かげふみ8

「幼なじみ。」
私は躊躇った気持ちを必死に隠し、笑顔を作って見せる。しかし、彼女にはそんな私の気持ちは、すぐに見破られているようだった。

「今、何を今更って思ってるでしょ?そうよね!ただの、幼なじみ。ひととき同じ時間を過ごしただけだものね。あれ以来ほとんど話したこともなかった。私は少し高飛車になってたのかもしれない。亜子ちゃんとは違うのよってね。」
彼女は、ため息混じりに空を見上げた。
「ただ中学の時家を訪ねて来てくれた時は、嬉しかったよ。本当はあの時亜子ちゃんに抱きついて泣きたかった。でも、あの時の私は、不潔で不健全な心で、素直にはなれなかった。」

そこで私は、あれ?と疑問にぶち当たった。
「あのぉー。あの時は、今いるあなたは、別の世界で生きていたんですよね。何故私と、亜子ちゃんの現世界のことを知ってるんですか?向こうとこちらは繋がっていた訳ではないんでしょ?」
彼女は、真顔で私を見つめた。
「鋭いところ突くわね。そうね。あちらの世界とこちらの世界は、繋がってないわ。でも、情報としては、入ってくるの。私は死んだ訳ではなかったから。」
「でも、やっぱり矛盾してませんか?有花ちゃん達家族が、死んだという情報も、もう随分前に分かってたはずでしょ?」
私は彼女の話を聞けば聞くほど内容の辻褄が合わないと感じた。
「だから、少し時間に誤作動が起きたって言ってるでしょ!あちらの世界から、こちらの世界に移動出来るのは
一度きり。そのルールを破ってしまうと、どちらの世界にも行けず時空を彷徨う事になるの。信じられないのは、仕方ないけど、私の影がないのは一目瞭然でしょ!お願い。お願いします。少し力になってください。」

縋るような彼女に対して、昔、何も出来なかった自分自身に負い目を感じ、何も言えなくなった。

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今はまだ修行中の身ですが、いつの日か本にしたいという夢を持っています。まだまだ未熟な文章ですがサポートして頂けたら嬉しいです。