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やること1、断捨離

…思い返して。まったく雑談じゃなかった。
むしろ、なんか重かったな。
いや、重くしてるのは目の前でひたすら絶望してるサトシだ。
ウザい。ウザすぎる。お前、悲しむ要素なくない?

沸々と苛立ちに変わった。私の人生勝手に悲観されてたまるか!

「え、1年も猶予があるの?ラッキー♪」
「え」

このひと言でサトシの感傷をぶち壊した。
いい気味だ。

「普通は突然死んじゃうわけじゃん?てことはさ、お片付けできてなかったら、自分の死後いろんな人に性癖晒されるわけじゃん?そっちの方が怖くね?
「まあ確かに…」

ヤバい、終活まったくしてない!!片付け時間作ってくれた神様、ありがとう!ってなるよね?私はそういう気分だよ。アドバイスくれたけど、『中学の友人に会いに行く時間』はないんだよね。」
「なんで?みんな仲良かったじゃん」

「サトシ、『表面上の仲良し』って知らないんだね。かわいそう。」

サトシの顔が引きつった。つくづく医者に向いてないと思う。
男子は勉強軸と運動軸で作られる平面グラフの中で順位が決まる。
とても単純な世界に居たんじゃ分かるまい。

多感で些細なことに過敏な女子達にとって「生き残る」というのは至極重要だ。
「なんとなく似てる」ことで連帯感を生み、思春期サバイバルを生き抜くチームになる。3次元ですら測りきれない相関図が至るところに張り巡らされていた。
中学時代からの卒業は人間関係からの解放そのものだった。

「出会った人や物事には優先順位が存在する。中学の思い出にしかすがれないサトシと一緒にしないで。あとね、」
「はい」
「今後、サトシは私と関わらないでほしい。君が守秘義務を貫けるか信用できない。『僕の友人が余命宣告受けて悲しい』みたいなサムネ引っさげてSNSのインプ稼ぎしてるでしょ。

たまたまYoutubeのおすすめに出てきた彼の動画を見せてやった。
サトシの顔が強張っていた。告知の場所に水族館を選んできた時点で「悲劇の主人公」を演出しているようで気色悪い。
診察室で淡々と「余命1年くらいですね」って判断材料になった画像や検査結果を見せながらやるもんだろ。

「もしかして今日もカメラこっそり回してたりする?医師免許返還しろと罵ってやるよ。良い撮れ高になると思うよ。それとも、『病院から除籍勧告受けました』なんてどうかな?こういうのもインプ伸びるらしいよ?」

「あの、ごめんなさい。ここで動画消します…あれ、チャンネルが消されてる。さっき見せてもらった時はチャンネルあったのに、変だな…」

ピリリリ
彼の貸与端末が鳴った。さすが病院、仕事が早い。

「ごめん、ちょっと呼び出し受けちゃって、このまま解散で良い?」
「良いよ。じゃあね」

見せた動画はスクショムービーだ。まんまと引っかかってくれた。
病院には動画を見つけた時点で「個人情報の扱いどうなってんだ」って通報済みだ。
念の為にボイスレコーダーとピアスに仕込んだカメラで証拠も撮ってるけど、きっと活用しなくて良さそうだ。彼の処遇がわかったら消そう。

そんなことより
自分の資産整理と、解約手続きラッシュ、そして
腐女子なら誰もが持っているであろう「パンドラの箱」を徐々に浄化する時間。
これが何よりも最優先事項だった。

「ハルカです。終わったので14時半のバスで帰るね。」
自宅ではなく実家に帰ることにした。
倉庫に眠っている黒歴史を消去せねばならぬ。

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