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朝森久弥流・ホンネの高校選び4「高校での学習スタイル」

誰でも自分に合った高校が選べる!

高校受験事情に異常に詳しい朝森久弥が、日本の高校受験を考えている中学生やその保護者の方に向けて高校選びの基本を語ります。

第3回では「高校でどんなことを学ぶのか」について話をしました。

高校で学ぶ内容にはすべての高校で共通するものと、高校によって別々のものがあるのでしたね(ただし、共通するものでも高校によって難易度が異なります)。
高校で学ぶ内容がだいたいわかったところで、第4回ではそれをどうやって学ぶのか、つまり「高校での学習スタイル」についてお話ししたいと思います。

全日制・定時制・通信制って何?

日本の高校の学習スタイルを表すことばに「課程」というものがあります。日本の高校の課程には「全日制」「定時制」「通信制」の3種類があります。
複数の課程を持つ高校もありますが、基本的には高校に進学するときに、どれかひとつの課程を選ぶことになります。

全日制

週5日以上通学して、朝から夕方まで教室で授業を受けます。平日に1日6時間以上の授業を受けるのが一般的で、原則として3年で卒業します。
日本の中学校のほとんども、全日制と同様の学習スタイルです。
全日制の課程がある高校は、全国に約4600校あります(2023年5月時点)。

定時制

週5日以上通学するのは全日制と同じですが、1日に受ける授業が4時間程度と少なめになります。かつての日本では中学校を卒業してすぐに就職する人が多かったので、昼間に仕事をする人が高校に通えるように、夜間に授業をする定時制が多くありました。最近は、朝からあるいは昼から通う定時制が増えています
1日4時間授業の場合、高校を卒業するには4年かかりますが、1日に受ける授業を増やすことで3年で卒業できる定時制もあります。
定時制の課程がある高校は、全国に約600校あります(2023年5月時点)。

通信制

毎日通学する必要がなく、授業を受ける代わりにレポートを提出して学習します。全く高校に行かなくてよいわけではなく、最低でも年に数回は対面で授業(スクーリング)を受ける必要があります。卒業には最低3年かかります。
週2~3日通学できたり、週5日通学できたりする通信制の高校もあります。通信制は卒業するために必要な学習量を最低限にしているので、週5日通学する場合でも全日制に比べて授業が少ないことが多いです。
通信制の課程がある高校は、全国に約300校あります(2023年5月時点)。

学年制と単位制って何?

高校の公式サイトやパンフレットなどに「学年制」や「単位制」と書かれていることがあります。これらも高校の学習スタイルを表すことばです。

学年制や単位制について理解するために、まず「単位」について説明しましょう。
単位とは、科目ごとの学習量のことです。日本の高校では、週に1回50分の授業を1年間受けるのに必要な学習量を1単位と考えるのが一般的です。たとえば、「数学Ⅰ」の授業(1回50分)が1年間を通して週に3回あるならば、「数学Ⅰ」は3単位の科目と言えます。

正確には、1回50分の授業を35回受けるのに必要な学習量を1単位と計算します。1年は約52週ですが、長期休暇などで授業がない週もあるため、週に1回の授業を1年間受けると約35回の授業を受けることになります。
※授業が1回50分でない高校は異なる計算をすることがあります

高校で学習する科目の学習成果を学校に認められることで、単位を修得できます。高校の科目も中学校と同様に5段階(1~5)で評定(成績)が付きますが、基本的には2以上の評定が付けば単位を修得できます。たとえば、「数学Ⅰ」の授業(1回50分)が1年間を通して週3回ある学年で、「数学Ⅰ」の学年を通しての評定が2以上なら、3単位を修得できたことになります。
日本の高校を卒業するには、それぞれの高校が定めた数以上の単位を修得する必要があります。90単位修得しないと卒業できない高校もあれば、74単位修得すれば卒業できる高校もあります。

学校教育法施行規則第96条で、高校卒業を認める上で修得が必要な単位数は最低74単位以上にしなければならないと定められています。

さて、学年制の高校にしろ単位制の高校にしろ、単位を修得しないと卒業できないことは同じです。
学年制の高校では、各学年で単位を修得しなければならない科目が決まっており、その学年で単位を修得できなかった科目があれば、もう一度同じ学年の科目の授業を全て受け直さなくてはいけません。
一方、単位制の高校では、単位を修得した科目の授業を受け直す必要はありません。もし単位を修得できなかった科目があった場合は、その科目の授業だけを受け直せばよいわけです。

