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もしもインターネットとカルテが繋がったら

インターネットが発達している世の中。
なのに、一線を画している業界がある。

それは、医療の世界。

信じられないかもしれないが、いまだに患者の情報のやり取りは、紙とFAXが基本だ。

この患者の共有リンク送るね。
OK!

なんて会話、夢のまた夢である。

現実は、レントゲンやMRIの画像データをCD-ROMの中にいれて患者へ渡し、医療機関から医療機関へデータを渡すというプロセスを辿っている。

電子カルテが登場してはいるものの、紙に書いていたものをPCに置き換えただけ。

データ化されただけであって
ネット回線には繋がっていない。


ここまでかたくなに、カルテがインターネットと繋がろうとしない理由が2つある。

ひとつは、個人情報保護の問題

仮に、インターネット上にカルテ情報があったとして、それが漏洩して拡散した場合に困る人がたくさん生じてしまう、というもの。

だから、現行のルールでは私たち医療従事者には守秘義務がある。

関わった患者に関する情報は、たとえ患者が亡くなっても守秘が原則。裁判などで証人となる場合も、虚偽の発言やカルテ記載は許されない。

そうでなくても

情報は守るもの
共有はするけれど、関係者のみ
そして、秘密は保持するもの

今のSNS時代とは真逆の価値観だけれど、こと医療に関して言えばこれがセオリー。

私もこれが当たり前だと思っている。


そのため、インターネットとカルテが繋がり、情報の共有がネット上で簡単にできるようになったら、関係者外へ情報が漏洩し拡散してしまうことが最大のリスクとなる。

たとえば、あなたがインフルエンサーの場合。

整形やEDの手術をしたことが世間に広まってしまったら、いいネタとして消費されるだろう。

文春ほいほいである。

がんや免疫系の難病を患ってしまった場合には、奇跡の水や黄金の腹巻きなどの営業、聞いたことのないような信仰のお誘いが、それはそれはわんさかくるだろう。

社会的地位が高いと言われている社長や政治家、弁護士や医師なんかも、その地位をひきずり降ろそうとする輩に情報が漏れてしまったら、一巻の終わりだ。

病気や障害によって、未来の可能性や選択肢が狭まるかもしれない人ったち。そういう人に、自分の未来を預けようなんて思わない、という人は一定数いる。


インフルエンサーでもなく
社会的地位もそこそこな
私たちだってそうだ。

10代で中絶した経験がある、とか
性感染症の既往歴がある、とか
非嫡出子(結婚していないカップルから生まれた子)である、とか
覚せい剤陽性反応が出たことがある、とか

