約束

 どうやら寝ている間に冬に取り残されてしまったらしい。
 ちょっとうたたねをしていたくらいの気分でいたのだけど、気づけば辺りには人っ子ひとり居らず、私はひとりきりで炬燵の中で身を丸めていた。いつもであればお花見やらゴールデンウィークやらの話を済ませている時期であるはずなのに私ときたらたったひとりでダウンジャケットを脱ぐこともできずにいる。冷蔵庫の中には白菜とチルド肉まんが常備されているしいつまで経っても芋焼酎の湯割が美味しい。ひとりきりの冬はおそろしく長く静かだった。
 今日も私は日めくりカレンダーを一枚破り捨てる。おそらく世間は夏を迎えた頃だろう。夏といえば、来年はプールに行ったり花火をしようとキリちゃんと約束をしていたのだっけ。ウォータースライダー、乗りたかったな。そんな事を思いながら私は毛布に包まる。
 ある朝目覚めたら外が騒がしかった。慌てて窓を開けると冷たい風と雪に混じって雑踏の音やいきものの息遣いやクラクションがいちどに部屋の中へ飛び込んできた。ああようやく冬が来たのかと思ったその時、家のインターホンが鳴る。
 ドアを開けると、そこには未開封の花火セットを手にしたキリちゃんが笑って立っていた。

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