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時間を取り戻す方法 ~北海道からの沖縄移住記 2021年4月~

 後悔はしない、と決めていた。反省はするけれど、変えられない過去をいつまでも思い悩むのは意味がない。できる限り考え抜いた上での結果なら、受け入れられる。あの時のあの出来事はこのためにあったのだと、納得するタイミングは必ずやってきた。

 それなのに、最近の私の頭には後悔の二文字が浮かび続けている。もっと早く沖縄に住み、この熱帯の海と出会いたかった。沖縄に移住するタイミングはあの時しかなかったと思うけれど、移住してから二年近くも、ただ景色として水面を眺めていただけだった。海に対する今までの自分の積極性の無さが、悔しくて仕方なかった。

 海で感じる光、匂い、音、潮の満ち引き、そして生き物たちの豊かな気配がおもしろくてたまらない私に、ルアーフィッシングは見事にはまった。休日は平日よりも早く起きて、朝が満潮なら潮が下げだすと同時にリーフに立ちこんで釣りを始める。潮が急激に上がり出して危険なため、最干潮で海から上がり、午後は川原や海辺を何か所も移動しながら陸から釣りをする。日によってはそのまま浜辺でキャンプをすることもある。

 車を停めて歩きでしか行くことのできない水辺を探っていくことが多く、休みの日はそのまま釣りと冒険の一日だった。餌を使わない身軽なルアーフィッシングは、沖縄の自然を歩く私の足をさらに軽く自由にしてくれた。

 時間は取り戻せない。しないと決めていた後悔を私に教えてくれたのは、どこまでも深く美しく、そして恐ろしい海の世界への強烈な憧れだった。この悔しさを埋めるには、残された時間の密度を上げるしかない。みんなに平等に与えられた一日という時間が、まるで私には二〇時間しかないかのように大事に、三〇時間あるかのように貪欲に生きたい。

 海水温の上昇とともに魚が比較的浅いところにもやってくるようになり、三月末からようやく私にもルアーで魚が釣れるようになってきた。漁港から銀色に輝くタチウオを釣ったときは友達も一緒にいて、拍手してくれた。包丁を研ぐところから始め、釣った魚を捌いて丸ごと頂く感動と楽しさは、自分の畑で育てた野菜を、両手いっぱいに抱えた時と似ていた。


写真:リーフの天使(と勝手に思っている)イシミーバイ(和名:カンモンハタ)。ミーバイは沖縄の言葉でハタ類の魚のこと。


あさひかわ新聞2021/4/20号「沖縄移住記30 果報(カフー)を探して」掲載

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