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都道府県別「高校受験」ご当地あるある

この記事を書いている2月は、日本の受験シーズンです。とくに高校受験は本番間近、あるいは真っ最中という人が多いのではないでしょうか?

高校受験の仕組みは、都道府県によって結構異なります。私立高校はともかく、公立高校であっても試験日や入試問題が都道府県ごとにバラバラです。推薦入試があったりなかったり、内申点の扱い方が違ったり、入試問題の満点が違ったりします。そこで、日本全国の入試制度を長年調査している私が、各都道府県にあるユニークな高校受験の仕組みをピックアップして紹介します。
当初は47都道府県全部紹介するつもりでしたが、記事が長すぎる&書くのに時間がかかり過ぎる懸念があり、一部の都道府県に厳選したことをご容赦ください。

※この記事は断りがない限り、2024年度入試での話です。入試制度は時折変更されることがあります。

※この記事では断りがない限り、「内申点」を「高校入試で評価対象になる、中学校における各教科の評定の数値」と定義します。



北海道

内申点をアルファベットのランクでよぶ

北海道民は、
「○○高校に入りたいなら、Cランクは欲しいわね~」
というような会話をします。これが通じるのは北海道だけです。
北海道の高校受験では、内申点を数値を高い順にAランク~Mランクに分類します。具体的には次のように計算します。

中学1年:9教科×5段階×2=90点満点
中学2年:9教科×5段階×2=90点満点
中学3年:9教科×5段階×3=135点満点
合計:315点満点

315~296点→Aランク
295~276点→Bランク
275~256点→Cランク

95~76点→Lランク
75~63点→Mランク

同じランクでも点数が高い方が当然有利なのですが、私立高校入試の募集要項に「出願条件:内申点がCランク以上」のように記載されていることもあり、内申点を点数そのものではなくアルファベットで語る傾向があります。

山形県

公立高校に隠れ男子校・隠れ女子校がある

山形県の公立高校は全て共学ということになっています。ところが現実には、山形南高校(山形市)には男子生徒しかいませんし、山形北高校普通科(山形市)と山形西高校(山形市)には女子生徒しかいません。暗黙の了解で性別が指定されているのです。ただし、山形県の公式サイトで公開されている山形県学校名鑑によれば、2019年から2021年にかけて山形南高校に女子生徒が1名在籍していました。
山形市内には公立高校普通科が5校あり、合格難易度順に並べると東、南、西、北、中央になるのですが、男子生徒は「南の次は中央」で不満に思わないかなとは個人的には思います。

ちなみに、茨城県の水戸第二高校と日立第二高校も、女子生徒しかいない共学の公立校です。

茨城県

公立中高一貫校がとても多い

茨城県は公立中高一貫校(併設型または中等教育学校。連携型は除く)が47都道府県の中で最も多いです。そう、東京都よりも多いのです。2022年までに13校の公立併設型中高一貫教育校・中等教育学校が開校しました。
具体的な学校名は、以下の教育委員会の資料をご参照ください。水戸第一高校や土浦第一高校といったいわゆるトップ校だけでなく、全県津々浦々に公立中高一貫校を置こうという強い意志が現れています。

埼玉県

「北辰テスト」が事実上の私立高校入試になっている

北辰テストは埼玉県ローカルの高校入試模試なので、「北辰テスト」という言葉が出た時点で埼玉県確定です。北辰テストは北辰図書という民間企業が実施しており、こうした模試を実施する企業は全国各地にあるので、これだけではユニークとは言えません。
北辰テストが他の高校入試模試と一線を画しているのは、模試の結果が直接的に私立高校入試の合否を左右することです。もはや、埼玉県内私立高校の統一高校入試と言っても過言ではありません。この記事では語り尽くせないので、詳しくは以下の記事または動画をご参照ください。

