イグアナ16

助手席に私を乗せ、吉田は、制限速度ギリギリまでスピードをだし、アクセルを踏む。
「ごめんね。折角来てくれたのに、大変な事にまきこんで。」
「身内の非常時だよ。そんなふうに他人みたいなこと言いっこなしだよ。優子さんこそ、大丈夫か?顔色悪いぞ!」確かに気が動転していた。立ちくらみになったのを隠していたが吉田には、見破られていたようだ。
「大丈夫だよ。ちょっと動悸が早くなっただけ。やっぱり仕事無理してたのね。もっと早く真一郎さんの体調に気づいていれば良かった。」
「とりあえず病院に行ってみないと何もわからない。優子さん、しっかりしろよ!」私は何度も頷いた。

病院の入り口に車を着けてもらう。
「とりあえず、俺は優子さんの家に戻ってるから、何かあったらすぐ連絡くれよな。」
「ありがとう。お母さんの事お願いね。それと出来ればみどりさんに、リンゴを小さく切ってあげて。」

吉田は、クラクションをひとつ鳴らしサーッと去っていった。

病院の処置室のベッドに、真一郎が寝かされていた。腕には点滴の管が繋がられていた。
真一郎に、よろうとすると、看護師に呼び止められた。
「中村さんの御家族様でしょうか?」
返事に少し戸惑ったが、
「はい。」と答えた。看護師は、笑顔で、「先生からお話があるのでこちらへどうぞ。」診察室に通された。
椅子に座るように言われ、腰を下ろした。先生は、穏やかに話した。

「熱が高かったので、一応PCR検査とインフルエンザ検査をしました。結果インフルエンザA型でした。体力もかなり限界なようなので2、3日入院されることをおすすめします。」

「分かりました。よろしくお願いします。」立ち上がり処置室に行こうとすると、先生に呼び止められた。
「念のために、奥さんもはつねつや、倦怠感があったらすぐ連絡ください。インフルエンザ早く治療すれば早く良くなりますので。」看護師から、マスクをてわたされ、あまり顔を近づけないように注意をうけ、ようやく真一郎の顔を見ることができた。
穏やかに眠る真一郎を見、ホットして緊張の糸が切れる。
私に気がつくと真一郎は、眩しそうに目を開けた。
「優子さん、ごめんね。折角の誕生日にこんなことになって!」

「誕生日なんてどうでもいい!本当に心配したんだからね。最悪のことまで考えちゃった。」

私はもうとめどなく涙が流れた。

「僕はそう簡単に死なないよ。宝物が2つもあるんだもん。」
「2つ?」
「そう、 優子さんとみどりさん。 」私はクスッと笑う。
「真一郎にとっては、私とみどりさんは同等なのね。」

真一郎は凄く慌てた様子だった。バツが悪そうに笑った後、
「ごめん。あっ、実は今日渡そうと思って密かにキッチンの食器棚の奥にプレゼント隠して置いたんだ。家に帰ったら探してみて!」

入院の手続きをし、真一郎は病棟へ運ばれて行った。感染防止のため、見舞いはできない決まりになっていた。

私はそこで真一郎と別れ、母に連絡を入れる。

数十分後。
再び、吉田が、迎えに来てくれた。
「良かったなぁ。ただのインフルエンザで。最近コロナの第二波が来たとニュースになってたから、心配したんだよ。貴子さんも心配してた。」
「うん?貴子さん?」
「君のお母さんだよ。」そうだった。うちの母の名前は、吉田 貴子だった。「お母さんの事、貴子さんってよんでるんだ。貴子って呼び捨てにしないんだ。」吉田は、恥ずかしそうに笑う。「俺案外シャイなんだ。貴子なんて呼べない。それにもうすぐ子供が産まれるから、今度はママ、いや、お母さんって呼ぶかなぁ。」
「ところで優子さんだって、さん付けじゃん。2人ってもうやっちゃった仲でしょ?」
「あはは、まだ何も無いよ!ただ告られたけれど。」
「そうなの?優子さん、かなり大切に思われてるね。これで俺も安心だ」もうとめどなく笑いが止まらない。

「今だから言うけどさ、高校の時、俺、優子さんが好きだったんだよ。繊細な所が真面目で一生懸命なところも。まぁ今は、貴子さん一筋だけどさ。真一郎さんの事離すなよ!」

家に帰り着くと、母がソワソワとしていた。みどりさんがケージから母を見つめていた。

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