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青春爆発野郎は茂みの中に突っ込みたいの話

大学生の頃の恥ずかしい思い出話になるのだが、私は事あるごとに茂みの中に突っ込んでいた。
茂みというのは主に公園や街中でツツジなどの植物が四角く刈られている茂みのことである。
事故などで突っ込んだのではなく、正確に言えば、自ら望んで入り込んでいた。

今思い出すと自分でもなぜそんなことをしていたのか理解に苦しむのだが、おそらく都内で手軽に1人になれる場所がそこしか無かったがゆえに取った行動なのだろうと思っている。

初めて茂みに入ったのは大学2年生頃である。

私の通っていた東京藝術大学の彫刻科には玄関に学生が作品を展示できるギャラリーがあった。
そこに友人がドローイングを展示した事があったのだが、それがとても良い作品であったため、先輩や先生方が作品をこぞって購入した事があった。
その騒ぎを見ていた私は、自分が友人の足元に及んでいないという現実があるにも関わらず、恥ずかしいことに嫉妬心を抱いた。
そして、いてもたってもいられなくなり、突如学校から作業着のまま走り出してしまった。
当時の自分に青春爆発野郎とあだ名をつけてやりたいと思う。
ちなみにここでいう作業着とは、頭に手ぬぐいを巻き、足には安全靴という格好である。


学校を出て上野公園をそのまま疾走し、まだ気持ちが収まらないので不忍池まで走り続けた。
それ以上走ると町中に出てしまい、それでは更に気持ちが落ち着かなくなってしまうと思ったため、どこか一人になれる場所を探しながら走った。
そして咄嗟に公園の茂みに隠れることにしたのだった。

周りから見たらそれまでの一連の行動は恐怖以外の何物でもないであろう。作業着のまま公園を真顔で疾走している時点でヤバイ奴である。


さらに茂みの中に入り込み体育座りをしている人間を見かけたら、心底恐怖を感じると思う。
当初居合わせた方々には大変申し訳ないと思っている。

いざ茂みの中で体育座りをしてみると、どうやら自分に気づいている人はいないようで(今思えば気づかないふりをしていたのだと思うが)、葉の間から周りの景色が見え、自分が別の世界にいるような感覚になった。

その日から、ごくたまに茂みに入り込むようになった。

酒を飲んで酔った後などに、実家近くの公園に立ち寄り、茂みに頭を突っ込んで寝るという癖がつくようになった。
これも傍から見ればかなり危ない絵面である。
しかし、当の本人は周りの景色を葉というヴェールのようなものを通して眺めているような気持ちになれて少し落ち着くことができたのである。

そんなある時、またしても酒に酔って新宿駅の近くにある茂みに頭を突っ込んで酔いを醒ましていると、突然「お姉さん、どんな仕事してるの?」と見ず知らずの男性から声を掛けられた。
身の危険を感じ一気に我に返り、走ってその場から逃げて帰宅した。

その出来事から、やはり茂みに入ったら逆に目立つので一人になれないのだと実感し(最初から気づけ!)、また他の人にとって、とても迷惑な行動であると思い反省して、茂みには入らなくなった。

不忍池を久々に散歩して、当時の事を思い出したのでまとめてみた。
もう茂みに入ることは無くなったが、未だに自分の自意識過剰はそこまで治ってはいない。
いまだ青春爆発野郎をこじらせている最中なのである。




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