」

おまへは ”概念” になりたがる、
そんなに床(とこ)につっぷして。

『僕はもう疲れてしまった』
翳りに甘えた唇が、かすかに動くさまが見えた。

おまへは "概念" になりたがる、
今まさに、宿すようになりたがっている。

『僕は言葉がうらやましい』
たっぷりこさえた情感を、湿らすようにつぶやいた。

おまへは "言葉" になりたがる。

わたくしの初恋は言葉でした。
いつごろかなんて覚えていません。ただその感触のみが残るのです。
思へば、昔からよく書き物を致しました。すこしの日記から始まり、気に入った単語は紙にまとめ、国語の用語集などは、わたくしの宝にございました。語源を探るときなんて、うっとりデートの独り占め。
やがて、人間にも恋をしました。
あの人この人、みなさん素敵な方でした。ところがある日、気づいたわけです。恋の矢先は、やはり紡がれた言葉であったこと。
わたくしは、窮屈です。
性別という二元論が嫌いです。我々みんなただの「人間」じゃあありませんか。身体というものが嫌いです。硬いものほど、もろいのです。
あの人のソレも、すっかり変わっていた。
器に過ぎぬと思われました。
言葉は我々よりはるかに長生きです。そんな柔らかな先賢を、愛しなさい。

おまへは ”言葉” になりたがる。
その意味に
その音に
その感触に
その温度に
その質感そのものに。


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