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プロローグ: パイプ椅子のイカロス

夢の中で空を飛ぶ。
よくある夢のひとつだと思う。
でも、「パイプ椅子振り回してたら空飛んでたわ」
なんて人は稀だと思う。

その夢の中でパイプ椅子を操って、翼のように自在に飛べた。
「エーゲ海はええ下界…」
しょうもないことを言った瞬間、バランスを崩して落ちかけた。
幸い近くの駅に無事降り立つことができた。
よく見ると蔦が絡まり、廃屋と化した駅舎だった。

誰もいない。
左から快速電車が颯爽と駆けていく。
風が心地いい。レモンの香りも漂ってくる。
レールを辿ればどこかの駅に着くはずだ。

「お客さん、こちらの駅ご利用ですか?」
振り返るとヤギのような見た目の車掌さんらしき人?が立っていた。
「うっかり不時着しちゃったんですが、どこから出られますか?」

「ああ、なるほど。空からのお越しでしたか。」
そんなに不時着する輩がいるのか。
決して広くない単線駅なのに、やたら慣れているようだった。
「失礼します。」
ヤギは私の手の甲を数回撫でた。
「お客様は…1年2ヶ月と13日後ですね。こちらから下界に戻れますのでお足元お気をつけて」

石段を下っていくとちょうど綺麗な朝焼けが見えて、
日の光がどんどん大きくなって、
気づけば朝だった。

私の身体はなんともない。
この時点では。

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