東京都

教育委員会が公立高校の"格付け"に積極的

東京都教育委員会は、公立高校の中で大学合格実績の見栄えが良い高校を「進学指導重点校」などのように指定しています。ここまでなら東京都以外の都道府県でも似たようなことをやっているのですが、東京都はさらに「進学指導特別推進校」「進学指導推進校」を指定しています。
ありていに言うと、進学指導重点校がいわゆるトップ校、進学指導特別推進校がいわゆる2番手校、進学指導推進校がいわゆる3番手校です。これらの高校間で大学合格実績の見栄えを競わせています。東京都は私立・国立の進学校がとても多くなっており、公立高校が相当な危機感を抱いたことから始まった取り組みだと思いますが、ここまで露骨に(教育産業のノリで)取り組んでいる自治体はほかにありません。
教育委員会の公式サイトで各高校の大学合格実績が公表されています(2022年度入試の場合はこちら)。明確な数値目標があったり、「GMARCHR」というユニークな大学群が登場したりしていて興味深いです。

神奈川県

私立高校入試が「書類選考」で完結する

日本の私立高校入試は、ブランド力の高い進学校を除くと内申点が重視される傾向があります(例外は埼玉県など)。極端な話、学力検査は受けるけれども内申点の時点で合格がほぼ決まっていたということもよくあります。
神奈川県の私立高校入試では「書類選考」と称して、学力検査も面接も行わずに、学校から提出された書類で選考する高校が目立ちます。近所にブランド力の高い進学校が多数あり、私立高校を何校も受験する人が多いため、そうした受験生の負担軽減という側面もあるのかもしれません。

富山県

県立高校入試の一般入学者選抜に"内申点無視枠"がある

日本の公立高校入試は学力検査と内申点の両方を基に選抜されるのが通例です。富山県も原則はそうなのですが、学力検査または調査書評定点が、募集定員(推薦入学者選抜での合格内定者を除く)の上位10%以内にある場合は、どちらか一方により判定することができると募集要項に明記されています。あくまで"することができる"ですが…。
つまり、学力検査の点数が志望者の中で圧倒的に高ければ、内申点に関わらず合格することもできるわけです(逆に、学力検査の点数に関わらず合格することもできます)。
ちなみに、東京都や神奈川県の公立高校入試にも"内申点無視枠"がありましたが、東京都では2016年度から、神奈川県では2024年度からなくなりました。

静岡県

「学調」が志望校決定を大きく左右する

静岡県の中学校では静岡県中学校学力診断検査(通称:学調)というテストを中学校内で毎年受験します。中学3年で受ける学調は事実上の県内統一高校入試模試となっており、この点数と内申点に基づいて進路指導が行われます。中学校の先生が関知できない外部模試とは異なり、点数や順位を完全に把握できるので、進路指導が他県に比べて強気です。このため、受験生は高校入試本番の対策だけでなく、学調対策をもする風潮があります。

愛知県

公立高校が「Aグループ」「Bグループ」で分けられている

愛知県の全日制公立高校入試では、一般選抜で一度に2校の高校を志願できます。第1志望校より合格難易度が低い2校目を同時に志願すれば、公立高校に合格できる可能性を高めることができます。
志願できる2校の組み合わせは無制限ではなく、Aグループ・Bグループから各1校と決まっています(尾張学区の普通科はさらに「1群」「2群」どちらかの中から選ばなければならない縛りもあります)。Aグループの高校、Bグループの高校は教育委員会によってあらかじめ指定されています。合格難易度や通学エリアなどを考慮すると、およそ定番の組み合わせが浮かび上がります。「Aグループから旭丘高校を選ぶなら、Bグループからは菊里高校」のように。
かつては、AグループとBグループで別々の学力検査を実施し、それぞれの得点を基に合否を出していましたが、2023年度入試から学力検査が一本化され、その点数を基にAグループとBグループ両方の合否判定をするようになりました。

京都府

いわゆる一般選抜のことを「中期選抜」という

京都府の公立高校入試は、前期選抜・中期選抜・後期選抜の三本立てになっています。後期選抜はいわゆる二次募集なので、一般選抜に相当するのは中期選抜です。後期選抜がいわゆる一般選抜に相当する県もあるので気を付けましょう。
なお、前期選抜で定員の大部分、あるいは100%を募集する学科が結構あります。京都府の中期選抜は内申点の比重が比較的重たい一方、とくに進学校の前期選抜は学力重視、場合によっては学校独自問題を課すこともあり、世間の人が想像する"推薦入試"とは一線を画しています。

