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春夏秋冬/花暦

春夏秋冬/花暦
しゅんかしゅうとう/はなごよみ

朗読劇用の脚本です。四人用。上演希望の場合はご連絡ください。

あらすじ
季節の精霊は四人暮らし。彼女たちの模様替えが世界の季節を決めていく。けれど、今年の冬はどうも怠け者のようで……?

役柄
さくら 長女。しっかりもの。
もも 次女。あわてんぼう。
もみじ 三女。メランコリー。
みかん 末っ子。のんびりや。こたつが大好き。

時 冬

さくらナレ「私はさくら、春の妖精。季節を司る私たち四姉妹は、それぞれ春、夏、秋、冬を担当している。私たちが街の上でダンスを踊ると、空気が新しくなって、季節がだんだんと移り変わっていく。いまは一月の初め。正月気分もほどほどに、仕事始めで活気を取り戻した町に、少しだけ春の陽気をプレゼントしたくて、私は妹のみかんを連れて街へ行こうとした。ところが……」

みかん「あ〜、こたつ最高〜、動けない〜」
さくら「ねえみかん聞いてる?街に行ったら新しくできたクッキーのお店があるから、そこに寄ってね」
みかん「あーうん、行ってきて〜、お土産待ってる〜」
さくら「そうじゃなくて、私たち二人で踊らないと太陽も雲も動いてくれないでしょ」
みかん「ん〜、もうちょっと待って」
さくら「いいから、こたつから出なさい!」
みかん「まっ、て〜」
さくらナレ「と、冬をつかさどる末っ子のみかんが動かない。こたつにまるで根が生えたみたいに一日中座ってテレビを見たり、Twitterを見たり」
みかん「こたつ最高〜」
もみじ「あれ〜? まだこたつしまってないの〜? あたたか〜い」
さくらナレ「横から入ってきてこたつに潜り込んだのは、三女のもみじ。秋を司る妖精で、一仕事おえたあとの冬はすっかりニート生活を堪能している」
もみじ「テレビ何みる?」
みかん「ネトフリ見れるからストレンジャーシングス見よ」
さくら「もみじ、みかんに言ってあげて」
もみじ「なにを〜?」
さくら「人間たちがこれから来る春に希望を持てるように、少しだけ春の風を届けたいの」
もみじ「さくら姉は真面目だな〜、そんなのなくても人間は生きていけますって」
みかん「そうそう、枯葉の秋も、雪の冬も、こたつに座ってテレビ見てれば過ぎていくのよ」
もみじ&みかん「ね〜♪」
さくら「みかん、もみじ」
もも「おはよ〜!散歩に行かない?天気いいから!あれ?どうしたの?」
さくらナレ「と、元気よく飛び込んできたのは次女のもも。夏を司る妖精で……」
もみじ「冬場にタンクトップ……」
みかん「パジャマにしたってありえない……」
さくらナレ「とにかく、元気だ」
もも「私だって外に出る時はコートくらい着るよ?あーでもマフラーって巻くと暑いしとると寒いし、扱いが難しいよね!」
みかん「そうだもも姉、春に困ることって何かある?」
もも「春に困ること?」
もみじ「花粉症じゃない?秋もあるけど、春は特別」
もも「たしかに、春になると沢山の花粉が飛び交うよね」
みかん「それに虫も沢山出てくる!」
もも「虫は夏の方が多いかな、街灯のまわりをおおい、道路を埋め尽くすカゲロウの群れ!」
もみじ「なんで自慢気なんだ」
さくら「とにかく、みかんはこたつから出て私と外に行くの!」
みかん「それは無理、こたつから離れたら寒くて歩けない!」
さくら「歩かないとどこにも行けないよ?」
もも「そうだよ!歩いてたらあったかくなるよ!」
みかん「へ?」
もも「肘を曲げてぐいぐい歩くの! 肩甲骨を回すイメージで、こうやって!」
もみじ「見てるだけで暑苦しい…」
もも「ありがとう!さくら姉、街に行くの?」
さくら「そうなの、冬の寒さで弱ってる人たちに春の」
もも「そういえば、新しいラーメン屋を見つけたの!夕方になるとスープが終わっちゃうから、開店前に並ぶしかないくらいの人気店でね、インフルエンサーがどうこうしたか何かで、すごいんだって!」
もみじ「情報がモヤモヤしてるな〜」
さくら「ラーメン屋じゃなくて!」
みかん「春、そんなに必要ですか? それって個人の感想ですよね」
もみじ「youtubeで有名な人みたいな言い方してきた」
みかん「花粉も出るし、風もつよいし、それに昼はちょっと暖かいくらいで夜は寒いでしょ、春、中途半端だと思うんですよね〜」
もみじ「論破するね〜」
