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くるま旅は終えても~北海道編② #くるま旅日記


くるま旅の様子がKindle本になりました!
noteに書ききれなかった書下ろしモリモリの書籍となっているので、ぜひ見てみてくださいね♪


 北海道をまわり出す前に、父の薦めでドラマ「北の国から」を見たら、すっかりハマってしまった。「弟の名前も純かい?」と何度聞かれたかわからないのに、なんとなく敬遠していたのだ。「母と一緒にいくか、父のもとに残るか」「富良野に残るか、自分の道を進むべきか」純と蛍が何度も経験した葛藤はそのまま自分と重なって、気持ちがざわついた。蚊と蒸し暑さに悩まされた八月の毎夜、私たちは車内で少しずつドラマを見進めた。

 特に人口密度の低い道東・道北では、岬のような、地形的に「端」の場所でなくとも、「地の果て」にいるような感覚になる。どこまでも続いていきそうな道や牧草地、または耕作放棄地。簡素な無人駅。霧多布や根室の、車にまで侵入してくるような霧の中や、だだっ広い草原の道を走りながら、黒板五郎のように、そして父のように、天候に左右される一次産業に従事し、約半年もの間雪に閉ざされるこの北海道の、果てのような町々で暮らすことの過酷さを思い出そうとした。五郎が北海道をロマンティックと言ったのは、ラベンダーのお花畑や野生動物のかわいらしさなどからではなく、原始により近い、自然と共に生きる暮らしができるから、そしてそれがとても大変で、難しく、楽しいからなのだろう、と思う。

 五月五日に始まった車中泊旅は、全部で一万キロ強の道のりだった。DIYなしの軽自動車でも、エアマットや扇風機のおかげで思っていたよりも快適に車上生活ができた。車中泊の先駆者たちがネット上に残してくれた口コミのおかげもあり、私たちは本気で困り果てるような出来事には遭遇しなかった。旅そのものは、一定の準備があれば難しいものではなく、むしろ大変なのは、長い旅が終わった後に日常生活へと戻っていくことなのかもしれなかった。

 北海道を周っているうちに、各地で必ず見かけた青い大豆畑は黄色くなり、実家に戻ってくると父のハウスの夏野菜はほぼ収穫を終えていた。これから「北の国から」を最終話まで見て、富良野・麓郷のロケ地を訪ね、私たちのくるま旅は終わりを迎える。けれど、次に落ち着く土地も仕事も決まっていない私たちの旅は、まだ終わらない。



*あさひかわ新聞 くるま旅日記「果報をたずねて」⑤(2023/09/19)掲載

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