かげふみ9

私は、彼女の気持ちを了承した。疑念が消えたという訳では無い。しかし、立場が逆だったら、私もきっと縋る思いで懇願するに違いない。

「とりあえず、何をすればいいんですか?お願いを聞くかどうか、それから決める。納得出来なかったら、ことわります。それでも良ければ、話してみてください。」

彼女には負い目を感じていたが、やはり何か大変な事に巻き込まれるのではないかと不安でもあった。彼女は、微笑んだ。

「分かったわ。さっきも言ったように人の影は、人の影でしか作れないの。それも生きた人の影を使わないといけない。でも、その人影を全て吸い取るってことではないの。ほんの少しだけあれば、培養して作れる。あちらの世界で私が研究を重ねて作ったもの。」

「あのぉー。そんなもの、ここにはないですよね。一体どうやって影を吸い取るというのですか?なんだか怖いです。」

また少し西に日が傾く。私の影だけが比例して伸びていく。

「亜子ちゃんが怖がるのも無理ないと思う。SFっぽい漫画見たいだものね。」
「あのね。ただ少し、ほんの少しだけあなたの影を踏ませてもらうだけでいいの。昔やったかげふみみたいな人の体に乗っかるというんじゃないの。影の端っこを、私の履いてる靴で少し踏ませてもらうだけ。」
私は彼女の足元を見た。少し踵の尖ったハイヒールだった。
「少しこの踵の部分であなたの影を踏ませてもらうだけ。5ミリ以内の影を吸い取るだけ。あなたの影自体にそんなに変化はないはずよ。」

かげふみ…またまた幼き日の思い出が蘇る。

「体自体に不調とかないんですよね?」
念には念。私はバレー部の主要選手なのだ。地方のあまり知られていない大学であっても、チームに迷惑はかけられない。

「大丈夫!体に負担はないから。約束する!」
私は、彼女の瞳の奥まで見つめる。

「分かった!あなたの言うことを信じます。」

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今はまだ修行中の身ですが、いつの日か本にしたいという夢を持っています。まだまだ未熟な文章ですがサポートして頂けたら嬉しいです。