“漢字”に隠された残酷な歴史 「辛」から派生した入れ墨にまつわる痛い漢字たち
例えば、「辛」の古代文字は、手で握るグリップがついた大きな針の形を表している。古代中国では、刑罰や通過儀礼などで「入れ墨」が用いられた。「辛」は、その入れ墨を入れるための針を表し、入れ墨をするときの痛みから「つらい」などの意味になった。
もう一つ、「辛」から派生した文字がある。「童」だ。小さい子どもを意味する「童」に「辛」が隠されているとは意外だが、「童」の古代文字は、上半分が「辛」と「目」の組み合わせ、下半分は「東」の元の形だ。つまり、「童」はもともとは、刑罰として目の上に入れ墨をされた奴隷を表し、奴隷はまげを結えなかったことから、同じようにまげを結わない「わらべ」を表すようになったとされる。「東」は「とう(どう)」という音として残っている。
「罪」の元になった字は、鼻の形を表す「自」と「辛」を組み合わせた文字だ。これは、刑罰として鼻に入れ墨をされた罪人を表し、のちに「つみ」を意味するようになった。「罪」はもともと、魚を捕る竹網を指す文字だったが、「ざい」という同じ音を持つことから「つみ」を表すようになったと言われている。
「言」という字の古代文字も「辛」と「口」の組み合わせ。ここでの「口」は、神に捧げる言葉を入れる器を表す「さい」を表し、「辛」を添えることで、その言葉に偽りがあったら、入れ墨の刑罰を受けるという誓いを示す。つまり「言」は、神への誓いの言葉を「言う」ことを表し、のちに広くこの意味で用いられるようになったのだ。
「辛」と「木」に、オノを表す「斤きん」を組み合わせて生まれたのが「新」。ここでの「辛」は木を選ぶ際に使う針を表す。位牌を作る際には、この針が当たった木を材料にしていたようだ。つまり「新」は、針が当たった木を「斤」で切ることを表し、木を新しく切り出すので「新しい」という意味になったのだ。
同じ「辛」という文字から生まれた漢字にも、これだけの背景がある。
なりたちをひもとけば、たった1つの漢字の向こうに悠久の歴史が広がっている。
(構成:生活・文化編集部 塩澤巧/イラスト:もりいくすお)