大阪府

公立進学校志望者は英検2級取得がほぼ必須

大阪府の公立高校入試では「英語」の学力検査において、外部検定・資格を取得していると点数保証をしてくれる仕組みがあります。たとえば英検2級を持っていると満点の80%(72点)が保証されます。
大阪府の公立高校入試の一般選抜で課される学力検査問題は3種類の難易度(A問題・B問題・C問題)に分かれていて、進学校では軒並み最も難しいC問題を課します。ところが、C問題の「英語」は極めて難易度が高く、満点の80%以上を取れる受検者はあまりいないことが知られています。そこで「C問題に立ち向かうより、英検2級を取った方がマシ」という発想が生まれ、公立進学校志望者は入試前に軒並み、英検2級を取得しています。
念のため補足すると、英検2級の難易度は高校卒業程度とされています。
詳しくは以下の記事もご参照ください。

兵庫県

公立高校を2校まで志望でき、第1志望校には「加算点」がある

兵庫県の公立高校入試では、普通科と総合学科について一度に2校志望できる仕組みがあり、これを「複数志願選抜」と言います。このとき、第1志望に設定した高校の合格判定では20~30点(学区による)が加算され、有利に判定されます。学力検査250点+内申点250点=500点満点ですから、加算点の有無はかなり大きいです。
第2志望校に合格しようとすると、同じ高校を第1志望校にした人より加算点分多めに得点しなければなりません。第2志望校を確実に"滑り止め"にするなら、第1志望校に比べて合格難易度がだいぶ低い高校を第2志望校にする必要があります。このため「公立の第1志望校に落ちたら第2志望校には行かず、併願した私立高校に行こう」と考える受検生も珍しくありません。

岡山県

学力検査が1教科70点満点

日本では「テストと言えば100点満点」という刷り込みが強いですが、高校入試では各自の都合でバラエティ豊かな満点が設定されています。とは言え一番多いのが100点満点。次に多いのが50点満点ですが、岡山県だけは70点満点です(自校作成問題を課す岡山朝日高校を除く)。
SNSなどで、
「70点満点で○点だったんです~」
と言うと岡山県民だとバレてしまうので、気を付けましょう。

徳島県

「基礎学」という模試が事実上公立高校入試の一部になっている

徳島県の中学校で全県的に行われている校内模試に「基礎学力テスト」(通称:基礎学)があります。徳島県では、基礎学力テストの点数が中学校の進路指導で大いに活用されます。生徒が任意で受ける外部模試ではなく、徳島県の中学生が原則全員受ける統一テストの成績を、中学校の先生が把握できるからです。
また、徳島県の中学校で公立高校の志願先を決定することを、願書に印を押すことに由来して「調印」とよびます(徳島県でしか通じません)。基礎学力テストで満足できる点数を取って中学校の先生を納得させられれば、比較的容易に調印できます。徳島県の公立高校入試は、志願倍率を極力1倍に近づけるように先生方が調整する暗黙の了解があるので、調印さえできれば高確率で合格できます。このため地元の学習塾では、当日の学力検査対策よりも基礎学力テスト対策を重視するところもあるくらいです。

香川県

公立高校の定員を1人単位で調整する

公立高校の定員は、当該地域の中学校卒業者数などを鑑みて教育委員会が毎年調整しています。近年は少子化の影響を受けてほとんどの都道府県で毎年のように定員を減らしており、「次はどこが減らされるのか」と関係者は戦々恐々としています。
ほとんどの都道府県ではクラス単位(多くは40人単位)で定員を調整していますが、香川県に限っては1人単位で調整しています。
「去年は1クラス36人だったけど、今年は1クラス35人にします」
というように。そこまで細かく調整するだけの根拠があるのかは疑問ですが、一気に1クラス減らすよりは関係者にも受け入れられやすいかもしれません。