世間に知られたくない情報というのは、意外にもカルテにある情報と密接に関わっている。

なぜなら、病気のデータというのは、社会性を抹殺するにはもってこいの凶器だから。

私も例外じゃない。

今は看護師という仕事をしているが、たとえばHIVに感染してしまったら、私を雇ってくれる病院は皆無だろう。

国家資格があるのに、職を失う。
使うフィールドを奪われるから。

病気によって失われるものの中には、身体や精神だけではなく、社会性も含まれることがおわかり頂けると思う。



もうひとつ、カルテとインターネットが繋がらない理由がある。

それは、医師をはじめとする医療従事者が、医療に市場価値がもたらされるのを望んでいないことだ。

医師の中には、アルプスの頂きより高いプライドをお持ちの方がいる。
そんな人が

あの先生は威圧的だった
誤診だと思う
もう一度検査からやり直してほしい

なんて文面をカルテでみたら、なんて思うだろう。

ある組織では威厳があり絶対神とされている人も、組織の世界線を超えたらただの人である。

他にも、看護師をはじめとする医療従事者の対応、診断や治療のプロセス、利権関係、そして外科的スキルなど、カルテの中には組織にとどめておきたい内容も含まれる。

これがインターネットで共有されてしまっては、困る人たちも出てくる。いわゆる、利権問題だ。

「臭いものには蓋をする」は日本人の悪癖であるが、それは医療の世界も一緒。

でも、ネット化して情報が患者でも閲覧できるようになれば、都合の悪いことは隠しておけない。これを恐れている人たちも、いるのである。



ここまで、カルテのインターネット化最大の敵は、情報漏洩と拡散という話をしてきた。

ただ、私自身、その壁はこえていけると思っている。

たとえば、迷惑メール。
あれって個人情報が漏れてるからメールが届く。

でも

フィルタリングして開封しないようにしたり
ゴミ箱にいくように設定したり
通報して、取り締まってもらうようにしたり
最悪、アドレスそのものを変更したり

私たち側で対処できること、いつの間にかやっているはず。

もちろん、企業側も頑張っていると思うが、それでも良い意味で、信用しきっていないというのがポイントだと思う。

情報が漏れるかもしれない

けれども

それを上回るメリットがあると確信しているから、そのサービスを使い決済をしているはず。仮に、情報が漏れた時のリスクヘッジは、多少なりとも考慮していると思う。



ここからは、インターネットがカルテと繋がったらできるであろうことを列挙していく。わたしの妄想も入っているので、ほうほう…!くらいの心持ちで読んでもらえるとありがたい。


はじめに
大きな病院を受診するとき

診療情報提供書の提出は必要ないし、それを持っていないからといって5000円取られることもない。

情報はすべてかかりつけの医院から共有されているから、わざわざ紙媒体で持参する必要がない。

そして、初診料という概念もなくなるだろう。
だって、はじめての診察であっても情報はすでにあるのだから。

採血も、尿検査も、レントゲンも、MRIも、もう一回とらなくていい。
痛い思いや不快な思いを出来るだけ減らすことができる。


つぎに、お薬手帳。
これも不要になる。

・これまでに処方された薬
・合わなかった薬
・アレルギーや副作用が強く出た薬

すべてカルテでみることができる。

新しく処方する薬が
過去にトラブルを起こしていないか
今飲んでいる薬と飲み合わせが悪くないか

一発でわかる。

そして、処方された日時と残っている薬の量をみたら、その患者の内服コンプライアンスもわかる。どれだけ、きちんと飲めているかの評価もしやすい。

そして、一元管理しているからこそのメリットは、過剰内服を阻止できるところ。

整形外科と内科に通っている患者さんがいたとして、それぞれから出された薬を、もう一方の医師が把握していると思ったら大間違いだ。

みんな、自分の診療領域のことしか見ていない。
お薬手帳をぱらぱらとめくってみてくれる医師もいるが、全員ではない。

自分の処方する薬に影響がなければそれでいい。
他の医師が処方する薬に、興味なんてないのだ。

薬を飲む患者は、同じ人だというのに。

この視点がないと、利尿薬がそれぞれの医師から処方されており、過剰内服→脱水→緊急入院という事例を生み出してしまうこともある。


つづいて、保険証も不要になるかもしれない。
だってカルテをみたらわかるから。

ここからは、マイナンバーカードとの協働も必要になるけれど

使っている社会資源
障害者手帳や療育関連
介護保険における介護度

このあたりも、いちいちおたずねしなくていい。

ケアマネジャーも
訪問介護士も
訪問看護師も
リハビリをしてくれるOT・PTも

カルテをみたら状況がすぐにわかる。
わざわざ、ひとりずつに外線で電話連絡して情報共有しなくていい。


そのうち、拒絶反応の起こらないチップを皮下に埋め込んだりして。
それを読み取ったら、すべてのパーソナルデータがわかる。

家族も
血液型も
既往歴も
生まれた場所と医療機関も。

まるで母子手帳をそのまま一生使っていくようなイメージだ。
情報が一元化され整理されているだけで、コストカットできることはたくさんある。

その最たるものは、コミュニケーションコストだろう。
情報の共有に時間と手間がかかっていてはいけない。

私たちの使命は、その先にある医療やケアにあるのだから。



どんなことにも、リスクはあるもの。
けれども、メリットをきちんと把握できたら
その壁はこえていける。

わたしたちが高齢者になる頃には
こういう社会になっていてほしい。

やさしいインターネットが
世の中を包んでいることを願うばかりだ。

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