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モハナ族(パキスタン)2010


モハナ族 Mohana people


 人間は基本的に当たり前だがメインとなる生活圏が陸上にある。しかしながら、なんと水上生活をする人々がパキスタンのシンド及びパンジャブ州にいるという。海に囲まれた島々や湖ならありそうな話ではあるが、比較的乾燥したパキスタンにおいてである。パキスタンで最も有名な川であるインダス川、この川を基本として水上生活をするモハナ(Mohana)と呼ばれる人々のコミュニティがサッカル付近にあるという。水上生活というとどうしてもミャンマーのインレー湖に住むインダー族を思い浮かべてしまうが、インダー族は湖の上に家を建ててそこで生活するのに対し、モナハの場合はどうやら Monaha boat people とも言われているように家を建てるのではなく、なんと船上で生活する人がいるようである。多分これには気候も関係していると思われ、ミャンマーみたいに雨季ともなると船上生活そのものが困難になると思われる。船上生活が可能なのは雨が少ない乾燥した土地においてこそ考え出された生活の知恵なのかもしれない。
 
 

サッカルの朝


 サッカル(Sukkur)というシンド州の町にそのMohanaのコミュニティがあるというので、見に行くことにした。日の出前にホテルを出て早朝のインダス川を目指した。年末年始に南アジアに行ったことがある人にはわかると思うが、この時期には早朝に霧が出る。午前中が霧だらけの場合もある。程度にもよるだろうけど、確かカトマンズやデリーでは空港の発着に影響が出るときもある。この日の朝も霧が出てはいたが、うっすらという感じだった。年末年始の南アジア撮影で困るのがこの霧問題でいつも霧がなければいいのだがと毎朝気になっていたものだ。川岸のモハナ族の集落に着いた。川沿いにはボートが無数に並んでいる。ここの集落では船を作る集落でもある。もちろん昔ながらの木造の船だ。見たところズラッとならんでいるのは4~6人程度まで乗れそうなサイズの船で船上生活用というわけではなかった。実際には多くの人々は川岸に家を建てておりそこで生活をしているようだ。家の前に並んだ船は家族の移動用ではないだろうか。少なくともここのSukkurの町では船上生活する姿は見られなかったのだが、他の町に行けば船上生活が多いコミュニティもあるかもしれない。しかしながら船を色々と見ると船尾に人が寝転がれるスペースを持った船もあるので、実際にはこの周りには船上生活をしている家族もあるのだろう。Mohanaで調べるとボートピープルと書いてあるサイトが良く出てくるが、実際には完全なボートピープルというのはここで見る限り少数なのかもしれない。
 

 

 
 陽が昇りだすと川岸の集落からきっと朝食であろう煙が立ち上っている。そして男たちがまだ少し寒そうにジャンバーやスカーフを巻いて出てきた。カラチの時はまだ暑い気候で初夏並みと感じていたが北上しサッカルともなると結構気温が低い。朝は東京の秋ぐらいではないのだろうか。
男たちの仕事は大体3つに分けられる。まずは漁師組。当然川で生活をするからには漁は当たり前だ。実際には網を運んだり修復したりする人は色々いたが、魚を引き上げている人はほとんど見なかった。実際に漁の様子も見たかったが、その時間ではなかったようだ。写真が逆光で分かりにくいが右手前に網が置いてある。左奥には船を造っている最中の男が見える。
 

 


 次は造船組。この辺りは乾燥した大地の印象のあるパキスタンでも川沿いのせいかまだ緑がある。木材を運ぶ人やノコギリを扱う男たちが黙々と作業を始める。川岸には何艘もの造船中の船が見られる。
 

 


 

タクシー船

 もう一つはタクシー船組。このサッカルは少し大きい街だ。見ている限り、どうもここら辺は結構移動のハブ的なポイントのようで、大小様々な船が出入りしている。いわば川のタクシーセンターなのだろうか。橋はあるので渡し船ではなさそうだ。タクシー船の利用客はもちろん地元のパキスタン人のみなのだが、一度この人たちに混じって船に乗ってみたい気持ちがあった。船を撮影していると朝に気になっていたうっすらとした霧が逆にうまくフォトジェニックな演出をしてくれ逆光の美しい柔らかい光となってくれた。
 

 


 色んな船があるが、この下の船は舵が大きく作られている。

 
 
 タクシー船のほとんどはエンジンのない完全な人力船だ。だいたい船頭さんが二人ぐらい載っていて棒で船を操っている。しかし少し大型の船になると流石にエンジンがついている。そして船尾の方に運転席が設けられており、車のハンドルのようなものがついている。下の木材をまとめている写真の船尾にも運転用のハンドルが見える。なお何本か先がY字になった棒が見えるが、これは屋根のための棒。つまり屋根は取り外し可能な構造になっているのだ。
 

 

 
 ある程度大きい船になると船首や船尾にこのように人が寝転がれそうなスペースが設けられている。何となく中心が出入口っぽくて左右に二つずつ窓のようになっているようにも見える。もしこのスペースが荷物室であれば、この窓となっている部分は荷物を出し入れするときに窓に引っかかって邪魔になる。それを考えるとやはりこれは生活用の船なのかもしれない。
 


 
 モハナ族は“海の主”という異名を持った人々である。(海というかほとんど川じゃんという突っ込みはなしで)。もちろん現代ともなると木造の手作りの船そのものが今後とも造られていくとは到底思えない。プラスチックの船が導入され、彼らの造船技術が廃れるのは時間の問題だと思われる。これを撮影したのは2010年、もう優に10年は過ぎている。今でも造船が2010の時と同程度に行われているとは思えない。このパキスタンといういかにも乾燥した大地に生まれた水の民というのは、水が豊富なミャンマーのインダー族やフィリピンのバジャウ族と違って世界的に貴重な存在なのかもしれない。



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