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「巣」の話

人間に「巣」が必要であることは、案外言及されてないように思います。「巣」とはすなわち帰る場所であり、自分がホッとできる居場所のことです。

じゃあ、それって「家」のことじゃない。

そう言われるかも知れないけど、実は家の中って居場所がないことが多い。自分の家でも居心地の悪い場合があります。家が居心地いい場合は、とにかく何かって言うと家に帰りたくなりますが、そうじゃない場合は、できるだけ家から離れる行動を取りがちです。

例えば、仕事が終わってから一杯やってからでないと帰れない。出張があると嬉しい。ファミレスやカフェで仕事をしてしまうとか。そんな感じです。

私の旦那さんはアーティストで、家で仕事をしていました。あ、これで結婚した人です。美意識の強く、内装、インテリア、全部自分で決めてしまうような人で、私も最初は「アーティストの作品に囲まれた暮らし素敵〜!」なんてポヤ〜ンとしていました。

インテリアだけでなく、私の着る服や化粧の仕方さえも彼がチョイスするような案配で、最初のうちは「ニューヨーク帰りの人でセンスはいいんだし、私は田舎の人間だから彼の言うようにしていたほうがいいのかな」くらいに思っていました。ところが、頭ではそう思っても、やっぱり体の奥底では窮屈に感じていたようです。私はどんどん家にいないでいるようなことばかり始めてしまいます。

まず、店を始めました。場所は旦那のお母さん、つまり義理の母の家の一部を使っていました。最初はカフェでしたが、すぐ夜中心のワインバーになったので、家に帰らずにお義母さんと同居しながら店をしました。と、言うのも、店を始めたと同時に妊娠したからです。同居をしたのは、子供を見てもらうためでした。

数年後、店の場所を変えたので、また旦那さんとの同居が始まりました。昼間は旦那さんは在宅で仕事。私もワインバーなので、昼間は家。でも居づらかったので、近所に物件を見つけ、カフェを始めました。もちろん、当時は「家にいたくないから仕事を始めた」なんて1ミリも思っていませんでした。むしろ、昼も夜もバリバリ仕事をする女気取りでいたくらいです。

子供の世話はほとんど旦那さんに任せきりで、私は昼も夜も仕事をしていました。ところで、私の店では生ビールを出していたのですが、仕事の最後に生ビールの洗浄というのをやります。これは生ビールサーバーに残っているビールを抜いて、水洗いする、という作業なのですが、ここに残っているビールをうまく出すと、1杯弱分くらいになります。それを私は毎晩飲んでいました。

しかし、それだけでは足りずに、いつまでも店にいてお客さんと飲んだり、もう一軒行ったり、店から家までは歩いてたった3分。すぐ帰れる距離だったのに、とにかく家に足が向かないのです。そのうち、飲んだくれて店で寝て朝を迎えたり、駐車場の車の中で寝ていたり、というのを何度も繰り返すようになります。

もうここまで行くと重傷です。アル中の域ですね。

そうしたら、実家の父の具合が悪くなって、それを口実に、私は実家に行く事になり、別居が始まりました。お店のみんなは心配しました。実家だと店の行き来が車になります。そしたら大好きなお酒が飲めなくなっちゃう。大丈夫なの?って。

私も心配していました。私あんなにお酒を好きなのに、飲まないでいられる?でも、全然大丈夫でした。私がお酒を飲んでいたのは、お酒が好きだったからじゃない。お酒を飲んで時間稼ぎをしていただけだったんです。それに、家にすぐ帰るようになりました。ここが私の巣だったんだなぁと思います。今でもこの場所がとても居心地がいい。でも、私の母は居心地が悪いと言います。それで母は別の場所に住んでいます。だから、ひとつの家が家族全員の巣と決まっている訳ではないと思います。家が心地いい人もいれば、心地よくない人もいて当然と思います。

今の場所がいい、悪い、じゃなくて、自分にとっての心地いい場所って、人によって違うと思うんだけど、だからと言って「あ、ここ私の場所じゃないんで、ほな、サイナラ」なんて、行動に移しにくいですよね。生まれてからずっと与えられた場所がそうだと思わされてきているじゃないですか。例えば、学校だったり、家庭だったり、友達同士の中だったり。もちろん、自分で選んだけど、やっぱり違ったわ、ということもありますし。

居心地の悪い場所にいる人は、なんとか自分の巣を作るか見つけるとかしないと、体や精神が弱って来るんじゃないかな、と思います。そりゃ野生動物だって動物園に入れられれば、それなりに馴染むかも知れないけど、やっぱり「かわいそうなキリン」くらいにはなってしまう。本来の姿じゃないですよね。

男の人にはちょっとアレな話ですが、実家に引っ越して、最初にきた生理の経血がタールのように真っ黒だったことを思い出します。私の勝手な憶測ですが、あれで多分体の色々溜まっていたもの(毒?)が出たんじゃないかと。それに、季節ごとにのど風邪をひいていたのが、まるっきりなくなりました。体って不思議なものですね。

人間、頭では理解していても、やっぱり気がつかない体レベルではホッとできる場所、自分が自分でいられる場所を求めているんだと思います。もし、本当に巣を必要としていたら、日常の行動や出来事の中に自然とそういうサインが出ているかも知れません。

※畑の隅にあるイタチの巣へ続く穴。子供の頃はこういう巣に憧れて布団を丸めたりして巣を作って遊んでいました。こういうのって、本当に居心地良さそうだと思いません?

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