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再会

病院からの鬼電なんて人生初だった
病院だけでなく、サトシからの着信もかなり入っていた。
サトシからの電話なんて約20年ぶりだった。
かけ直すと、ワンコールで出た。

「もしもし、サトシ?久しぶり、昨日電話出れなくてごめん。どうしたの?」
「こっちの電話には出るのか…今日って時間ある?昨日のMRIの結果でお話ししたいことがあるんだけど。」

そうか。病院の電話はサトシからだったのか。
「何時から空いてる?」
「今日の日中は休みだからいつでも。19:30以降は診察当番だから飲みには行けないけど」

結局、水族館デートをすることになった。サトシの勤め先から歩いて10分ほどの距離というのが決め手だった。
「よ、20年ぶり。顔変わってなくて助かったよ」
「中学生以来だもんね。これでもお化粧した時期はあったんだよ」
「え、すっぴんなの?普段から?」
「日焼け止めとリップクリームはつけてるよ。」
実のところ、肌が弱くて化粧品をいっさい使わなくなった。

他の同級生は大学やインターンで再会したり、SNSで知り合ってたため繋がりがあったらしい。
周りがSNS上で見栄張り合戦しているのに冷め、グループに誘われても2日で辞めた自分は「消息不明」になっていたそうだ。なんとも勝手な線引きだ。
本当に気になってるなら電話をかければ良かっただけではないか。

「そもそも、連絡とってない人から『結婚おめでとう』とか『職場近いから飲みに行こう』とか、ストーカーみたいで怖くない?」
「言われてみればそうだね。」
「正直、知らない番号からだったら着信拒否してたよ」
「卒業式で連絡先交換してて良かった。」
「で、話って何?」
「…せっかくだから、お互いの近況話しながらでも良い?」

サトシは県外の高校に進学したが、県内の医学部に戻ってきた。
研修医後は離島や過疎地域への派遣され、消化器内科の専門になったばっかりだった。
SNSで派遣先の特産や文化紹介も行っていたのもあり、観光大使にもなっていたらしい。
いわば、インフルエンサーだった。

「あのさ。私のこと、SNSとかネット上でいっさい情報出さないでほしい。」
「なんで?ミカコとか仲良かったじゃん。喜ぶと思うけど?」
「リサのこと覚えてる?」
「2年の時だったっけ?亡くなったの」
「うん。卒業するまではみんな覚えていたと思う。でも今はどう?忘れてるよね。自分の生活と無縁のものほど「あ、そう」で終わるんじゃないかな。」

ドチザメが動くたびにイワシの陣形がうねうねと変わる。

「別に会いたくないわけじゃない。リサに対する反応を見て思ったんだ。それだけだよ。ミカコは瞬発力があるから、色んなところで色んな人と繋がってると思う。わざわざ化石を持ってく必要はないと思うよ。」
「冷めてるな」
「忘れてる物事の感想求められるのって疲れない?」

「私なんかより、『久しぶりに水族館来た』でいいじゃん。
魚が好きな人、水族館の空間が好きな人、サトシの投稿が好きな人。
全員が共感できるじゃん。」

「昔の友だち切り離して寂しくない?」
「じゃあ、なんで今まで誰も電話してこなかったの?」
「電話は…」
「時代遅れだと連絡しない。切り離してるのはどっち?」

エサの時間らしい。マンタが悠々と通り抜けていく。
どうでも良さげなゆるい顔が好き。

「エサの時間なんだね。私たちもご飯食べにいく?」
「…ごめん、寂しくなってつい。」
「連絡してくれてありがとう。たしかに覚えててくれるの嬉しいね。」
「…あと1年くらいなんだ。」
「転勤?」
ううん、

「ハルカの余命、あと1年くらいなんだ」

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