イグアナ22
教会の鐘が鳴り響く。
純白の花嫁と花婿は腕を組んで、教会の外に出てくる。
街の小高い丘の上の教会。
小さな町なので、みんな顔見知り。ライスシャワーを浴びながら、笑顔で通り抜ける。
実は、母と吉田は、ここに居ない。
吉田の車がエンストを起こし来る途中に止まってしまったのだ。
すぐ、真一郎に連絡する。
「結婚式延期にしよう。」という提案を私は断った。
「私は母の結婚式でバージンロード一緒に歩いたから。もソレで充分だよ。折角今日のために町の皆さんが集まってくれたんだから予定通り結婚式を挙げましょう!」
人生には、ハプニングが数多く起こる。その度に一喜一憂する。母の残念そうな顔が浮かんだ。
「優子さんごめんね!ポンコツ車、早く買い換えないとな。」
タクシーに乗り換えて、教会に急いだ。母も行くと言ったが、帰りのことが心配なので、吉田と共にその場でJISが来るのを待つこととなった。
穏やかな新緑の日、今日は、店の定休日。
みどりさんにハーネスをつけて、海岸沿いの道路を散歩する。母の出産も間近だ。私の左側には、真一郎。
「みどりさんも散歩が好きなのね。こちらはそんなに交通量も多くないし、散歩してても気持ちいいね。」道端にベチュニアが咲いている。どこか庭から種がとんできたのだろう。自然のいのちはいつも強く、逞しい。
その自然の営みの中で、人間の歴史なんてほんのちっぽけなものだ。いくら科学が進歩しようとも、大自然には敵わない。しかし、そんな人間にあっても、新たな命の神秘は、いつの時代でも慈愛に充ちている。
未だに、コロナウイルスは、無くならない。毎年インフルエンザも流行する。
海からの潮風は、心地よくそんな恐怖感を薄めてくれた。
カフェでの修行は、とても厳しい。けれど、愛するもの達と共に暮らし、共にはたらき、私は自然体に居るのが当たり前になっていった。
要らぬ気遣いもせず。楽しけば
わらい、感動すれば涙する。ハーネスを持ちながら、真一郎の横顔に囁く。
「私さ、赤ちゃんできたみたいなんだ。」
目を丸くして私を見つめる真一郎。一瞬時が止まった感覚に襲われる。が、その後、彼は、満面の笑みを浮かべていた。
「まだ、病院行って検査してないからわかんないけどね。多分居るよ。ここに。」私はお腹を指差す。
「今から病院いこう!」
私達は、散歩を取りやめて、産婦人科へ足を向けた。
妊娠5週目、予定日は11月。
昨年真一郎とみどりさんと暮らし始めた頃の事を思い出す。
まさか、翌年に自分が母親になるなんてあの頃は想像もしていなかった。
家族に報告すると、ひまわりが咲いたように喜んだ。
カフェの修行は、一時中断することになった。
それから、しばらくして、母が、出産した。雪のように白い肌の女の子だった。
名前は、奏「かなで」…自分の人生を音楽のように楽しく奏でて欲しいというふたりの想いがこめられていた。
母は、とても大切なものを神様からもらったと喜んだ。
そして、次は私が、母となる。
今はまだ修行中の身ですが、いつの日か本にしたいという夢を持っています。まだまだ未熟な文章ですがサポートして頂けたら嬉しいです。