もも「なるほど、たしかに春、いらないかも!」
もみじ「すぐ影響受けるね〜」
さくら「じゃあ、もういい!」
三人「えっ?」
さくら「今年は春なし!中止です!」
三人「えーっ!?」
さくら「だってそうでしょ? そんなに春が嫌なら、ずっと冬でいたらいいじゃない!」
もも「え?なに?どういうこと?」
もみじ「あーあ、みかん、やっちゃったね」
みかん「え?わたし?」
もみじ「意地張らないでこたつから出ればよかったのに〜」
みかん「もみじだって一緒に春の悪口言ってたじゃん!」
もも「あーっ、もしかして、さくら姉、もしかしてだけど、みかんをこたつから出そうとしてた?」
さくら「それ以外の話はしてないけど?」
もも「そうなの?わたしみんなの季節の悪いとこを順番に言ってく日なのかなって思ってた」
みかん「どんな日?」
もみじ「ブラック企業の研修みたい」
もも「春が来なかったら、夏は?秋はどうなるの?」
さくら「そんなの来ません。なんもかんも中止!ずーっと冬!ぷん!」
もみじ「すねちゃったね。どうすんの、みかん」
みかん「どうすんの、って……どうしよう」
もみじ「謝った方がいいと思うけど……私も冬がずっと続いたら困るし」
みかん「そうだよね……ごめん、さくら姉、謝るから機嫌なおして!」
さくら「別に?機嫌悪くないし?謝られても?」
もみじ「めちゃくちゃ不機嫌!」
もも「でも春が来ないと夏も秋も来ないから人間たちが困るよ!」
さくら「だって、春なんて来なくていいんでしょ?」
みかん「そんなことないよ〜、春来てほしいよ」
もみじ「と、言いながら、こたつからは出ないんだよな〜」
もも「ねえねえ、春になると虫とかいっぱい出てくるよね」
もみじ「いきなり何?」
もも「春のいいところ!虫が出ると、鳥も喜ぶし、草木も芽吹いて、緑も豊かになって」
みかん「花が咲く!いろんな種類の花。花が咲いて、蝶やハチが蜜を求めて飛んでくるの」
もみじ「春だね〜」
みかん「冬の間は高いところに行って消えてた雲が、春一番の風に乗って少しだけ戻ってくる」
もみじ「全体的にあったかくなるよね、夏や秋よりも柔らかな日差しがぽかぽかと」
もも「春は恋の季節!鳥たちがさえずり、求婚のダンスを踊る!」
みかん「人間たちも獣も、冬の間は閉じこもっておとなしくしてるけど、春になると外に出ていろんなことをはじめる」
もみじ「人間だったら卒業式とか、入学式とか、社会人になったり、引っ越しをしたり」
もも「とにかく新しいことが始まる!だって一年の始まりだもんね、ほらなんだっけ、確定申告?」
もみじ「年度末は三月だから、たしかに春は一年の始まりかも」
みかん「さくら姉がいないと一年が回らないし、ずっと冬だとみんな寒くて困っちゃうから、絶対春は必要だよ!」
さくら「うん、知ってた」
みかん「機嫌、治った?」
さくら「まあね、みかんも、こたつから出てきてくれたし」
もも「ほんとだ!」
みかん「なんだか喋ってるうちに体があったまってきちゃった」
もも「じゃあこたつ片付けちゃおうか」
もみじ「ほえ〜、まだ私はこたつ必要だが〜」
さくら「もみじも、一緒に行こう。私とみかんが踊ったら、新しいクッキー屋さんに行くの」
もも「その前にラーメン!インフルエンサーの!」
もみじ「完全に散歩でカロリー消費したのにラーメン屋に寄っちゃって帰りが電車のやつなんだよな〜、はいはい行きます行きます」
みかん「さくら姉、人間たちは喜んでくれるかな?」
さくら「わからない。でも、わたしたちが毎年変わらず踊り続けたら、少しだけでも希望を持ってくれると思う」
もも「冬が過ぎて春が来て、夏が来て、秋が来て」
もみじ「また冬が来る。もも姉は一年中夏の方がいいんじゃない?」
もも「私はどの季節も好き!夏から秋になると入道雲がとけてバラバラの鰯雲になって、そらが麦畑みたいになるのも好き!」
もみじ「あ、そう、へえ」
みかん「もみじが照れてる!」
もみじ「うるさいな!えへへ」
さくら「じゃあ、街に出て少し踊って、ラーメン食べてクッキー買って帰る、でいいね!」
三人「は〜い」

さくらナレ「こうして今年も、少しづつ季節は巡っていく。人々が生きている限り、私たちもまた、あの青い空で、踊り続ける。どうか、今年も一巡り、人々が幸せに過ごせますように」

おわり

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