かげふみ6

「信じてもらえたかしら?」
私は狼狽して口をあんぐり開けたまま、言葉がでない。
「びっくりさせてしまったみたいね。あっちの世界に飛んだ私は、この世界と、同じような学校、そして、家もあったわ。だけど、そこに住んでいたのは、私の家族にそっくりのアンドロイドだった。つまり、ロボット工学が、ものすごく発達した擬似世界。
私は、その世界に生きる希望を見出した。私の他にも時空を超えて飛んできた人がたくさんいたから。そうして、擬似世界の擬似家族と生活し、学校に通った。ところがよ、ある時、街を歩く度に私は色んな人からジロジロ見られるようになった。 私を見てヒソヒソ話す声が聞こえてきたの!」

そこで彼女は、大きなため息をついた。「あの人影が無いね!きっと、別世界の人だよ。影を置いてきちゃったんだね。って。だから、私は、自分の影の部分を取りに戻ったの。影がないと何とも異常な視線で見られる。だから、できるだけ日の当たらない場所を選んで行動した。あの飛び降りた日から16年。私は、もう30になる。」

彼女は、少し微笑んだ。
「それでも、私には恋人が出来た。彼も時空を超えてきた普通の人間だった。影のない私でもいいと思う言ってくれ、求婚されたんだ。でも影のない私は、どうしても受け入れることが出来なかった。ただ一度だけこちらの世界に戻れる。そんなルールがあることを知ったの。」

「彼がいいって言っても、もし彼と私の間に子供が出来たら、その子供は、きっと、イジメにあう。私のイジメは自分自身の見栄が原因だったから、自業自得だけど。産まれるかもしれない子供が、影のない私が原因で、イジメにあうなんて耐えられないでしょ?」

「だから、時空を超えてきたって!」 何とも信じられない事だったが、彼女に影がないのは事実だった。
「ところで、こちらに残された有花ちゃんは、身体がなかったって話ですかね?しかし、お葬式の時も火葬場に入っていく時もちゃんと、体がありましたよ。何か矛盾だらけのようですけど。」

「これが不思議なのよ。こちらに残された人間は、そのままの状態なのよ。この世界の私は、ずっと家の中に閉じこもっていたでしょ!だから、私の影を取りに戻ったって訳。それが少し時間がズレて、死んだ後に来てしまった。」

物悲しいおとぎ話を聞いているようだった。

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