イグアナ12

優しいコンソメの匂いの正体は、野菜たっぷりのポトフだった。それにもう1品…フライパンで、豆腐を軽く焼き、その上に刻んだ大葉と大根おろを乗せ、その上に溶かしバターと醤油をサッとかけ蓋をして数分、これはまたバターと醤油の焦げた香りが空腹状態の私の鼻を刺激する。

みどりさんがケージからじっと見つめる。「みどりさんもお腹空いたよね。」みどりさん用に野菜を1口大の切り、ケージに持っていく。がぶがぶ飲みこむように野菜を食べるみどりさんに、クスッと笑う。「明日はケージの掃除をしようね!」円なひとみがこちらをじっと見つめる。

テーブルに料理を並べながら、
「すっかり優子さんに懐いているなぁ。何だかジェラシー感じちゃう!」
「そんな事ないと思う。長年一緒に居たのは真一郎さんだもん、私を見る目と全然違うよ!」
そうしてるうちに、真一郎は、手際よく夕飯の用意を済ませる。
「今日は、寒かったから、暖かいものにしたよ。さぁ冷めないうちに食べよう!」
二人向かい合いテーブルに着く。
「じゃ、いただきます!」
私は、ポトフをひと口食べる。何だか涙がスーッと流れた。口いっぱいに優しい味が広がる。母のような味だった。1度涙が流れ出すと、もうとめどなく、そのうち鼻水まで出て、それをみて、驚いた真一郎は、私のの横に座り、ティッシュで涙を拭ってくれた。
「どうしたの?帰る途中から様子は変だったけど、そう言えば会社辞めたって、どういうこと?」最初は、静かに涙を流すだけだったが、もう歯止めが効かなくなった。泣きじゃくりながら、今日の出来事を真一郎に話す。

真一郎は、今日の一部始終を聞いたあと、静かに言った。

「優子さんは、間違ってない!これはパワハラじゃないか!真面目で仕事熱心でまっすぐな優子さんをそんなふうに言うのは可笑しい。浮いてるから?媚を売れないから?そんな理由で人を排除する会社。辞めて正解だったね。」
しかし、次第に真一郎は、顔を赤くして、激怒していた。「優子さんを手放しこと後悔させてやろう。」肩を優しく抱いて囁いた。私はまたもや涙を流す。
泣きじゃくりながら、何度も頷いていた。真一郎は、肩から手を離さなかった。手の温もりを感じながら、
「真一郎さん、あなたがいてくれて良かった。私一人だったら、どうなっていたか!本当にありがとう!真一郎さん、もし嫌じゃなかったら、もう少しだけ、このまま居させて」

真一郎は、頷いた。さりげなく肩を抱き寄せる。

静かな優しい時間が流れた。

ケージの中からみどりさんが見ている。邪魔はしないよ!と円なひとみが訴える。

「ご飯冷めちゃったね!気を取り直して、食べよう」
落ち着いた私をみて、また向かい合い座った。
ポトフはおかわりして、心がほっこりした。
「優子さん、まだお腹余裕ある?今日ハローワークで紹介してもらった会社の近くにケーキ屋があってね、美味しそうなザッハトルテが目に入って買ってきた。会社の面接もうけて来たんだ。清掃業者だけど、僕高卒だし、職種を選んでられない。会社も人手不足だったから、即採用されちゃった。」
「それって、おめでとうって言えばいいのかなぁ。」
私はちょっと不安な予感が過ぎる。
が、真一郎は、「素直におめでとうって言ってよ」ケーキの箱を持って、戻ってくる。箱を開けると、ザッハトルテが2つ並んでいた。
「美味しそう!コーヒー入れるね!」
交代に私が、立ち上がった。

今はまだ修行中の身ですが、いつの日か本にしたいという夢を持っています。まだまだ未熟な文章ですがサポートして頂けたら嬉しいです。