福岡県

学区が細かく、13学区もある

かつて、日本の公立高校普通科には広く学区制限がありましたが、21世紀に入ると緩和・撤廃する都道府県が相次ぎました。そうした流れにおいて、福岡県の13学区は県土の広さを考えると、47都道府県で最も厳しい学区制限を課している県と言えるでしょう。
何せ、同じ福岡市でも3つの学区に分けるという細かさ。ほかの学区制を設けている自治体にはある学区外枠もありません。学区制限の回避策として使われがちな理数科ですら、福岡県では「北九州地区」「福岡地区」「筑後地区」「筑豊地区」と制限を設定する徹底ぶりです。
もっとも、最近ではいくつかの公立高校で定員割れが深刻になっており、そうした高校を学区制限なしで第2志望にできる仕組みが2023年度入試から導入されました。

熊本県

学力検査の点数次第で内申点が補正される

「同じ内申点でも学力に幅がある」とはよく言われる話ですが、それへの対応策として、熊本県立高校入試では、学力検査を課す5教科の内申点を、学力検査の点数に応じて調整する仕組みを採用しています。
5教科の内申点は各教科ごとに、中学1年の5段階+中学2年の5段階+中学3年の5段階×2=20点満点です。仮に「数学」が3年間オール4で16点の受検者がいたとすると、学力検査(50点満点)の点数次第で「数学」の内申点は以下のように補正されます。

50~45点:18点(+2点)
44~39点:17点(+1点)
38~33点:16点(±0点)
32~27点:15点(-1点)
26~21点:14点(-2点)
20~15点:13点(-3点)
14~9点:12点(-4点)
8~3点:11点(-5点)
2~0点:10点(-6点)

このため、熊本県では学力検査のがんばり次第で内申点の不利を挽回しやすいように見えます。ただしこれは、学力検査が程よい得点分布になっていることが前提です。たとえば学力検査が著しく難しくて低得点帯に分布が固まってしまった場合、内申点も低得点に補正されてしまうので、学力検査でも内申点でも差が付かない、つまりその教科を評価する意味が薄れてしまう現象が発生します。

鹿児島県

実技教科の内申点の配点が5教科の10倍

鹿児島県公立高校の一般入学者選抜では、学力検査が90点×5教科=450点満点、内申点が450点満点です。内申点の内訳は以下の通りになります。

※中学3年の評定のみを評価
英数国理社:5段階×5×2=50点
実技4教科:5段階×4×20=400点

実技4教科の内申点を5教科の内申点より高い配点にする自治体はいくつかありますが、ここまで差をつけるのは鹿児島県だけです。
ところが地元の高校受験生向け学習塾で、実技4教科の内申点アップに注力しているという話は聞いたことがありません。見た目上、学力検査と内申点の満点は同じではあるものの、実態としては(少なくとも塾がターゲットとするような進学校では)学力検査を重視していることが予想されます。

沖縄県

高校受験生が「席次」を気にする

沖縄県では、中学校での定期テストの学年順位のことを「席次」と言います。定期テストの学年順位が出るのは沖縄県に限りませんが、沖縄県ではこの席次にこだわる受験生が結構います。「席次がいくつ上がった!」というのを売りにする地元の塾が目立ちます。
念のため補足すると、沖縄県の高校入試では席次が何番だったかは一切関係ありません。とは言え、中学生にとって「校内テストで何位だった」という事実はわかりやすいので、自分の中学校で席次が何位だったから○○高校が狙えるという発想に至るのは仕方がない側面もあります。業者による高校入試模試もあるんですけどね。

受験事情は最強のご当地ネタ

日本の受験事情、とくに高校受験の仕組みは都道府県によって千差万別で、よその都道府県に行くと全く常識が通用しないことがしばしばです。一方、高校受験は21世紀の日本では大部分の日本在住者にとっての共通体験です(代わりに中学受験をしている人もそこそこいますが)。
ご当地ネタでおしゃべりするときに、食べ物や観光名所の話をするのもいいですが、受験事情はある意味で地元民の生活により直結した話題ではないでしょうか。

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