悪趣味

 気に入っていたアイスが生産終了になってしまった。半日ほどスーパーとコンビニをはしごして、私は泣く泣く現実を受け入れる。世間からの歓迎を上手に受けられなかったらしい甘納豆味のカップアイスのことを私は存外愛していたのだ。ところがどうしたことだろう! キリちゃんの家の冷凍庫には私が求めてやまなかったカップアイスが大量にストックされているではないか。喜びのあまり踊り狂う私に向かって彼女は全部食べていいよ、と告げる。せめて一緒に食べようよと慌てる私に、キリちゃんは不味いからいいやと含み笑いを見せた。こういうことをされると困る。本当に困る。
 だけどそれからも似たような事は続いた。
 例えば香水やビスケットや洋服のブランド。フレーバーティーからマスコットキャラクターまで。私が愛したものはことごとく世間から受け入れられず消えていき、そうなることを見越したようにキリちゃんはそれらのストックを用意しておいてくれるのだ。この法則性って何なんだろう。犬だか川獺だか鼠だか分からない絶妙に可愛いマスコットキャラクターのキーホルダーを複雑な気持ちで私は彼女から受け取る。
 そんなある日私はキリちゃんのクローゼットで一体のアンドロイドを見付ける。そのアンドロイドはキリちゃんの姿形とそっくりだった。法則性。私はアンドロイドの頬をじわりと冷えていく指先で小さく撫でた。
 だから、しばらく遠くに行くよと言って背を向けたキリちゃんの手を私は掴んだ。
 絶対に離すものか。ストックなんて糞食らえ。そうやって手を握り続ける私にキリちゃんは、ほんとに趣味が悪いよねと微笑む。
 どうかこの手を握り返してくれと祈り続けながら、私は五月蝿いと小さく彼女を睨む。

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