本棚の魔王さま
私の本棚の一等地には私にとっての魔王さまがいます。
その魔王様について書いたエッセイを、私の本棚、というハッシュタグは思い出させてくれました。
過去に書いたエッセイではありますが、今日はそちらをnoteにもアップさせてもらえたらと思います。
タイトル「私のシリウス」
※このエッセイは、2022年10月21日にお題「シリウス」で書き、monogataryにアップしたものです。
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私の中で「シリウス」といったら。
栗本薫さんの「伊集院大介シリーズ」内の「天狼星」にて残虐な事件を巻き起こす怪人、シリウスだ。
この物語はシャーロック・ホームズや明智小五郎のような探偵と犯人の攻防を描いた作品であり、探偵というのが伊集院大介となる。推理を楽しむというよりは、事件のその向こうにある人の心の闇にスポットを当てた作品といえると思う。だがまあ……とにかくグロいために読んで!と積極的に言いにくい。
が! しかし、伊集院大介の宿敵として登場する怪人シリウス。この人に関しては別かもしれない。
多くは語らないが、この怪人はとても美しい。
妖しく、そして恐ろしい。
背筋が凍るほど。読んでいるだけで震えが来て、手汗で本が湿るほどに。
鮮烈な美貌に目の前がくらくらして、けれどその美しさにからめとられたが最後、決して逃れられない。蜘蛛の巣に捉えられ、終わりを待つしかなくなった羽虫の気持ちにさせられる。そんな存在。
とはいえ、この天狼星全体に漂う耽美な空気。次々と起こる殺人事件、猟奇的な殺害方法。それらすべてが読めば読むほどに心を浸食していくのも確かだ。
けれどやはりシリウスのあふれんばかりの魅力がなければ、私はここまでこの作品の虜にはならなかったろう。
捕まえたと思ってもすぐ指の先からすり抜けていくような実体のなさ。にもかかわらず、じっとりとした重みを感じさせる存在感。不快で離れたいのに、このまま彼の腕の中に呑まれてもいいかもしれない、と意識が彷徨い出そうになる底知れない引力。闇に、魅せられ、溶けていく心地よさ。
魂を抜かれる、感覚。
・・・いけない。つい夢中になって書き連ねてしまった。完全に変態の駄文だ。正気に戻ろう。
天狼星と私が出会ったのは、確か高校生のころだった。
ごくごく一般的な田舎の県立高校の図書室に、この本は置かれていた。
正直、内容を見て真面目で堅物な高校生だった私は戦いたものだ。
こんな残酷極まりないものを学校の図書室に置いちゃっていいのか?!と。
けれどこの作品には残虐性だけではなく、中毒性があった。
寝ても覚めても忘れられないのだ。作品全体に漂う、先をも見通せない重い黒なのに、てらてらと光るビロードのような空気が。
シリウスのぞっとするほど妖しい微笑みが。
子どものころから小説は好きだった。とはいっても近代の文豪の小説を愛読できるほど漢字も知らず、読解力にも長けていなかった私は、いわゆる少女小説を読み漁り、その延長で拙い恋愛小説や、ちょっとしたミステリーなどを一人こそこそと書く少女時代を過ごしていた。
そんな私にとって天狼星、そして栗本薫さんとの出会いは衝撃的すぎた。
闇が光る。
天狼星を読んだとき、私の頭に浮かび上がった言葉はそれで。
こんな闇を書いてみたい。
妖しく美しく光る闇を。
人の業や思いを垣間見せる、感情のさらにその先にあるものを呼び起こさせるような世界を。
そんな願望を抱くようになっていった。
しかし、栗本薫さんの文章はまさに神のもの。
そして栗本さんの描かれるキャラクターもまた然りだ。
私には到底真似できるものではない。
書いてみたいけれど、真似ればすぐにばれてしまう。それくらい個性に裏打ちされたとんでもない魔力を秘めた文体、そして物語なのだ。
ゆえに、私は栗本薫さんに強い憧れを覚え、影響も受けてはいるけれど、同じ場所へは当然行けないし、行こうとしてはいけない、とも思っている。
でもやっぱり書きたいのだ。
光る闇が。
だから私は私だけの闇を書こうとじたばたし続けている。
もちろん私は、暖かいものも、優しいものも、きゅんとするものも、切ないものも大好きだ。
けれど、闇そのものもまた大好きで、時折無性に書きたくなる。
そうして闇を書きたいと願うとき、私は栗本薫さんの描いたシリウスの気配を感じる。
まるで恋のようだ、とそんなとき思う。
もう出会って何年も経つのにそれでも忘れられない。
それくらい、私の中でシリウスの存在は絶大だ。
結局のところ、一度魂を取られたら逃れられないのだなあ、と思う。
私も書いてみたい。
恋のように何十年も忘れられない。
そう言ってもらえるキャラクターを、物語を。
しかし今の私にはまだそれができない。栗本薫さんのような目がくらむほどの個性も持ち合わせてはいない。
悔しくて毎日泣きたくなる。
でも泣いていたら進めない。
だから私はシリウスを目指そうと思う。
届かないけれど。それでも永遠に目指し続けたいと思う。
本当に、あの人は遠い。永遠の片思いだ。
・・・・なんてことを書いていたら、めちゃくちゃ栗本薫さんの物語を読みたくなってきた。
独り言をだらだらと書き連ねてしまい大変申し訳なかった。この辺りで失礼しようと思う。
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このエッセイを書いて一年半。
光る闇の気配はまだ遠いです。
それでも私はまだ諦めていない。
ある意味、本当の意味で、シリウスは私のシリウスなのかもしれない。
今日も私の本棚の一等地から、私の魔王さま、シリウスに見下ろされつつ、私はパソコンに向かっています。
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