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ウルムチでウイグル語のハンコを作る 1987.9

ボゴダ峰登山の翌朝、ぐっすりと寝たので気持ちのよい目覚めだった。上海上陸以来、ここまでの旅で味わえなかった高原の朝。昨夜、パオで二人きりで寝た女子大生もほぼ同じタイミングで起きた。

彼女とは同じ歳だし、わざわざ夏休み旅行に(バリバリの社会主義時代の)中国を選ぶくらいなので、気が合わないわけがない。小柄で可愛い女子だったが、昨夜は二人とも登山であまりに疲れてしまい、幸いにも「若気の過ち」にはいたらなかった。

彼女とは住所と電話番号を交換してウルムチで別れた。その後文通を重ねて、出会いから30年以上経過したけれど、今でも細い糸でつながっている。

ウルムチの街に戻り、ここからは西から東へ折返し、敦煌を目指すことにした。

地図を見ると、新疆ウイグル自治区の東端、敦煌とウルムチの間にハミ(哈密)という町がある。ハミまではウルムチから蘭新線の特急で11時間ほど。『地球の歩き方』を確認すると、一応、外国人開放都市ではあった。ただ、ハミの街のガイドは載っていない。期待と不安を感じつつ、ハミに立ち寄ることにした。

ウルムチは蘭新線の始発駅なので、翌日の座席指定の硬座(二等座席)の切符は比較的手に入れやすかった。駅の切符売り場に15分ほど並んで買うことができた。

ウルムチ滞在最終日で記憶に残っているのは、街角でハンコ(印章)を作ったこと。自由市場を歩いていると、入口近くに小さなテーブルと椅子を置いて、漢族の男性が篆刻をしていた。ハンコ職人だった。小さな印刀で長方体の石を彫って印鑑を作っている。

感心しながら器用な手先を眺めていると、「ぜひ君も作れ!」と彼は中国語とジェスチャーで示す。せっかくなので、自分のお土産に一つ彫ってもらうことにした。

最初に素材の石を選ぶ。白・茶色・朱色といろんな石があり、先端は十二支の動物が彫られている。僕はトグロを巻いたヘビをあしらった灰色の石を選んだ。

次にメモ用紙に姓名を書く。すると、男性は姓名を鏡像(左右逆)に彫り進めていき、ものの数分で印章ができあがった。せっかくなので「ウイグル語の印鑑がいい」とリクエストすると、すぐ近くにいたウイグル人がやっているシシカバブの屋台に出かけていき、僕の姓名をウイグル語に翻訳してもらって帰ってきた。

先ほど彫った部分を研磨ペーパーでまっさらに平らにして、再び彫り始めた。できあがったハンコで実際に捺印してみると、角張ったアラビア文字が並んだ。ハンコは何やら中近東で発掘されたアラビアの文物のように見えた。

ウイグル語のハンコ。1987年の中国旅行から持ち帰り、今でも手元にあるモノの一つだ。

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