Find me

 このところ毎日顔が変わる。
 例えば日曜日の私は小学六年生の頃の担任にそっくりだったしは水曜日はオードリー・ヘップバーンにそっくりだった。統一性は全くなく、毎日毎日異なる顔になり続けていくうちに元の顔はすっかり忘れてしまった。それにしてもこの現象には弊害が多い。ある時見知らぬ女性とキリちゃんが二人並んでタピオカミルクティーを飲んでいるのを見かけたので声を掛けてみたらキリちゃんが驚きのあまりタピオカを吹き散らしたことがある。なんと彼女は見ず知らずの他人をすっかり私だと思い込んで一緒にタピオカミルクティーを飲んでいたのだ。いや、それは流石に気付けよと思わないでもなかったけど全てはこの妙な体質が悪い。参ってしまう。
 そういう事が続いたある日、キリちゃんが私に香水をプレゼントしてくれた。蓋を開けると嗅いだことのない香りがあたりに満ちる。なんでもそれはキリちゃん自らが調合した香水で世界にたったひとつしかないフレーバーなのだという。これでちゃんと君を見付けられるよと嬉しそうに口にするキリちゃんに、私はモナリザによく似た顔でそうだね、と笑った。
 けれど些細な事が積み重りある日私たちは大喧嘩をしてしまう。そのままキリちゃんと私は連絡を取らなくなった。それから何度か街中でキリちゃんを見かけた。彼女は私の知らない誰かとタピオカミルクティーを飲んだりプリクラを撮ったりしていた。もしかしたら世界にたったひとつしかない香水を送る相手だって出来たのかもしれない。
 未練がましいと笑えばいい。私はいまだに彼女に貰った香水を捨てられないでいる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?