かげふみ11

光の粒子がふわふわと天上に向かっていく。その瞬間、私の耳に声が飛び込んできた。
『亜子ちゃん、私はもう一度、亜子ちゃんと話したかった。』それは、もう灰になってしまったはずの有花ちゃんの声。私は自分自身がおかしくなったのではないかと耳に手を押し当てる。その姿を見た父、いや、アンドロイド4986が私の隣で囁いた。
「亜子、有花ちゃんはもう居ない。しかし、まだ魂はこの世界にいるあと数分の間な。だから、亜子、有花ちゃんに言いたい事があるのなら今だ。」
私は父の顔を見つめる。父は何度もうなづいて見せた。

「有花ちゃん私もあなたに謝らなきゃね。学校で凄く辛い思いしてるの知ってたのに、自分を守るために、見て見ぬふりをしてた。本当にごめんね。」
私の目から泉が湧くように涙が溢れ出した。

『泣かないで、私ね。ひと月前、勇気をだして引きこもりをやめようと部屋から出たの。父や母は、何年も見ないうちにやつれていた。けれど涙を流して抱きしめてくれた。何年もお風呂に入ってない私は、その日、暖かい湯船に久しぶりに浸かった。幸福感をかみ締めて、夕食の席に座った。母は
涙を流しながら、ビーフシチューを私の前に置いた。ビーフシチューは母の得意料理。私の好物だった。「いただきます。」スプーンで掬って香りを嗅いだら大粒の涙が溢れ出した。その後くちにいれた。母の愛の味だった。まさか毒が入っているとは思いもしなかったけれど、精神的にうちの家族は限界に達してたんだと思う。もしまた、生まれ変われるのならまた、この家族になりたい。父も母も死んだけどね。亜子ちゃんもしまた今度出会えたらずっと仲良くしてね。』

光の粒子は煙突の煙と共に消滅した。
「有花ちゃん!私は今の世界を精一杯生きていくよ!また、いつか会えるといいね。」

最後の私の声が届いたかどうかは分からない。

時間はゆっくり流れ空は、茜色になっていた。

「私の役目は終わったのかもしれない。」父、いや、アンドロイド4986は呟いた。

私はアンドロイドだという父に向き合って、まじまじと、顔を見つめる。

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今はまだ修行中の身ですが、いつの日か本にしたいという夢を持っています。まだまだ未熟な文章ですがサポートして頂けたら嬉しいです。