上記の特徴を根拠に「学年制の高校では留年があるが、単位制の高校では留年がない」と言われることがあります。ただ、単位制の高校でも3年間で高校が定めた数以上の単位が修得できなければ、卒業できずに4年目の高校生活に突入するので、実質留年するのと同じです。
なお、日本の大学も基本的に単位制を採用しています。

全日制の高校では学年制を採用している場合が多いですが、単位制を採用している場合もあります。とくに総合学科では単位制を採用している場合が多いです。一般に全日制の高校で単位制を採用している場合は、学年制を採用している場合に比べて選択科目が多いという特徴があります。

定時制・通信制の高校では単位制を採用している場合が多いです。定時制・通信制の高校には、他の高校から転入する(転校してくる)生徒が全日制の高校に比べて多い傾向があります。
高校に転入するとき、転入する前の高校で修得済みの単位を引き継ぐことで、転入後の高校で同じ科目の授業を受け直す必要がなくなる場合があるのですが、単位制は学年制に比べるとこの引継ぎがしやすくなります。また、定時制・通信制の高校は卒業に必要な単位数を法令ギリギリの74単位に設定していることが多いので、「うちの高校に転入すれば単位が引き継ぎやすいし、高校卒業もしやすいよ!」と宣伝していることがよくあります。

どうやって選ぶ?

すでに高校に通っていて単位が修得できなかったり転入を考えたりしている人はともかく、これから初めて高校に通う人は、学年制と単位制の違いにこだわる必要はありません。学年制を採用していても選択科目が多い高校はあります。高校を個別に調べて、自分にとって都合が良い科目の授業が受けられるかどうかを見極めることが大切です。ただ、選択科目は希望者が少ないと授業が行われないことがあります。高校のパンフレットに載っていても、毎年希望者が少ないので実質授業がないのと同じ…ということもあり得るので、注意しましょう。

一方、全日制・定時制・通信制の違いについてはきちんと考えた上で高校を選んだ方がよいです。しかし「全日制だから必ずこうだ」「通信制なのでこうに違いない」というようなことはないので、個別の高校の状況をよく調べる必要があります。調べるときのポイントは大きく分けて3つ。
「いつ学ぶ」「何を学ぶ」「だれと学ぶ」です。

いつ学ぶ

先に説明した通り、全日制・定時制・通信制では学校に行くタイミングが異なります。多くの中学校と同じように、平日は毎日朝から夕方まで高校に通いたい人は全日制が選択肢に入るでしょう。ただし、定時制や通信制でも同じようなスケジュールで通える場合があります。
ひとくちに朝から通うと言っても、何時までに登校しなければならないかには注意が必要です。8時15分くらいという高校が多いですが、部活動の朝練や"0時間目の授業"(九州地方では朝課外とよぶことが多い)があったりすると、7時30分くらいまでに登校しなければならない場合があります。少ないですが、9時くらいまでに登校すればよい高校もあります。

何らかの理由で平日の毎日朝から夕方まで高校に通うのは難しい人、あるいは平日の昼間に高校に通う以外のことがしたい人は、定時制・通信制が選択肢に入るでしょう。とくに通信制であれば1週間のほとんどを学校以外の場所で過ごすこともできますが、授業を受ける代わりにレポートを提出するため、レポートを作成する時間を確保しなければなりません。
全日制・定時制であれば毎日授業があって学習習慣を維持しやすいですが、通信制では「この時間帯はレポートを作成する」と自分で決める必要があります。それだけ、自己管理能力が求められるということです。

定時制・通信制を検討する場合は、3年で卒業できるか、それとも卒業に4年かかるかも確認しましょう。たとえば1日4時間授業×週5日の場合、1年間で修得できるのは20単位なので、高校卒業に最低必要な74単位を修得するには4年かかります。

何を学ぶ

全日制・定時制・通信制のいずれにも、普通科もあれば専門学科もあります。しいて言えば、通信制は普通科が多いです。工業科や農業科などの専門学科では実習が重視されるので、学校にある程度通わないと学びにくいことが背景にあると考えます。

