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本の棚卸し:004 「体はゆく」 第4章〜学習の環境依存性と可塑性

著書「体はゆく」第4章の紹介です。
キー・コンセプトは、学習の環境依存性と可塑性
学習はその環境に依存するということと、
可塑性とは何か?についての話です。

学習の環境依存性と汎化について

運動に限らず何かを学習するには、
その時の環境に依存するということがわかっています。

どういうことかといえば、
ある環境で学習したことが、
別の環境で全く同じように再現できるとは
限らないということです。

このことは、
この著書の第2章でも指摘されていました。

野球のピッチャーがビジダー球場のマウンドで
ホーム球場のように投げることができるか?、
観客の声援のあるなしなど、さまざまな環境要素の違いで、
パフォーマンスが異なる可能性について
述べられていました。

ある意味、
「意識ではなく環境に能力を引き出してもらっている」
とも言えそうです。

一度獲得された能力が環境要素の影響なく定着すれば、
一般化=汎化(はんか)されたと解釈されます。
それが真の意味での「できるようになった」だと
述べられています。

報酬系のメカニズムー強化学習

何かを学ぶ際に、
報酬系罰系の方法があると言われています。
いわゆるアメとムチの関係です。

それは正しいと褒めるのが報酬系
それは違っていると指摘するのが罰系です。

重要なことは、
報酬系罰系では脳が機能するメカニズムが
全く違うということです。

報酬系のメカニズムには、
大脳基底核というところからドーパミンという物質
が放出されます。

そして、
この報酬系のメカニズムには、
必ずしも手本となる教師役が必要ない
ということです

自分自身の試行錯誤の中からでも、
「ああ、なるほどぉ」といったような
学習が進んでいきます。
「成功体験を焼き付ける」というイメージです。

このような報酬系を介した学習を
強化学習と呼んでいます。

しかし、
報酬系
の学習がうまくいくかどうかは、
その人や状況によって異なるようです。

自分自身で試行錯誤の中から、
何がいい方向なのかを判断できる、
感受性の高い人は強化学習が働かせやすい
とも述べられています。

罰系のメカニズムー誤差あり学習

もう一つの学習系が罰系のメカニズムです。
罰系には小脳が(運動に)関与します。

罰系はうまくいかなかったときの状態を
小脳でエラーとして記憶し処理し、
その状態を中止したり抑制したりして、
調整(チューニング)を加えるような働きをします。

小脳は運動の調整だけではなく
記憶にも関与しています。

そのためか、
罰系の方が報酬系よりも学習したことが
長い間定着しやすいそうです。

学習に関わる脳のメカニズムのまとめ

学習には主に二つの脳のメカニズムが存在する。
それが、報酬系罰系である。

報酬系は、脳の大脳基底核が関与、
罰系は、小脳が関与。

報酬系は、学習のスピードをアップさせるが、
忘れやすい(定着しにくい)。
罰系は、学習の速度は早めないが、
定着しやすい(忘れにくい)。

脳の可塑性とBMI (Brain Machine Interface)

リハビリテーションにおいて、
神経麻痺などで失われた機能を
回復・改善する試みは以前よりされています。

その中で、
テクノロジーとして使用されているのが、
BMI (Brain Machine Interface)です。

失われた機能を脳波を介して、
上肢や下肢の筋肉に信号を与える仕組みです。

例えば、
腕を動かす指令に関与する脳の部位が機能しない場合、
脳の他の部位から腕を動かす指令をうまく出力できれば、
腕を動かす筋肉へ電気刺激が行われ、
結果として思ったように腕が動かせるという仕組みです。

しかしこれには、
機能が失われていない脳の部分が
以前とは異なる、失われた機能を補うような働きをすることが
必要となります。

このような性質を可塑性 (plasticity) と呼んでいます。
この言葉は、リハビリテーションの世界では
代償的・補償的役割を示す柔軟なイメージを与える
ように捉えられがちです。

しかし実は、
可塑性の意味はそれとは異なるイメージです。
プラスチックに熱を加えると変形して、
元の形とは異なる状態で(元には戻らすに)固まる。
これが可塑性です。

ちなみに、
元に戻る性質は弾性 (elasticity) です。

ですから、
一旦誤った学習をすると、
それが定着してしまう危険性も存在しています。

もし間違った学習が繰り返されると、
脳の可塑性によって、
間違ったまま定着してしまい、元にはなかなか戻れない、
ということになります。

BMI による誘導(学習)においても、
誤情報・誤学習が起こらないように
注意が必要と述べられています。

この章では、
自分(理学療法士)が関わってきた
リハビリテーション分野の話だったので、
より興味深く読むことができました。

なお、この第4章に関しては
Podcast番組
トーク・オン・エクササイズ 208(308)」の方でも
話題にしていますので、是非そちらの方もお聴きください!

ここまで読んでいただきありがとうございました。
ではまた次回に。




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