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4年経っても野戦病院

夕方16時、オンライン会議を終えてほっとしてベッドに寝転がったら、寒い。思わずそのまま布団に入って目が覚めたら20時だった。そして布団に入っているのに寒い。昨年末にコロナをやってから枕元に常備していた体温計で測ってみたら38度を超えている。

這うように起きてして猫のごはんの支度をして、棚の奥から買い置きのCovid-19抗原検査キットを引っ張り出して久しぶりに鼻に綿棒を突っ込んだ。盛大にくしゃみをしながら試薬に突っ込んだ綿棒を揉み、アルミの封を切ってカートリッジを取り出して3滴垂らす。15分静置と書かれているが2分も待たずに結果はわかる。ラインは1本、陰性だ。そうしている間にも寒気はおさまらず、「熱出た38℃コロナ陰性」「寝る」と家人にメッセージを送ってそのまま意識を失った。

目が覚めたのは深夜3時。布団2枚に毛布もかけていつもなら跳ね除けていそうなものだがそれでも寒い。兄猫が枕元で寝ている。この子は体調が悪い時は必ず添い寝してくれる、優しい子だ。灯りをつけて体温を測るとさらに上がっている。ダメもとで総合感冒薬を飲んではみたが、コロナじゃなければインフルエンザだろう。参った。

翌朝8時、全く熱が下がる気配がない。喉もいたい。鼻水も出る。むせながら猫のごはんとトイレの掃除をして、仕事の予定は全部キャンセルして発熱外来に行くことにした。コロナ以前は発熱外来ってあったんだっけ。普通に耳鼻科とか内科の受付で「今日はどうされましたか」「熱出ましたー38℃です」「じゃあウィルスチェックしておきましょうか」みたいな感じで済んでいたような気がするのだが、とにかくコロナ以後は、発熱=感染症の恐れあり、で、入口が分けられているらしいとかアポ無しだと入れてくれないとかそういうのは聞いていたので、近所のいつも空いてる耳鼻科の診療所に電話をした。

受付開始前の8時半頃だったがすぐに人が出た。「発熱外来の受付はこちらでいいですか、昨日夕方から38℃超える熱が出てます、手持ちのキットではコロナ陰性です」というと、10時半にきてくださいと言われた。診察開始は9時半なので、この時点で1時間待ちになるほど患者がいるということだ。げんなりしていると追い討ちをかけるように「屋外で待っていただくかもしれないので暖かい服装でお越しください」と言われた。季節外れの陽気だった前日までとはうってかわって最高気温11℃、一気に7℃近く下がった日にこの仕打ちだ。

とはいってもみてもらわないことにははじまらないので言われた時間に行くと、診療所前のテラスのようなところに人がたむろしている。椅子にはマスクにマフラーぐるぐる巻きの子供が座らされて、お母さんがしゃがんで頭をなでている。子供が熱を出したのだろう。杖をついた老夫婦はベンチに座っている。ダッフルコートを着た学生風のお兄ちゃん、ダウンを着込んだサラリーマンは花壇の縁石に腰掛けている。1つだけ椅子が空いていたのでおばさんは遠慮なく座らせてもらう。

診療所の入口は大きなガラス扉でいつもなら待合室のソファが見えるのに、目の前にパーティションが立っていて何も見えない。中から看護師が出てきたので声をかけて受付をしてもらった。背中越しに中を覗くと、パーティションが迷路のように入り組んでいて小部屋がいくつも作られているらしい。発熱した人同士を会わせないようにしているようだ。問診票を受け取り、「インフルとコロナの複合検査になるんですが、希望されますか」と聞かれる。ここで断ったらどうなるんだろうと考えるほど頭が動いていなかった。「お願いします」というと、「順番が来たらお呼びします。その前に検査しますので、外でこのままお待ちください」ほんとに外で待つんだ……。

暖かくしてこいとは言われて着込んではいるがそれでも寒い。待っている間にも検査キットをもった医師が時々出てきて、子供や、お兄ちゃんや、おばあさんの鼻の穴に綿棒を突っ込んでいる。子供が泣き叫ぶ。遠慮なくやられるから痛いんだよなあれ。そうこうするうちに20分ほどで私のところにも綿棒がやってきた。痛い。そして15分待つと検査結果がやってくる。「インフルA型ですね、お薬だしときます。処方箋持ってくるので中でお待ち下さい」とようやく室内に入れてもらえる。パーティションで区切られた畳半分もないスペースで座って5分ほど待ち、会計をして診察終了。

「薬は、道をわたった●●薬局でもらってください。こちらからFAXで処方箋を送っておくので、行ったら入口で名前を言って、そのまま中に入らずに外で待ってください。薬は持ってきてくれます」感染症予防の前ではかかりつけ薬局制度は無力だった。

言われるままに薬をもらって帰宅し、イナビルを吸ってひたすら寝る。結局熱が下がったのはそれから2日後だった。そして2週間経つ今も鼻水が止まらない。

平和な東京の真ん中に、野戦病院で戦う医療従事者がいる。感謝している。しかし、Covid-19が来てからもう4年も経つのだ。医療従事者のためにも患者のためにも、もう少し環境を整えることはできないものだろうか。

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