高校で学習する科目の難易度は、全日制では難しい高校もあれば易しい高校もあります。合格難易度が高い高校ほど、科目の難易度も難しくなる傾向があります。
定時制・通信制ではふつう、科目の難易度はとても易しいです。仮に科目の難易度を難しい順に「松」「竹」「梅」とすると、定時制・通信制では95%が「梅」と言って差し支えありません。「梅」が具体的にどれくらい易しいかというと、中学校の定期テストで平均点が取れなかった人でも付いていけるレベルです。授業は小学校・中学校の復習から始まるでしょう。

私が唯一知っている例外は、東京都文京区にある中央大学高校です。朝から授業がある定時制ですが、合格難易度はとても高く、卒業生の大半が中央大学に進学します。科目の難易度も「松」のはずです。

定時制・通信制から大学受験を目指す場合は、高校で単位を修得するだけではない努力が必要です。全日制でも塾や予備校に通っている人は大勢いますが、高校から受けられるサポートの量に差があるので、そこをどうやって自分で補うかを考えておきましょう。

ちなみに、通信制の高校に通う生徒向けの学習塾のことをサポート校と言います。サポート校は生徒が通信制の高校を卒業できるようにサポートするのが主な役割で、学校の科目以外の専門分野を学べるところもあります。サポート校は特定の通信制の高校と提携していることがあり、サポート校と通信制の高校に同時に"入学"することがよくありますが、あくまで高校の方の卒業条件を満たさないと高校卒業資格は得られません。

だれと学ぶ

全日制の高校の生徒は、15~18歳の人がほとんどです。定時制・通信制の高校も若者が多いですが、もっと年齢が高い生徒が珍しくありません。平均すると、定時制・通信制の生徒の1~2割が20代以上のようです。70代以上のおじいさん・おばあさんが同じ学校に通っていることもあり得ます。とは言え、定時制・通信制でも昼間に授業がある場合は若い生徒が多い傾向があります。

当然ですが、高校の生徒はその高校の入学試験に合格した人しかいません。このため、入学試験の合格難易度によって生徒の顔ぶれが変わってきます。ただし、私が書いた記事「偏差値の正しい使い方」で説明したように、それぞれの高校には入学試験にギリギリ合格した程度の学力を持つ生徒ばかりではなく、もっと高い学力を持った生徒もいます。

定時制・通信制の高校の合格難易度は低い傾向があります。定員よりも志願者数が少ない、つまり定員割れの状態であることが多いからです。

正確に言うと、定時制・通信制では合格難易度を低くするためにわざと定員を多めに設定して、定員割れの状態を作り出しています(とくに公立では)。ただし、定員割れでも必ず全員合格するわけではなく、高校の基準に達しなければ不合格になる場合もあります。

ただし、定時制でも人気の高校やコースは志願者数が定員を超えることがあり、その場合は全日制の高校よりも合格難易度が高くなることもあります。近年は、全日制の高校でも定員割れが珍しくありませんから…。
通信制の高校にも定員はあるもののめったにオーバーしてこなかったので、正直に言うと、ほぼ誰でも合格する状況でした。ところが、ここ数年で通信制の高校に通う生徒が増えているので、一概には言えません。

定時制・通信制の高校は、中学校までに不登校を経験した生徒が多いです。不登校でも中学校は卒業できても、全日制の高校は単位を修得できずに卒業できないので、定時制・通信制を選ぶ人が多いのです。もっとも、定時制・通信制でもある程度は通学しなければなりませんが…。
こうした現状を受けて、近年では不登校経験者へのサポートが手厚い高校が全国的に増えつつあります。東京都で言えばチャレンジスクール(定時制)がこれにあたりますね。

地域によっては、不登校を経験していてもその事情を考慮して選抜してくれる(欠席日数には目をつぶってくれる)制度がある全日制の高校もあります。もっとも、入学後は不登校にならずに通うことが前提になります。

どこの高校にもいろいろな生徒がいます。ただ、高校は大勢の人を集めて教育する場である以上、そこに通う生徒の多くが持つニーズに合わせて教育をする傾向があることはおさえておきましょう。


この記事では、「全日制」「定時制」「通信制」、さらに「学年制」「単位制」について率直に説明をしました。これらの名称は学習スタイルの目安を示すもので、絶対的なものではありません。自分が行きたい高校については、名称にとらわれず、実際にはどうなっているのかまできちんと調べるようにしましょう。

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