抵抗

 キリちゃんの背が毎日一センチずつ縮んでいるらしい。キリちゃんの身長はだいたい一七〇センチ弱といったところなので、夏が終わる頃には彼女はこの世からすっかり消えてしまうことになる。なんてことだろう。
 彼女が十センチほど縮んだ頃、私たちは連れだって靴屋に足を踏み入れた。馬鹿みたいに踵の高い靴を彼女に薦めたのは私のどうしようもない悪あがきに過ぎなかったのだけど、キリちゃんは何も言わずにそのチェリーピンクのピンヒールに足を通してくれた。私も色違いのコバルトグリーンを買う。ふたりそろって慣れないヒールに足をふらつかせながら街に繰り出しストロングゼロのもたらすインスタントな酔いに任せて公園で踊ったワルツはさながらショート寸前のロボットダンスといった感じだったけど、それでも私たちは手を取り合ってはしゃぎ倒した。楽しかった。本当に。
 それから一週間後、とあるビルの踊り場でキリちゃんの死体が発見されたとき、現場にはピンヒールが転がっていたらしい。全くサイズの合わない靴を彼女が履いていたことに首を傾げながらも、警察は事件性は無いと判断した。
 新聞の隅に掲載されたその小さな記事を読み終えた私は、足元のコバルトグリーンをいつまでも見つめ続けている。

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